ブルゴーニュ道・入門 /シャブリ編 〜ブルゴーニュのエキスパート 柳忠之さんに聞く〜
07/01
暑い季節に入ってしまったので、赤ワイン産地はちょっとお休み。白ワインの産地をフォーカスすることにしました。まずは、シャブリです! 一言で「シャブリ」と言っても、ものによって味わいは随分ちがう、ということにお気づきの方は多いのではないかと思いますが、じゃあ、どうして違うのか? というところを聞いてみました。
<ブルゴーニュの中のシャブリの位置づけ>
— まず、ブルゴーニュの中でのシャブリの位置づけを、改めて見てみましょうか。シャブリは、ブルゴーニュの白というより、やっぱり「シャブリ」という存在感がありますよね。
柳 そうですね〜。共通項は、シャルドネを使っていることぐらいでしょうか。
ー ブルゴーニュの中心地のボーヌから、随分離れて北部にありますからね。
柳 そう、県も違うんですよね。ボーヌはコート・ドール県にあるけれど、シャブリはヨンヌ県にある。むしろ、シャンパーニュ地方南部のオーブ県のほうが近いぐらいで、キンメリジャン土壌というところもオーブと同じ。まあ、オーブ県はまたシャンパーニュ地方の中でも特殊な位置づけですけれどね。
— そうですね。シャブリもオーブも、それぞれの地方のど真ん中の性格ではないですね。
柳 ブルゴーニュ地方の中でも、シャブリは明らかにコート・ドールのムルソー、シャサーニュ・モンラッシェ、ピュリニー・モンラッシェなどとはまったく異なる性質だということです。
ー その要因を挙げてみていただけますか?
柳 シャブリの土壌はキンメリジャンの泥灰土、つまりマール土壌から生まれます。だけれども、コート・ドールにマールは少ない。シャブリのキンメリジャン土壌にも、赤っぽい粘土系のところと、白っぽいマール系のところがあるけれど、牡蠣の化石を含んだマール系土壌のほうがミネラリーなワインができあがります。つまり、英語でいう「オステアー」で長期熟成に耐えるワインが多い。
— 「厳格な」ワイン、ということですね。白ワインの場合は、果実味が豊かでソフトで飲みやすいタイプではなくて、酸やミネラルが豊富で堅い、というニュアンスですね。
柳 シャブリは多かれ少なかれ、北の産地の冷涼な雰囲気、ミネラル感、線の細さ、といったところは、コート・ドールの白ワインとは趣を異にしますよね。ただ、その中でクリマ、畑によって差があるのは、コート・ドールと同じことです。
—造り手さんによっても違うのも、同じ。
柳 そうですね。様々ですね。例えば、ラヴノーやドーヴィサのように小樽を使うところもあるので、造り手のとる手法によってもニュアンスの違いがでてきます。
— 今のシャブリの造りに、何か傾向はありますか?
柳 一昔前は、ステンレス派と樽発酵・樽熟成派、どちらかに偏っていた造り手が多かったと思います。でも、今は両方をいい塩梅に使い分ける造り手が増えたように思いますね。
ー 具体例は何かありますか?
柳 ジャン=ポール・ドロアンは、息子の代になってから、ステンレスも使うようになった。反対にクリスチャン・モローは、息子のファビアンになって樽も使うようになりました。
— その代替わりは、およそいつ頃のことでしょうか?
柳 う〜ん。2000年代になってからじゃないでしょうかね。そもそも、昔はみんな小樽で発酵・熟成させていたわけで、1970年代にステンレスが入ってきたけれど、頑なに樽を使うという造り手が残っていたんですよね。
— ということは、シャンパーニュの流れと似ていますね。シャンパーニュも、ステンレスタンクが導入されて大半がステンレスタンクを使い始めたけれど、いくつかの造り手は樽をそのまま使い続けた、と。あ、もちろん、市場を見て敢えて樽を使い始めた造り手もありますけれどね。シャブリでは、今でもステンレスタンクのほうが多いですか?
柳 そうですね、今でもステンレスが主流ですね。
— 今回のジャン・クロード・ベッサンは、ピュアできれいな造りですね。
柳 樽使いがうまいですね。すべて樽発酵。モンマンは6か月樽熟成した後に、12か月ステンレスタンクでも熟成。フルショームとヴァルミュールは、樽発酵の後、18か月樽熟成。
ー すべて古樽でしょうか?
柳 ほぼ古樽だと思いますね。新樽は1割程度。いずれにしても樽は香りなどを加えるためではなく、あくまでも空気との接触が目的ですからね。
— ミクロ・オキシジェネーション、ですね。
<畑による違い>
— では、今度は畑の違いについて教えてください。
柳 シャブリ地方のど真ん中にシャブリ村があり、ぶどう畑は東と西に分かれています。今回選んだふたつの1級畑のうち、フルショームはスラン川の右岸に、モンマンは左岸にあります。
ー フルショームのある右岸は東側で、モンマンのある左岸は西側。
柳 グラン・クリュは右岸にありますね。そのグラン・クリュが集まっている丘よりも、谷を挟んで北側にある丘にフルショームがあります。
— モンマンは、シャブリ村を挟んで反対側の丘ですね。
柳 モンマンがある丘には、レ・フォレとビュトーという畑もあるんですが、ここでも同じように「モンマン」と名乗れるんですよ。
ー あ〜、モンマンのほうが有名だから。
柳 モンマンの丘のすぐ北側にあるヴァイヨンなんて、もっとすごい。たくさんの畑がすべてヴァイヨンを名乗れるんです。
— 他に7つの畑名が書いてありますね。つまり、大きなヴァイヨンと小さなヴァイヨン、大きなモンマンと小さなモンマンがあるということになりますね。それで、大きなモンマンと小さなモンマンでは味は違うんですか?
柳 違う違う。この地図をよく見ると、等高線が引いてあるからわかる。南東向きのモンマンと真南を向いたレ・フォレでは、やっぱり味わいが違う。特にビュトーというのは奥まっているので、影になる可能性が高い。とはいっても、ラヴノーのビュトーとか、ドーヴィサのレ・フォレとか、素晴らしいですけどね。
— 自信があるところは、「モンマン」の名に頼らないのかも? 今回のジャン・クロード・ベッサンのモンマンは、小さなモンマンですか?
柳 そうです、そうです。
ー 東側のフルショームの丘も、同じようなことですね?
柳 そうです。フルショームも、同じ丘にあるロム・モールも、向きの違うコート・ド・フォントネーも、谷を挟んだヴォー・ロランも、全部フルショームを名乗れる。だから、性格が随分違う。
ー なるほど〜、こうやってじっくり見ると全然立地条件が違いますね。
柳 西向き斜面が本当のフルショーム。コート・ド・フォントネーは南東向き。基本的にフルショームは西南西向きの畑だから、西日が当たるので、よく熟す。
— それでジャン・クロード・ベッサンのフルショームも、一番果実が熟した丸みのあるニュアンスが出ているんですね。
柳 アルコール度数も13.5%ありますね。このフルショームは、本当のフルショームに若干ロム・モールのぶどうが混ざっているらしいですよ。
— でも、ロム・モールもおよそ向きは同じですからね。
柳 それで、一般的には右岸のほうがパワフルで男性的、左岸のクリマのほうがエレガントで女性的、と言われています。でも、実際にはそんなに簡単ではないと思いますけれどね。
— そうなる要因は何だと思いますか?
柳 土壌の影響ももちろんあると思いますが、より顕著なのは、日当りの影響ではないかと。右岸のほうが日当りがよく、特にグラン・クリュは真南を向いていて、遮るものが何もないですから。ただ、今回のグラン・クリュのヴァルミュールは、相当ミネラルが多いですよね。これには、日当りと土壌の関係がどちらも複雑に絡みあっているのだと思います。
ー グラン・クリュの中でも、畑によって性格が違いますが、ヴァルミュールはどういう位置づけでしょうか。
柳 ヴァルミュールは、レ・クロとグルヌイユの間にある畑。ヴァルミュールは逆三角形の形をしているので、畑のほとんどが標高が高い位置にあります。でも、グルヌイユの畑はすべては標高が低い位置にあるので、比較して飲むと重たい感じがよくわかります。レ・クロは、下にも上にも両方あります。クリスチャン・モローは上の区画からはミネラリーなレ・クロを造り、下の区画からは別銘柄のクロ・デ・ゾスピスを造っているのですが、やっぱりこちらは重量感がある。
— そうすると、それぞれの造り手がどの部分に畑を持っているのかで、同じ畑名が書かれていても個性は異なる、っていうことになりますよね。これはやっぱり、個別に聞かないとわからないんですか?
柳 聞かないとわからないですね〜。
— そうですか〜。じゃあ、シャブリにはまったら、そのあたりまで追求すると面白そうですね。そういえば、現地でシャブリと合わせる典型的なお料理って、何でしょう? やっぱり牡蠣ですかね?
柳 牡蠣、食べますね〜。
— 生ですか?
柳 いや、海は遠いし。ポシェした牡蠣が多いですよね。
— ポシェ?
柳 沸騰しない温度で火を通すこと。地元のレストランで食べたのは、クリーミーなスープの中に半生状態の牡蠣が入ってました。
— 美味しそうですね〜。それはプルミエ・クリュ以上のシャブリがいいですね〜!
シャブリ プルミエ・クリュ モンマン 2012 <ジャン=クロード・ベッサン>
Chablis Premier Cru Montmains 2012 <Jean-Claude BESSIN>
ハチミツ、熟したリンゴと桃。粘性を感じるハリのある香り。時間と共に柔らかくなっていく。味わいは、なめらかなアタックで、酸とミネラルがとても豊か。キリッとしたフレッシュな余韻が心地よく続く。
シャブリ プルミエ・クリュ ラ・フルショーム 2012 <ジャン=クロード・ベッサン>
Chablis Premier Cru La Fourchaume 2012 <Jean-Claude BESSIN>
よりミツの多いリンゴなど、よく熟した白い果実の香りが豊かで、ふくよかさも感じられる華やかな香り。味わいも、よりなめらかなアタックで、少し丸みも。厚み、なめらかさが心地よく、酸とミネラルもとてもバきれいにランスしている。
シャブリ グラン・クリュ ヴァルミュール 2012 <ジャン=クロード・ベッサン>
Chablis Grand Cru Valmur 2012 <Jean-Claude BESSIN>
厚みある香り。熟度も高い。粘性さえ感じるほどの、よく熟した白桃を思わせる香り。とてもなめらかなアタックながら、全体的にまだ堅い。酸とミネラルがカッチリとしたバックボーンを形成して、まだまだ若い状態。
(輸入元:ラック・コーポレーション)
(text & photos by Yasuko Nagoshi)
最近のコメント