ワイン&造り手の話

千砂ちゃん横

「サヴィニー・レ・ボーヌ」は、ブルゴーニュのAOCの中では、比較的地味な存在かもしれません。でも、日本のブルゴーニュ・ファンには「サヴィニー・レ・ボーヌにシモン・ビーズあり」と定着しているのではないでしょうか。名声を確固たるものとしたパトリック・ビーズ氏の遺志を継ぎ、ドメーヌを続けることを伝えるべく、マダムのビーズ千砂さんが来日しました。

ビーズ/ボトル

<ビオディナミ(バイオダイナミクス)の取り組み>

ご主人のパトリックさんが突然他界した2013年から、既に1年以上経ちました。ドメーヌの継続を決め、各国にそのメッセージを伝え始めているところだといいます。覚悟を決め、一段落したのでしょう。肩の力は抜け、ごく自然体で語っているように映りました。

 

千砂さんはセミナーの冒頭で、こんなことを語りました。

「東京は、知らないうちにますます便利になっていますね。でもうちでは、不便、不都合、効率の悪い世界に真実があるのではないかと、反対のことを始めました」。それは、ブドウの栽培方法に「ビオディナミ(バイオダイナミクス)」という方法を取り入れ始めたということでした。千砂さん曰く「天・地・人のエネルギーをうまく循環させる」という点が重要だといいます。

「よく『自然派』という言葉が使われますが、その中には2種類あります。ひとつは、自然がすべてしてくれるから、自然に任せていればそれでいい、という考え方。もうひとつは、人が最も大切な役割を担っていて、天と地の仲介をして、私たちの考えを練り込んで、バランスよくつくっていく、という考え方。私たちは2番目のほうのです」。

 

確かに、ワインの世界では「自然派」という言葉が曖昧に使われています。千砂さんの説明にもある前者は、人がコントロールしないでワイン造りを行うため、とても不安定な状態のワインができあがります。部分的にもてはやされた時期がありましたが、今では、少しずつ支持層が少なくなってきているはずです。後者は、人が介入しすぎるのではなく、人が適度に介在して自然の暴走を抑制管理している方法、ともいえます。シモン・ビーズでは、後者の方法を選んだということです。

 

例えば畑では、プレパラシオンと呼ばれる調合材を使います。

有名な「501番」は、石英を細かくすって粉状にし、エネルギー水に混ぜて散布します。光を取り込むための媒体のため、葉が勢いよく伸びていく5月から6月頃、光を必要とする時期など、年に数回撒くようです。

あるいは、雹の被害が大きかった2013年には、水で溶いたカノコ草を多く散布したといいます。人にも鎮痛剤として使用される薬草で、「夏期剪定の後にも必ずまくもので、ストレスを取り除く効果がある」ものです。

化学物質は一切使用しない方法であり、それぞれの畑に植わるブドウの様子にあわせて処方していくため、手間ひまのかかる仕事です。

 

例えば月と天体の動きのカレンダーを見ながら、よい時期を選んで仕事をします。

「ペリオド・ド・プランタシオン」は、月のエネルギーが下方へ向かう時期のようです。この期間に土の作業をすると、根付きがよくなります。澱が舞わないので瓶詰め作業をすると、清澄や濾過の必要がないといいます。

 

ビオディナミの天体カレンダーのコピーが、試飲セミナーで配布されました。

ビオディナミの天体カレンダーのコピーが、試飲セミナーで配布されました。

まだまだたくさん話してくださいましたが(別の記事でお伝えします)、ともあれ実際のワインについてご紹介しましょう。

 

<サヴィニー・レ・ボーヌ プルミエ・クリュ オー・ヴェルジュレス白 2011>

サヴィニー・レ・ボーヌの中で、最も大きく、最もよい条件が揃った区画です。サヴィニーにはグラン・クリュがありませんから、サヴィニーの筆頭のクリュがここになります。「雪解けが一番早いのです。そして、北の谷から流れてくる風と、西から流れてくる風の合流地点で、常に風通しがよくドライ」で、健全な果実が収穫できる恵まれた場所なのです。

 

白は、ふっくらとした香りです。バニラトーストに熟した白桃など、リッチで上品な、若々しい香りがとても魅力的です。味わいにもまろやかさが感じられ、食感がなめらかで心地よく、でも酸がきれいなので、フレッシュさも感じられます。今でも美味しく飲めてしまいますが、きっとしばらく置いておくと更に複雑になりそうな気配です。(本体価格 9,000円)

 

ビーズ家が所有する畑についての説明もありました。それはまた次回!

ビーズ家が所有する畑についての説明もありました。それはまた次回!

<サヴィニー・レ・ボーヌ プルミエ・クリュ オー・ヴェルジュレス赤 2011>

この2011年は「白は量的にも満足のいく量が収穫でき、酸とミネラルのバランスがよいので、若くても問題なく美味しい年です。ただ、赤は例年よりもフェノール類の熟度が低いので、まだ青さを感じるため、時間が必要なヴィンテージです。ただ、2004年の赤も、若い時には青臭くて売りにくかったのですが、10年熟成した今開けてみると、素晴らしい芳香で、驚いています。ある研究者の人が、どのようにしたらこんなに複雑な香りが出るのかと、聞きにいらっしゃいました。この香りはラボで実験的につくることはできないそうです」。

 

確かに、少し漢方薬を思わせるスパイシーな香りが、ラズベリーやチェリーなどの果実の香りに先立って感じられます。これが後々、複雑性のある香りに変身する、ということです。味わいは、果実味がなめらかで、酸もソフトに感じられます。タンニンはまだ若いので、やはり少し置いておきたいというのが正直なところでしょうか。余裕のある方は、是非5年、10年保存して、蝶になる姿を確認してみてください!(本体価格 8,800円)

 

そういえば、畑の苗木について、いずれ自社畑から苗を選抜する「セレクション・マッサールをできれば、……」と千砂さんが自宅で呟いたそうです。すると、ワイン専門の高等学校に通い始めた長男のユーゴ君が、「大丈夫、僕がするから!」と目を輝かせて言ったそうです。頼もしい5代目が育っているようですね。

千砂さん率いる「ドメーヌ・シモン・ビーズ」の継続と発展を、応援しています!

(輸入元:ラック・コーポレーション

(tex t & photo by Yasuko Nagoshi)

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