ワイン&造り手の話

クリュ・ブルジョワ連盟副会長のオリヴィエ・キュヴリエ氏。

クリュ・ブルジョワ連盟副会長のオリヴィエ・キュヴリエ氏。

先日、クリュ・ブルジョワ連盟の副会長、オリヴィエ・キュヴリエ氏が来日し、表参道のビストロ「ブノワ」でプレス向けディナーが開かれました。その時にうかがったお話をしたいと思います。

 

 

クリュ・ブルジョワは、15世紀にはすでに存在していた言葉だそうです。商人や職人の町をbourg(ブール)といい、そこに住む人々をブルジョワといいました。当時、ボルドーのブルジョワは最も優れた畑を手にしていたので、これをブルジョワのクリュ、すなわちクリュ・ブルジョワと呼んだのがことの始まります。

 

 

さて、1932年に444のシャトーがクリュ・ブルジョワとして非公式にリストアップされ、そして70年後の2003年になって初めて、クリュ・ブルジョワの公式な格付けが発表されました。申請した490のシャトーのうち、格付けされたのは247シャトー。ところがこの格付けは、審査をする側にシャトーの関係者がいたため、格下げされたシャトーが訴訟を起こして無効となってしまいます。

 

<毎年改訂の厳格な審査>

キュヴリエ氏が所有するサンテステフのシャトー・ル・クロック。キュヴリエ家はサン・ジュリアン2級レオヴィル・ポワフェレのオーナーでもある。

キュヴリエ氏が所有するサンテステフのシャトー・ル・クロック。キュヴリエ家はサン・ジュリアン2級レオヴィル・ポワフェレのオーナーでもある。

そうした中、クリュ・ブルジョワの呼称を消滅させてはならないと、新たに誕生した組織がクリュ・ブルジョワ連盟です。失敗に終わった2003年の格付けの轍を踏まぬよう、外部組織による厳正な審査が行われるようになりました。しかもその審査は毎年実施され、収穫から2年後の9月に発表が行われます。

 

 

対象はメドックの8つのアペラシオン(メドック、オー・メドック、リストラック・メドック、ムーリス・アン・メドック、マルゴー、サン・ジュリアン、ポイヤック、サンテステフ)に属するすべてのシャトー。審査ではまず、60〜70のシャトーに各2種類(最上のキュヴェと並のキュヴェ)のサンプルを提供してもらい、連盟においてアペラシオンごとに基準点を定めます。これを第三者機関のヴェリタスに送ります。続いて、主に醸造家やDUAD(ボルドー大学認定テイスター資格)の有資格者で構成されたテイスターにより、応募のあったシャトーのワインが試飲され、採点が行われます。この時、テイスターには基準点が知らされていません。この点数がやはりヴェリタスに送られます。ヴェリタスはテイスターの採点値と連盟の基準点とを照らし合わせ、基準値を超えたシャトーをクリュ・ブルジョワとして認めます。

 

 

シャトーが提出したキュヴェが、たまたま何かの理由で良い点がとれなかった場合を考慮し、各シャトーは3回までサンプルを提出するチャンスがあります。ただし、クリュ・ブルジョワの認証が得られるのは、あくまでテイスターの採点値が基準点を越えたキュヴェに限られます。たとえばそのシャトーがAとB、ふたつのキュヴェを造っていて、Aは不合格だったが再試飲で提出したBは合格した場合、クリュ・ブルジョワと認められるのはBのみです。ヴェリタスはその管理も徹底的に行います。

 

 

こうして2010年に08年ヴィンテージのクリュ・ブルジョワが発表されて以来、11年に09年ヴィンテージ、12年に10年ヴィンテージ、13年に11年ヴィンテージと、大過なく続いてきました。まもなく12年ヴィンテージが発表される予定です。

 

 

11年ヴィンテージにおいてクリュ・ブルジョワに認定されたのは256シャトーで、その生産量はメドック全体の30パーセントに当たります。認定されたシャトーには、クリュ・ブルジョワのステッカーが貼られるのですが、そのステッカーは認定されたキュヴェの生産量に応じて配布されるため、シャトーは水増し等の不正が出来ません。またステッカーには二次元コードがついていて、スマートホンでスキャンすると、クリュ・ブルジョワの公式サイトにある、該当シャトーの情報ページにアクセスすることができます。

 

 <エクセプシオネル、スーペリウールも復活?>

ところで、かつてのクリュ・ブルジョワには、クリュ・ブルジョワ・エクセプシオネル、クリュ・ブルジョワ・スーペリウールという、上級カテゴリーがあったことを覚えてる方も多いでしょう。2003年はクリュ・ブルジョワの認定だけでも揉めに揉めたので、あえてさらなる争いの種を撒くことのないよう、新生クリュ・ブルジョワではこれら上級カテゴリーを廃止しました。しかし、そのためにシャス・スプリーンやプジョーなど、かつてクリュ・クラッセに匹敵すると見なされていた偉大なクリュ・ブルジョワが新しい制度から撤退してしまったのです。そこで連盟では、これらのシャトーを呼び戻すために、ふたたび階級制度を設けることを検討しているそうです。

 

 

ビストロ・ブノワのフランス産キノコのココット。

ビストロ・ブノワのフランス産キノコのココット。

この晩のディナーでは、シャトー・ポワトヴァン(メドックAC)、シャトー・シサク(オー・メドックAC)、シャトー・サランソ・デュプレ(リストラック・メドックAC)、シャトー・ビストン・ブリエット(ムーリス・アン・メドックAC)、シャトー・モングラヴェイ(マルゴーAC)、シャトー・トゥール・シウジャン(ポイヤックAC)、シャトー・ル・クロック(サンテステフAC)の7種類のワインがサービスされました。各アペラシオンから1シャトーづつのエントリーですが、ひとつ足りません。そうです。サン・ジュリアンはほとんどがクリュ・クラッセで占められているので、クリュ・ブルジョワの申請を求めるシャトーがありません。グロリアあたりが入ってもいいはずなのですが……。

 

 

ヴィンテージはすべて11年で、副会長のキュヴリエ氏によれば「早くから飲みやすい」とのこと。さらに「天候が不順だったこの年は、ブドウを厳しく選別したシャトーがクリュ・ブルジョワに認められました。このように認定制度は、消費者にヴィンテージの善し悪しを意識させることなく、毎年、品質の安定したワインであることを保証しています」とキュヴリエ氏。

 

 

マルゴーのモングラヴェイはエレガントで女性的、ポイヤックのトゥール・シウジャンはパワフルで男性的というように、アペラシオンの特徴がはっきり出ていたのも印象的でした。

 

 

価格的にみて、クリュ・クラッセが何か特別なときに開けるボルドーであれば、クリュ・ブルジョワを開けるのは週末のちょっとした贅沢でしょうか。高騰甚だしいクリュ・クラッセよりも、256のクリュ・ブルジョワの中からお気に入りを見つけ出すほうが、今どきは賢者の選択かもしれません。

(クリュ・ブルジョワ2011年については、こちらの記事もどうぞ。「リーズナブルなクリュ・ブルジョワ 〜2011年ヴィンテージは、いかに?〜」

(text & photo by Tadayuki Yanagi)

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