ワイン&造り手の話

南オーストラリアの産地、クレア・ヴァレーの巨匠と呼ばれる「ジム・バリー」の3代目サム・バリー氏が来日しました。それを記念して、なんと、貴重な「ジ・アーマー」のヴァーティカル・テイスティングに参加できるという、幸運に恵まれました。グランジやヒル・オブ・グレイスと並び称される銘柄ですがら、少々緊張しました(笑)。

1994年から2010年まで5ヴィンテージ。その間にみられるスタイルの変化についてもお伝えします。

 

<ジム・バリーの概略>

サム・バリー氏は「ジム・バリー」の3代目です。父のピーターさんが総指揮をとり、兄のトムさんがワイン造りを担当し、妹さんもこの事業に参画しているようです。祖父のジム・バリー氏は、南オーストラリアのクレア・ヴァレーで1947年にワイン造りを始めた、とても有名な人物です。

 

「ローズワーシー大学で学んだ後、ワイン造りをクレア・ヴァレーで行った初めての人だったようです。つまり経験からだけではなく、科学的な裏付けをもってワイン造り始めた最初の人だったのです」と、サムは誇らしげです。

 

1959年に、ジム&ナンシー・バレー夫妻はクレア北部の郊外で土地を購入し、ワイナリー設立したのが1973年、自らの初ヴィンテージは1974年となりました。今回試飲させてもらったジ・アーマーの畑は、1964年に購入して1968年に植樹したものです。

当時は、買い付けたぶどうでワイン造りを行うのが主流だったにも関わらず、ジム・バリーは自社畑にこだわり、合計250haをクレア内に所有することになりました。

 

というのも、ワイン造りを開始してから20年間クレアの協同組合で仕事をしていたことが影響しているようです。クレア・ヴァレーの様々な地区からぶどうが運ばれてきます。それを使って仕込むわけですから、どこでどのぐらいの質のぶどうができているのか、すべて彼の頭の中に入っていたのです。

 

3代目のサム・バリーさんとフィアンセのミリーさん。

3代目のサム・バリーさんとフィアンセのミリーさん。

<ジ・アーマーの畑>

1968年にジム・バリーによって植樹されたジ・アーマーの畑は、およそ3haです。砂と小石が多くとても痩せた土壌で、降雨量が少ないのでとてもドライな環境にあります。今でもその当時のままの古い樹で、まだフィロキセラが到達していないので台木に接ぎ木されることなく、自根のまま。小粒で果皮が厚く、凝縮感のあるぶどうが収穫できるので、糖分は上がりますが酸も充分に保ったままで収穫できるといいます。

 

ご存知のように、クレア・ヴァレーはリースリングでも有名な産地です。

「リースリングは涼しさがないと育てられない品種です。リースリングもシラーズも、どちらも栽培できるのは、ここクレアとエデン・ヴァレーしかないでしょう」。だから「バロッサのシラーズは力強くマスキュランなのに対し、クレアのシラーズは、よりエレガントでフェミニンなスタイルです」。

 

1985年が偉大な「ジ・アーマー・シラーズ」の誕生年となりますが、それまではこのシラーズからはヴィンテージ・ポート的な酒精強化ワインを造っていたようです。1986年、2003年、2011年は条件が悪く造っていませんが、他のヴィンテージはすべて造りました。

 

手摘みで収穫されたぶどうは、最大の注意を払われワインになります。小さな発酵槽で20度で、果帽を液体中に落とし込んで1週間から20日間、ゆっくりと丁寧なエクストラクトをしていきます。

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<ジ・アーマー垂直試飲でわかるスタイルの変化>

最新ヴィンテージの2010年から、熟成感あふれる1994年まで、5つのヴィンテージを試飲して、スタイルが変化していると気がつきました。力強いタイプからエレガントを求めるスタイルへとの変化について、サムさんにいくつか確認できました。

 

1)収穫期を今までより早めに行い、より穏やかなアルコール度数でより高い酸と高い香りを保てるようにしている。2006年までは遅めに収穫する傾向にあったが、今では2週間ほど早くしている。

2)1990年代はアメリカンオークの小樽で熟成させていた、しかも1社から購入していたが、今では12社から購入し、フレンチオークの樽が増え、サイズも大きめになってきている。

すべて新樽、ということには変わりはないが、このように変化している。

1994/ 100%アメリカンオークで、14〜17か月熟成。

1999/ 100%近くアメリカンオークで、17〜18か月熟成。

2006/ アメリカンオークとフレンチオーク50:50で、17か月熟成。

2009/ アメリカンオークとフレンチオーク50:50で、18か月熟成。

2010/ アメリカンオーク20%とフレンチオーク80%で、14か月熟成。

「もともと個性の強いぶどうが得られ、香りも高いので、新樽でバランスをとる、というスタンスです。ただ、フレンチオークのほうがよりエレガントで、樽の個性があまりワインに影響しないようにし始めました。顧客の好みの変化も、理由のひとつです」。

 

以下、試飲した各ヴィンテージの印象を記しておきます(「」内はサムのコメント)。

2010年 まだ閉じた香りで、ブルーベリー、ブラックベリー、プラムが徐々に香り。なめらかな口当たりで酸がきれい。ボリュームもあるが上品で、タンニンは少し収れん性を感じる程度で表に出ない。「80年代のような、フレッシュでアルコール度数があまり高くないタイプに戻った」。

2009年 スパイスやチェリーのエキス、チョコレートが香る。ポート的な粘性も感じるが、なめらかで酸がとても綺麗にバランスしている。ハリのある、心地よい触感。こちらも上品な印象。「今日の中では、この年からフェミニンなスタイルに。涼しさも感じられる」。

2006年 ブラック・チョコレート、ポート、プラム、スパイスのような、力強い凝縮した香り。なめらかなアタックで、ボリューム感があり、厚みがあり、力強い。まだ若々しい状態。「今日の中で、最も力強い。凝縮した、過熟手前のぶどうのニュアンス」。

1999年 黒いスパイス、プラム系の果実の香り。味わいは、練れてしっとりとした触感になりつつ、ボリューム感があり、とてもよいバランス。タンニンはとても細やか。「クラシックなクレアらしさが出ている」。

1994年 スパイス、チョコレート・パウダー、プラム、チェリー、デーツなどのドライフルーツ、獣、ポートなど熟成感にあふれる香り。なめらかで、まだボリューム感が感じられる。「第2アロマが出てきた。今ピークで、これから4年ぐらい楽しめる」。

 

そして「ミンティーな香りはクレア・ヴァレーのシラーズの特徴のひとつです」というサムは、その理由をこう説明してくれました。

「ユーカリの樹が畑の周りにたくさん植わっています。ユーカリのオイルが空気中に浮遊して、ぶどうの果皮が夏の間にそれを吸収するので、醸造に果皮も使用する赤ワイン中に取り込むことになるのです」。

特に熟成したシラーズに、よく感じられる香りだといいます。

(輸入元:ジェロボーム)

(text & photos by Yasuko Nagoshi)

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