ワイン&造り手の話

日本から最も遠いワイン産地は、南アフリカ? それともチリ? いずれにしても、どちらも直行便のない場所です。今年で創業330周年という「ボッシェンダル」から、白とスパークリングワインを担当する醸造家のリゼル・ガーベルさんが初来日し、彼女自慢の銘柄を味見させてもらいました。

 

そう、ボッシェンダルは南アで2番目に古いワイナリーなのですが、その違いは「わずか2か月だけ」だといいます。美しい風景画像を見せてもらいました。残念ながらまだ訪ねたことがありませんが、空気が澄んでいる印象です。

ボッシェンダルは大手で、総面積は2,200ha、ぶどう畑は200haも所有していますが、ステレンボッシュを中心とした地域から、更に必要なぶどうも調達しています。

 

もともとは、小さな農家やワイナリーがたくさん存在した森と谷(ボッシュ&デール)で、シル・ジョン・ローズがそれらをまとめて大きなワイナリーにしたのが始まりでした。20世紀前半で世界で最も裕福な人の一人に数えられる人物だったようで、ジンバブエにローデシアという国までつくったといいます。会社だとかそういう単位ではなくて、「国」をつくる、というのですから驚きます!

 

まずは、ボッシェンダルならでは、南アならではの情報を。

<精密農法>

畑では精密農法を採用し、温度分布図を作成してどの区画にどの品種を植えるのがよいかなど、分析しながら進めています。

他社の畑からぶどうを購入する時にも使うようです。

「赤外線で上空からの画像を撮ります。この画像の緑色の中のぶどうだけを買いつけるのです。赤い丸の部分は、間もなくぶどうにストレスがかかる、ということがわかるから買いません。緑色のほうがよい成熟をするとわかっているので」と、結構慎重でシビアな分析です。

 

<2015年ヴィンテージ>

南アフリカは南半球なので、既に今年の収穫は終了しています。

「2015年は、素晴らしい年でした! かつてないほどの出来でしたよ。自社畑も契約農家も両方見ている責任者も、とても情熱的に取り組んでいて、細かい指示も出しているので、うまくいっています。今年の収穫は、2014年よりも2週間から4週間も早く始まりました」。

 

<MCC/メソッド・キャップ・クラシック/Methode Cap Classique>

MCCという呼称をご存知でしょうか? 南アフリカで、瓶内二次発酵をして瓶内熟成をさせて造られたスパークリングワインをこう呼んでいます。最低瓶内熟成は9か月と定められていますが、ボッシェンダルでは「ノン・ヴィンテージで最低12か月、ヴィンテージで36か月」と決めているそうです。

 

醸造家のリゼル・ガーベルさん

醸造家のリゼル・ガーベルさん

さて、リゼルさん作のスパークリングワインや、いかに!

 

ブリュット・ロゼNV

2007年から造り始めた最も新しい泡もので、ピノ・ノワールとシャルドネのブレンド。リザーヴワインは10〜15%。ドザージュ10g/l。

「エレガントでフルーティーなワインを目指しています。でも、記憶に残るものを造りたい」というのがリゼルさんの願いです。

淡いピンク色で、華やかでしっとりとした香り。花ベリー系果実、白い果実といった、魅力的な香りです。フレッシュで、ほんのり甘く感じられ、チャーミングでなめらか、アプローチしやすい味わいなので、日常の食卓で楽しめそうです。

 

グラン・キュヴェ・ブリュット2009(参考商品)

ピノ・ノワールとシャルドネのブレンド。6,000〜7,000本の限定商品で、この2009年の次は2013年に。ドザージュ8g/l。2014年末にデゴルジュマン(36か月瓶熟成をした後、デゴルジュマンまでの間は垂直にしておき澱の影響を最小限)。

こちらはきれいな明るい黄金色で、ほんのりトースト、パイナップルや黄桃などの熟した黄色い果実、リンゴのコンポートといった甘い香りがします。なめらかでふっくらとした食感で、酸も比較的ソフト。まろやかな味わいです。

boschendalbottle

<白ワイン>

レイチェルズ・シュナン・ブラン2014

南アフリカで最も多く栽培されている品種が、このシュナン・ブランです。ボッシェンダルでも古い畑があって、25%のシュナンは樹齢25年以上だといいます。「一時期、経済的に割に合わないとシュナンをやめようとしていたのですが、ボッシェンダルでは危機感をもって継続できるように工夫しました」。この国の伝統的な品種ですから、いい形の残ってほしいと思います。

シュナン・ブラン主体で、ヴィオニエをブレンド。「ヴィオニエは、パイナップルやスパイシーさを、ぐっと持ち上げてくれる品種」。

アロマティックでドライな香り。フレッシュな味わいで、ほんのり甘味が感じられ、ほろ苦い印象。点心や生春巻きなどと美味しそうです。1000円代と価格も手頃ですね。

 

シャルドネ ピノ・ノワール2014

いちおう白ワインという括りのようですが、淡いピンク色をしています。「ホールバンチプレスにするから、ロゼと間違われるのです。熟したピノ・ノワールなので色が出てしまうのです」と、リゼルさん。ロゼとして売ってもよいかもしれませんね。シャルドネの20%だけフレンチオークで発酵。

淡いピンクで、香りはまだ閉じ気味です。フレッシュでなめらかで、ほんのりと甘くさえ感じる豊かな果実味があり、アプリコットやベリー系の果実の香りが口中で広がります。クリーミーな口当たりで、アペリティフや食中酒によさそうです。

 

<スペシャル・キュヴェのエルギン・ヴァレーと330年期年ブレンド>

エルギン・ヴァレーのボトル(これはピノ・ノワール)と、ラベルのない330周年記念ボトル(右)

エルギン・ヴァレーのボトル(これはピノ・ノワール)と、ラベルのない330周年記念ボトル(右)

海にほど近い「エルギン・ヴァレー」は、冷涼な産地で注目されているようです。「りんご栽培家との畑の取り合いをしいます。夜の気温が低いことがリンゴの色を赤くするのに好条件なので。だから、りんご栽培によい場所は、ぶどうにも適した場所なのです」といいます。エルギン・ヴァレーのシリーズ(ピノ・ノワールもある)は、8年前から導入したようです。

 

エルギン シャルドネ2013

ダイレクト・プレスの後48時間澱下げし、タンク内で自然に発酵。途中で樽に移して、そのまま12か月シュール・リー。マロラクティックは自然に、半分ほど。

バニラや熟した黄色い果実、バターなどのクリーミーな香りで、酸もきれいなバランスよい味わい。素敵な白でした。

 

330周年記念ボトル

ラベルがまだできていないので蝋封がしてあるだけです。そう、まだリリース前のボトルを持ってきてくれました。

2013年ヴィンテージで、とても濃い色合いです。若く閉じ気味ながら、スパイシーで香りも濃く、熟した果実の香りがじわじわと出てくる感じ。なめらかなアタックで厚みあがあり、とてもスパイシーで、タンニンもとても細やかで豊か。ボリュームもあるけれど暑すぎない気候のもとで造られた、というイメージで、カリフォルニアの上品系カベルネ・ブレンドに近い印象です。

これは赤ワインなので、リゼルさんの作品ではありませんけれどね。

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

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