ワイン&造り手の話

<独立と伝統品種の復活>

ピエモンテといえば赤ワインのイメージが強いですが、最初にサービスされたのは「アナス・チェッタ」という名の白ワイン。時間と共に香りが高くなり、だんだん魅力的になっていきます。「エルヴィオ・コーニョは、このブドウ品種の再生の父なんだ」と、オーナーのヴァルテール・フィッソーレ氏は誇らしげに説明をしてくれました。

「アロマティックで、アカシアの花やセージ、ローズマリー、ハチミツのような、地中海の香りがするでしょう? 4、5年経つと、もっとよくなるよ」。

確かに、ハチミツやレモンピール、オレンジピールのような香りに加えて、少し清涼感を伴うハーブ系の香りも出てくるのでした。ゆっくり飲むのをお薦めします。

 

ただ、このヴァルテールさんは、オーナーとして紹介されたのですが、姓がコーニョではありませんよね。なぜかというと、彼は、エルヴィオ・コーニョの娘のナディアさんの旦那さんだったのです。

コーニョ家は、ナディア&ヴァルテール夫妻の代でワイン造りを始めて4代目になります。ナディアの父で3代目のエルヴィオが、1990年に自分の名前でワイナリーを立ち上げたのです。ちなみに、それまでバローロ・ブルナーテでも知られるマルカリーニで醸造を担当していました。

 

バローロの中で南西部にあたるノヴェッロ地区に、15ヘクタールの畑と共に、今ではユネスコ指定の文化財に認定されて「自由には手を入れられない」という伝統ある館を所有しています。

 

<噂のバローロ>

エルヴィオ・コーニョでは、バルベラ・ダルバやランゲ・ネッビオーロといった手軽な赤ワイン、それにバルバレスコも造っていますが、やはり最も注目したいのはバローロです。ガンベロ・ロッソはもちろんのこと、各国のワイン評価誌でも高く評価されているアイテムばかりです。

 

4種類造っているバローロのうち、3種類を味見させてもらいました。

バローロ・カッシーナ・ヌオーヴァ2010は、比較的若い樹(15〜20年)のブドウを使ったもので「バローロのエントリー・ラインとして造っている」といいます。花やスパイス、それに野性的な香りもして、今でも美味しく飲めますが、早めに抜栓したほうがよさそうです。

 

バローロ・ラヴェーラ2010は、ふたつの村の間にあるクリュの名前で、「石灰質で土の表面が真っ白。だから、エレガントなバローロになる」。まだまだ香りは閉じこもっています。上品で優雅な味わいですが、タンニンもたっぷりありますから、ゆっくりゆっくり飲みたいですね。

ヴァルテール曰く「エレガント且つパワフル」なのは、ここに植えられているネッビオーロは、60%が上品に仕上がるランピアで、40%がボディの厚いタイプになるミケだからだ、と説明してくれました。ブルゴーニュのワインも好きらしく「シャンボール・ミュジニーのようでしょう?」と、嬉しそうにしていました。はい、もちろんそのニュアンス、わかりますよ。

 

バローロ・ブリッコ・ペルニーチェ2009は、樹齢45年の古樹が植わる丘の頂の畑から。ここにはヤマウズラ(ペルニーチェ)が巣をつくっているそうです。

2ヘクタールある畑から、3,200本しか造らず、大樽での熟成は5年間という長きにわたります。この畑に植えられるネッビオーロはすべてランピアです。

まだ香りは開いていないとはいえ、野生の小さな花のような上品な香りがして、生き生きとした、そして豊かなタンニンが感じられるのですが、酸はソフトに感じられます。これは、この場所の微気候が特別で、周りより少し気温が高いからだといいます。

他のワインももちろん魅力的だったのですが、このブリッコ・ペルニーチェを飲むと、それまでのワインの印象を忘れてしまいそうなほど、とっても素敵なオーラを醸し出すワインでした。

 

ヴァルテールさんに念のために聞いてみたのですが「今までずっと伝統的な造りを変えたことはない」上に、酵母も自然な酵母しか使っていないという、頑固な造り手のひとつにだとわかりました。そして、白ワインでも赤ワインでも、収穫後から酸化しないように相当気を遣っているようなので、どれも抜栓してから開いてくるのに時間がかかる、という印象です。ですから、すぐに飲みたい方々には、早めにコルクを抜いておいたりデキャンタしてみたり、という試みをお薦めします。

 

小さな造り手さんですが、芯のある頑固者。バローロの土地柄にもあっていて、いいですね。

 

<付記>

ナスチェッタ(エルヴィオ・コーニョのラベルにはアナス・チェッタAnas-Cettaと記載。Nascettaと記しているワイナリーもあります)というブドウ品種は、1994年にエルヴィオ・コーニョが試験醸造をするまで、ピエモンテで途絶えていた伝統品種だった。18世紀にはポピュラーで、かつてはヴェルメンティーノやモスカート・ビアンコとブレンドして甘口ワインを造っていたようだが、現在ではほぼ単一品種で辛口タイプに造られている。サルデーニャ島が原産でヴェルメンティーノやナスコと関連がありそうだ、と言われ、セミ・アロマティック品種に分類されている。現在、ランゲ全体で15 〜20ヘクタールも栽培され、増加傾向にある。コーニョでは2ヘクタール。2000年からランゲ・ナスチェッタDOCに認可された。これもエルヴィオ・コーニョの尽力による。

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

カテゴリー 赤ワイン
ワイン名 バローロ・ブリッコ・ペルニーチェBarolo Bricco Pernice
生産者名 エルヴィオ・コーニョ Elvio Cogno
生産年 2009
産地 イタリア/ピエモンテ
主要ブドウ品種 ネッビオーロ
希望小売価格 12,500円(本体価格)
輸入元/販売店 エノテカ
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