池田美樹のおしゃれとワインのいい関係 〜美術館でブランチとニューヨークワインを〜
07/28
Untitled——こう名付けられた、ニューヨークにできた新しいレストランに出かけてきた。ニューヨーク在住でワインの仕事をしている友人に「まだ私も行ったことがないけれど、とても話題の店だから行ってきて!」と教えてもらった店だ。
この5月、アメリカン・アートを収集するホイットニー美術館がアップタウンからMPD(ミートパッキングディストリクト)に移転オープンしたばかり。MPDは、ニューヨーク好きの人ならもはや説明も必要ないくらい定着した呼び名で、北はチェルシー、南はウエスト・ヴィレッジに挟まれた場所にある。
名前の通り、以前は精肉工場があり、2000年初め頃まではまだ職人たちが歩いていたそうだ。その工場跡にクリエイターたちが集まり、ブティックやレストランやギャラリーをオープンさせ、廃線となっていた高架鉄道の線路・ハイラインが空中公園として整備された2009年頃から一気に活性化。人気のエリアとなった。
レンゾ・ピアノが設計した新・ホイットニー美術館は、MPDの中でも南端であるハイラインの南側入口とハドソン川の間に建てられている。その1階に美術館と同時にオープンしたのがこのレストランというわけだ。
美術館のホワイエからそのまま続くフロア、ガラス張りの高い天井。この空間そのものが現代アートの作品であるかのようにスタイリッシュ。足を踏み入れると、自分もその作品の一部になれるのではないかという心地よい錯覚を起こさせる。
開店の時刻。レセプションで予約名を告げると、室内の席がいい? テラスがいい? と聞かれた。この日の気温は既に30℃近く。エアコンの効いた室内を選ぶと、窓際の席に通される。すぐに満席になってゆく店内。
メニューは、スターター4種、1皿目、2皿目、3皿目が各5種ずつ。順に取ってコース仕立てにしてもいいし、一品だけつまんでもいい。こういう自由なメニューの組み立てを許してもらえる気楽さもいい。
この日はケールサラダ(私はこれに目がなくて、米国滞在中は、あればどこでも必ず頼んでしまう!)、ホタテのガスパチョ仕立て、フライドオイスター、チェダーチーズのマッシュポテト、アーティチョークとブラックオリーブのフェットチーネ、ポークソーセージを頼んでみた。
さて、ワインは何にしようか、とメニューから顔を上げてぐるりと見渡すと…なんと、そこにいる人たちが飲んでいたのはロゼ! ロゼ! ロゼ! すべての人たちがロゼのグラスを持つ光景に圧倒され、そうだ、ニューヨークでは夏はロゼを飲むのが定番だった、と思い出した。この時期、ワインショップの店頭もロゼ一色に染められる。
そう、ここはニューヨーク・マンハッタン。それならば私もニューヨークワインの作法にのっとって、と、ロングアイランド・ハンプトンのワイナリーChanning daughtersのロゼをオーダーすることにした。
続いて、ロングアイランド・ノースフォークSouthold Farm + Cellarのカベルネフラン。そして、食後にChanning daughtersのベルモット! このワイナリーでは季節をイメージしたベルモットをつくっており、今回いただいたのは初夏をイメージしたものだった。自社ファームで育てたブドウに加え、春から秋までの季節ごとに12〜14種類の植物を入れてハチミツを加えて作っている。その食用植物もハチミツもすべてワイナリーの近くで栽培されているものなのだとか。「ローカル」に徹底的にこだわるニューヨークのワイナリーらしい。
気がつくと、ワイングラスを傾けながら延々とおしゃべりを続ける老婦人2人、熟年のご夫婦、若いカップルなどが思い思いに楽しんでいる。入口のカウンターではバーとして利用する1人客も。
ああ、レストランをこういう風に自由に楽しんでいいんだ。何かをつまんでおしゃべりしたって、コース料理を楽しんだって、もちろんワインを飲むだけだって!
いくらカジュアルなファイン・ダイニングだとしても、きちんとコースに仕立てて頼まなきゃ、ワインも合わせなきゃ、とつい構えてしまいがちな私なのだけれど、この店の日曜の昼下がりを体験して、改めて「レストランは自分が楽しむためにある」ということを思い出した。
自分のスタイルで楽しめばいいんだ。そう、だって私自身もそのUntitled——無題と名付けられた「作品」の一部なのだから。
(text & photos by Miki Ikeda)
カテゴリー | ファインダイニング | |
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店名 | Untitled | |
URL | ホームページ | |
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