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人物1993年に創立した「リトライ」のテッド・レモン氏は、ワイン造りをブルゴーニュで学んだ後、いくつものドメーヌで経験を積んだことで知られています。ムルソーのギィ・ルーロでは、ブルゴーニュ初のアメリカ人栽培&醸造責任者を務めました。

IPOB (In Pursuit of Balance バランスを重視し繊細なワイン造りを目指す造り手のグループ)のメンバーでもある「リトライ」は、ぶどう栽培にバイオダイナミクスを採用しています。今回は、その考え方について語る、という異例のセミナーが開催されました。テッド・レモン氏の語りをまとめてみます(長いですが)。

 

<リトライによるバイオダイナミクスの解説>

20年以上ワインの世界にいるテッド・レモン氏は、フランス、オレゴン、そしてカリフォルニアで過ごしました。

「90年代の終わりに、何となくフラストレーションを感じたのです。畑に肥料を与えれば与えるほど、足りない気がしてきました」。

その結果、ちがう農法を探し始め、昔ながらの農法であるバイオダイナミクスに到達したわけです。現在、自社畑と契約畑合わせて80%がバイオダイナミクス、90%が有機栽培、残り10%は従来法だといいます。

「自分の方法は、多くの書籍やグループでの勉強会で得た情報をブレンドして取り入れたもので、自分のオリジナルなものではありません。日本の福岡さんの本にも大変影響を受けました」。

 

<西洋の農業の変化>

西洋の農業の方法がどのように変化し、その上でバイオダイナミクスが提唱された流れを解説してくれました。

 

狩猟採集民として始まった。当時、人類は1万種類の多様な動植物を食べて生きていた(by クロード・ブルギニヨン)。

囲いのない中で家畜を育てる遊牧民の世界が始まった。

次に種を集めて、翌年のために種を撒き。翌年また同じ場所へ戻ってくる、という生活が始まった。

これが数千年続く(このふたつの段階は少しオーバーラップしている)。

この後に、よい場所を見つけて所有する、定住するという概念が生まれた。伝統的なコミュニティ、農場、村が出来始めた。

この段階では、物々交換によって外部から得る物は最小限で、作るものも最小限にとどまっている。つまり、家族や村が存続するのに必要な分だけ、という考え方で、最大限に資源を再利用していた。栽培が多角化して、飢餓は終焉を迎えた。しかし、その村の範囲内で完結しているため、そこから入っていくものも、出ていくものも少ない。

これが、持続可能な方法だったのだろうか?という疑問はあるかもしれないが、10年間畑を休耕地にすることで、最適化することができた。つまり、畑への人間の関与は最小限だった。

17世紀に農業革命が起こり、様々な実験が始まった。

例えば、アルファルファとクローバーを育て、草食動物をその草原で飼うことで、土地が豊かになるとわかった。このアイデアから、豆植物を植えることで窒素を土壌に戻すことを、意識的に行うようになった。

こうなると、外部から入ってくるものが少し多くなる。そして、出ていく生産物も少し多くなる。ただ、囲いの中で家畜を飼い、糞を集め堆肥をつくるなど、土地の再生はやはりこの範囲内で最大限に行われた。

ただし、最終的な目標は変わらず、生き残ることが目的だった。

そしていよいよ、産業革命が起こった。

科学の力が表に出ることになった。それと同時に、人間と霊的なものの関係が断たれて、薄れてしまうことになる。

肥料は窒素・リン酸・カリとうい考え方が始まった。

他の仕事を得るために街へ行くなど、人が農場を離れていった(実は、一度はずれてしまった人の智恵を元に戻す、というのもバイオダイナミクスのひとつの要素だ)。

生産量が、品質と多様性に取って代わることになった。例えばフランスでは、19世紀末には3,600種類のリンゴが存在していたが、1950年までに200種類に減ってしまった。

 

<西洋の農業変化の結果>

数千年にわたって変わらなかったものが、ここ数百年でまるきり変えられてしまった。そして、世界大戦と核の時代を迎えた。更に工業的な、経済的な理論に基づいた農業の世界へ移行することになった。それは、最大限に入れ、大量に生産する、という方法であり、その土地を再生する、ということがなくなってしまった。

最も重要な変化は、農民が働きに出るようになったこと。目的は生き残るためではなく、お金を得るため。

結局、1984年までに、90%の人類は40種類の動植物しか食べず、5,000もの化学物質を食べるようになってしまった。

 

こういった変化に対して、1924年に、シュタイナーの理論が書籍として出版され、1930年にSir Albert Howardによる、1940年代にはJI Rodaleによる有機農法が提唱された。

 

除草剤や化学的物質によって死んでしまったような畑を見て、気持ちよく感じる人はいないでしょう。

反対に、生を感じられる、命の力を感じられる畑は、心地よく感じるはず。

バイオダイナミクスのおおもとの考え方は、目の前にある現実を見たうえで、どう行動していくのか、ということにある。

 

<ワイン造りにおけるバイオダイナミクス>

世の中には、バイオダイナミクスを信じる人がいれば、信じない人もいる。ただ、自分は試みようと考え実践している。

 

普遍的なバイオダイナミクスの方法のひとつに「調合材」がある。

動物の角や内臓、糞、鉱物、あるいはカモミールchamomile、ノコギリソウYarrow、タンポポDandelion、樫の木の樹皮Oak Bark、イラクサStinging Nettle、カノコ草Valerianなどの植物を使ったもので、500と501が特に知られている。

500番:動物の角に、動物の堆肥を入れる

501番:動物の角に、石英を入れる

調合材を準備して角を土に埋めると、季節によって変化してて、これらが霊的なものに変わっていく。私は、この霊的なものに耳を傾けられるかどうかわからないが、ただ、取り組んでみようと考えた。

そして実践している間に、このふたつを使う周期が重要だとわかった。月の満ち欠け、月の上昇や下降、月と土星の位置関係といった周期がある。アメリカでは満月の時に500番を与えるが、ニュージーランドでは月が下降する時期がよいようだ。重要なのは、リズムよく実践すること。

 

シュタイナーのアイデアは、ちょっと難しくておかしなこともあると思う。

ただし、彼の理論は畑をよくするためのもの、ということは確かで、その中心となるのが堆肥だ。腐食は炭素の供給源であり、畑に最も重要な存在。腐植土Humusの定義は「ずっとそこに残っていくもの、存在していくもの」。

また、ハーブティーは調合材を活性化させる目的で使っているのであって、ハーブティーそのものは、調合材ではない。私たちがお茶を飲むのと同じことで、畑でスプレイする。大切なのは、その場所に適した条件に合わせて、生物の多様性をより広げることにある。

 

ある例を挙げてみよう。ある日に畑を歩いていて、昆虫がいないことに気がついた。6年も手を入れてきたのに、虫がいないことに腹が立った。しかし、最後の列に到着したら、そこにはてんとう虫がたくさんいた。その場所だけにアブラムシがいたから、それを食べるてんとう虫がいた、ということに気がついた。

だから、条件さえ整っていれば、そこにあるべき昆虫が現れるのだ。

受粉してくれる動物、昆虫を呼ぶための草花、クイネスデース、キンセンカ、ローズマリー、菜の花がある環境にして、養蜂箱も準備した。

健康的な畑を整え、この中で持続可能にするための環境整備をした。

 

昆虫や動物を呼んでくれる草花。

昆虫や動物を呼んでくれる草花。

こういった農業のエゴは、利己的なエゴではなく、シュタイナー的なエゴだと考えている。農業を営む人が、しっかりと畑に向き合うことが最も大切だと思っている。意識的に向き合う。そうすると、霊的なものが畑に宿り、更に畑に耳を傾けるようになる。

畑に意識的に目を向けるということが必要。周りは見えなくても、畑だけを見ること。農家は、天体のリズム、宇宙の周期、季節の移り変わりを尊重し、祝わなければならない。春分や秋分といった周期、リズムと植物の世界は密接に関係しているから。

 

テッド・レモン氏の話を聞いて、人は多くを求めて得られるようになった結果、かえって貧しい(多様性のない)生活を送ることになり、更には目の前にある現実が見えなくなってしまったことに対し、ルドルフ・シュタイナーは警鐘を鳴らしたのかもしれないと、考えさせられました。

グラス

<リトライのワイン>

さて、長い講義の末、ようやくお待ちかねのリトライのワインについて、です。

 

「2種類のシャルドネはどちらも西側のソノマカウンティの契約畑のぶどう。1番目のハインツのほうが内陸で2番目のBAが海寄りの畑。どちらも標高は900フィート=約275m。ハインツの植樹が1982年で、BAは1992年。 醸造はほぼ同じで、瓶詰めはハインツが少し早い。2007年からハインツは有機栽培だが認証は得ていない。灌漑も少ししている。BAは2004年よりバイオダイナミクスで、ドライファーミング」。

 

シャルドネ チャールズ・ハインツ・ヴィンヤード2013 Chardonnay Charles Heintz Vineyard 2013

熟した黄色い果実の香りが主体で、ほんのりとキャラメルやパイナップルも感じる。上品で、果実もきれい。アタックはなめらかで、酸もフレッシュで高い。後味にクリームやバターの風味を感じる。少し時間をおくと、香ばしさが抜けて、フルーツが全面に出てきた。

 

シャルドネB.A. ティエリオット・ヴィンヤード2013 Chardonnay B.A. Thieriot Vineyard 2013

よりピュアな果実で、ハリがある香り。味わいも、よりなめらかで厚みがあり、ふっくらし、フレッシュな酸は次第に現れる。時間が経過すると、香りの印象そのままで、味わいはより酸やミネラル感が感じられた。

 

ピノ・ノワール ソノマ・コースト2013 Pinot Noir Sonoma Coast 2013

ソノマのピノ・ノワールのブレンド。色は明るく、ラズベリーなど小さな赤い果実のチャーミングな香り。なめらかでしっとりとした触感で、酸がきれい。

 

ピノ・ノワール サヴォイ・ヴィンヤード2012 Pinot Noir Savoy Vineyard 2012

アンダーソン・ヴァレーにある、有機栽培の契約畑。香りはまだ堅く、より凝縮感のあるラズベリーの香り。なめらかなアタックで、厚みあり、酸がフレッシュで、タンニンがとても細やか。

 

ピノ・ノワール ハーシュ・ヴィンヤード2012 Pinot Noir Hirsch Vineyard 2012

標高1200フィート=約366mにあるバイオダイナミクスの契約畑。より凝縮感のあるタンニンを思わせる香りで、味わいも香りから予想した通り、しっかりとしたタンニンがあり、深みが感じられる

 

<最後に>

最後に、テッド・レモン氏からのまとめの言葉をお伝えします。

「バイオダイナミクスを実践することで、恩恵を被っている」と言います。畑が健全な状態で保たれることが、とても重要だということです。

13年間バイオダイナミクスを行い、有機栽培よりバイオダイナミクスの方が、よりよいと感じ、有機には「何かプラスしたい」と思うことが多い。ただし、契約栽培家に「バイオダイナミクスをしてほしい」とは言わない。

「有機でしてみないか?」と聞いて有機に変更した場合、更にバイオダイナミクスに興味があれば、といった具合。ハーシュ畑の場合はそういう流れで、バイオダイナミクスへとつながった畑だという。

 

「よい農家であること、を忘れてしまってはいけない。中には、バイオダイナミクスに心酔してはいるが、農業を忘れている人もいる。反対に、バイオダイナミクスを実践しているとはいっても、ルーズな人たちもいる」。

「バイオダイナミクスの革命的な点は、私たちの全責任において食べ物や飲み物の質がつくりあげられている、というところにある。シュタイナーは、政治的にも、社会的にも、経済的にも食べ物が死んでいると警告した。命の輝きのない死んだ動植物を口に入れるということは、望ましくないと考えている」。

従来型の農業から有機へ、そしてバイオダイナミクスへ栽培方法を変えることによって、実際にワインの味わいにどのような変化をもたらすのか? という質問に対しては、明確には答えられない、という返事でしたが、それでも確実に何か感じられるものが存在するような気がしています。

(輸入元:布袋ワインズ

(text & photos by Yasuko Nagoshi)

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