ワイン&造り手の話

「ジャック・セロス」のアンセルム・セロス。師と仰ぐ小規模生産者も多い。

「RM」とか「レコルタン・マニピュアン」*という言葉がワイン好きの間で話題になり始めたのはいつ頃だったでしょうか。その中で、まず脚光を浴びたのがこの「ジャック・セロス」。生きながらにして既に伝説的なストーリーを作ってしまったアンセルム・セロス氏は、何を意図して独自性に溢れる造りをしているのか。いくつか謎を解くヒントになるような話しを聞いてきました。

 

「ジャック・セロス」の銘柄は、どれを飲んでも個性的でとても印象深い香りと味わいです。共通して感じることは、シャンパーニュでありながら、セロスを飲む時にはなぜか白ワインと対峙しているような気持ちにさせることではないでしょうか。それは恐らく、熟成期間がとても長いことと(樽熟成にしても瓶熟成にしても)、ドザージュ(糖分調整)が極少だからなのではないかと想像します。1980年代に父ジャックから継承した現在の当主アンセルム・セロスが、ブルゴーニュでワイン造りを学んだことも影響しているのでしょう。

<ポイント1:自然について>

「ジャック・セロス」は「自然派」という言い方をされることがあります。確かに一時期は「ビオディナミ」という有機栽培を超えた自然に従う方法をとっていた時期があったそうですが、今は少々異なります。「2002年に福岡さん**に会いに行って、彼の考え方にとても共鳴したよ」と、喜々として語ります。「ブドウ畑に限らずそれぞれの場所によって、気候、土壌、標高や向きが異なり、そこに生きる鳥もバクテリアもすべて異なる。すべてものもが均整を保ちながら生命活動を行っている。その生態系の中で、特別な自生の酵母を生み出している。だから、自然酵母を使うことを含めて基本的にはビオディナミと同じ方向性だけれども、その枠や規定にはまりきってしまうのではなく、より自然に忠実に行動しようと考えた」というわけです。

 

<ポイント2:酸化熟成について>

樽熟成も瓶内二次発酵後の瓶熟成も長く施すため、リリースされる時には熟成香がたっぷりなのも「ジャック・セロス」の特徴のひとつです。それは、アンセルムの「酸化熟成は老化ではなく、発展だ」という考え方に基づいています。「パルメザンチーズも3ヶ月だけの熟成ではつまらない。生ハムだって、1年では本当の旨みが出てこない。私が樽の中でワインを熟成させることで出したい個性はふたつあるんだ。ひとつは親から得た個性、つまりその畑そのものの個性。もうひとつは、その年の個性。自生の酵母で自然に発酵させ、イースターまではとにかく何も手を加えない。マロラクティック発酵***にしても、私がするしないを決めるのではなく、起こる時には起こる。自然に任せている」。訪問したのはイースター(今年は3月31日だった)を既に過ぎていましたが、樽からの「香り」で判断してまだ静置したままにしているそうです。それに、ひとつだけ自然にマロラクティック発酵が起こっている樽が実際にありました。樽の中で10ヶ月から12ヶ月の熟成を経た段階で、ボトルに詰めて次の段階へ進ませるか、リザーヴ・ワイン用に保管するかを決めるそうです。

さて、今年の秋にリリース予定の3つの村の区画毎のキュヴェ「リュー・ディ」シリーズの「ブラン・ド・ブラン」で、クラマン、アヴィーズ、ル・メニルの違いを見させてもらいました。これらはいずれも2004年、2005年、2006年のブレンドですから7年以上の熟成を経ていることになります。

 

「”シュマン・ド・シャロン” ア・クラマン エクストラ・ブリュット」は、とてもエレガントで上品な姿でしたが、ご本人の言葉を借りれば「まだ硬くて酸も強い」。

「”レ・シャントルレーヌ” ア・アヴィーズ エクストラ・ブリュット」は、香りが華やかでオレンジピールやカラメルのニュアンスも感じられ、味わいはとてもなめらか。「均整がとれている」と、納得の表情です。

「”レ・キャレル” オー・メニル・シュール・オジェ エクストラ・ブリュット」は、タイトで若々しく、バックボーンがとても強く、メニル独特のミネラル感をアンセルムは「ストレートでメタリック」と表現していました。

それぞれの畑の個性を最大限に引き出す方法として選んだのが、自然に従った栽培方法であり、手をかけない醸造、長い樽熟成と瓶熟成、複数年のブレンドなのではないでしょうか。

 

もうひとつ付け加えると、調和をとても大切にしているようです。「ミレジメ エクストラ・ブリュット2002 」も試飲しました。これはいつでもアヴィーズ村の2区画のシャルドネをブレンドしたものです。少し香ばしい熟成香が出始めたとても華やかな香りがして、とてもまろやかで口の中が心地よく、力のある味わいでした。アンセルム本人の言葉でいえば03年は「グルマンのよう」で08年は「鋭利」という形容に対して、02年は「ゼロ・ストレス。それに赤ワインのようなストラクチャーでしょう?」と、その完璧性を讃えています。つまり、このような調和を理想と考えているのではないかと感じたのです。

 

そして、セロスが拠点を置くアヴィーズ村の個性については、併設のレストランのお料理とも関連性がありますので、続きはそちらにて。

 

* レコルタン・マニピュラン=略してRM。シャンパーニュ地方の生産者のカテゴリーのひとつで、自社畑のブドウだけからシャンパーニュを造っている(生産量の5%にあたる原料は購入可能)のがRMで、小規模生産者の場合がほとんど。ただし、相続により畑が分散されたがために親戚からブドウを購入している場合でも「ネゴシアン・マニピュランNM」となる。有名大手はすべてNM。ちなみに、今回訪問した5軒はすべてRM。

**福岡さん=著書「わら一本の革命」でも知られる自然農法の提唱者の、故・福岡正信氏。

***マロラクティック発酵=マロラクティック・コンヴァージョン(転換)ともいう。ワイン中の鋭角的な酸(リンゴ酸)がソフトな酸(乳酸)に変わる作用。乳酸菌を加えたり貯蔵施設内の温度を上げたりすることで、意図的に促進することができるが、セロスだけでなく、サロン(ドラモットは行う)も人為的には行わず、自然に任せるという方針。現代のシャンパーニュの中ではこういう生産者は数少ない。

 

カテゴリー スパークリング
ワイン名 ミレジム エクストラ・ブリュットMillésime Extra Brut
生産者名 ジャック・セロス Jacques Selosse
生産年 2002
産地 フランス/シャンパーニュ地方/コート・デ・ブラン地区
主要ブドウ品種 シャルドネ
希望小売価格 31,500円
輸入元/販売店 木下インターナショナル
カテゴリー スパークリング
ワイン名 ”レ・キャレル” オー・メニル・シュール・オジェ エクストラ・ブリュット“Les Carelles” au Le Mesnil sur Oger Extra Brut
生産者名 ジャック・セロス Jacques Selosse
生産年 NV
産地 フランス/シャンパーニュ地方/コート・デ・ブラン地区
主要ブドウ品種 シャルドネ
希望小売価格 21,000円
輸入元/販売店 木下インターナショナル
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