ワイン&造り手の話

アルゼンチンで「キメラ」という名前の赤ワインが造られています。「キメラ」とは、ギリシャ神話に登場する伝説の生物で、頭はライオン、胴体は山羊、尾は蛇という不思議な姿をしています。そこから転じて「幻想」「夢」「不可能に挑戦し続ける」という意味に使われることがあるため、普通ではとても造れない赤ワインを! という考えで始まったのが「キメラ・プロジェクト」です。

<キメラ・プロジェクト>

時間とお金をたっぷり使って、じっくり考えて造られた「キメラ」。これは、アルゼンチンで1998年に創立されたワイナリー「アシャヴァル・フェレール」の上級キュヴェで2001年が初ヴィンテージ。毎年、長期リース契約の畑と自社畑の中から上質なブドウを選別して、アルゼンチンの顔であるブドウ品種マルベックに、複数のボルドー品種をブレンドして造られるというものです。

このプロジェクトには、1999年からイタリアのワインメーカー、ロベルト・チプレッソ氏が関わっているといいます。来日したマルチェロ・ヴィクトリアさんは「彼はアイデア出しの段階からすべてに関わっていますが、発想が豊かですね。哲学もビジョンも皆で共有しています。今でも年に3回は来てくれますね」と満足そうです。ロベルトのアイデアで、複数品種のブレンドをマロラクティック発酵の前に行い、ブレンド後はフレンチオークの小樽へ。醸造の早い段階でのブレンドは多少リスクがあるものの、これによってより品種同士の融合が早くなるのが利点のようです。「1+1=2」ではなく、「1+1」が3にも4にもなる、というニュアンスです。

ブドウ品種の構成は毎年変わるのですが、直近の2011年はこうなっています。

38% マルベック / 26% カベルネ・フラン / 23% メルロ / 10% カベルネ・ソーヴィニヨン / 3%  プティ・ヴェルド

このうちの多くが1928年植樹、1908年植樹といったとても古い樹のため、当然収穫量が低く凝縮したブドウが得られることになります。

「アルゼンチンは標高が高く、日照量が多く紫外線も強く、乾燥しています。マルベックは1850年頃にフランスの南西部にあるカオールからメンドーサへもたらされたものですが、カオールのマルベックより随分果皮が厚くなりますが、タンニンはまろやかです」。1世紀以上前から存在しているので、既にアルゼンチン独自のブドウ品種といってよい、という見解です。確かに、所変われば品変わるで、独特の香味を有していると確認できます。そこに、更に複数品種をブレンドしているのが「キメラ」ならでは。

ちなみに2011年は、紫混じりのとても濃い色で、ハリのある果実の風味とスパイスやスモーキーさが感じられる、まだまだ若々しい香りです。力強く、プラムのエキスや紫色のイメージですが、上品さもあります。味わいも同様に、果実の熟度が感じられ、酸もタンニンもとてもよく融合してなめらかです。

いくつか古いヴィンテージも試飲させていただきました。

比較的寒かったという2008年は、よりこぢんまりとはしていますが、上品でまとまりよくフレッシュ。

2011年と似た年だという2006年は、まだプラムエキスを一滴垂らしたような豊かな果実味とスパイシーさが印象的。

雨が多かったという初ヴィンテージの2001年は、熟成香が出始めて練れた味わい。

2回目の2002年は、ドライフルーツやなめし革の要素も感じられますが、まだパリッとしたハリがあり力のある味わいです。

特に2002年がとても美しくて感激しました! 当初はマルベック、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロの3品種のブレンドで始め、2006年からカベルネ・フランを、2011年からプティ・ヴェルドも加えることにしたそうです。

<自根のエリアが残っている理由>

ちょっと余談を。

ブドウの樹の大敵であるフィロキセラ(ブドウ根アブラムシ)。これがチリをはじめ世界のいくつかの場所には至っていないことが知られていますが、アルゼンチンにもあるそうで、その理由は水路。

メンドーサは砂漠のような環境のため、街のいたるところに水路が張り巡らされていて、その延長線上にあるブドウ畑の中にも小さな水路がたくさんみられるそうです。単に土を掘ってつくった溝のようなもので、アンデスからの雪解け水が流れる川の堰をはずすとその溝状の水路に流れ出て来る、という仕組み。日本の田んぼに水を引く方法と似ていますね。これによって、アンデスからの水分やミネラル分がブドウに供給されるだけでなく、なんとフィロキセラを寄せ付けないというのです。フィロキセラは実は湿度を嫌うのだと。

つまり、水路が張り巡らされている地区では安心して接ぎ木なしの自根で植えているので「複雑性、純粋性、そしてバランスに優れたワインができる」と実感しているそうです。ただ、アルゼンチンは水分供給には限りがあるという理由で、一定の地区以外では勝手に水路をつくってはならないため、他の場所では接ぎ木が必要になるのです。

ワイン産地はそれぞれに独特の個性があるので面白いですね。そういえば、10ヶ月ほど前にイタリアのトスカーナでロベルト・チプレッソに会った時、「アルゼンチンでも仕事をしているんだけれど、環境がまったく異なるから新鮮で、発見がたくさんある」と、生き生きとした表情で語っていたことが思い出されます。情熱もたっぷりワインに注ぎ込まれているようです。

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

この銘柄だけ複数品種がブレンドされています。

この銘柄だけ複数品種がブレンドされています。

カテゴリー 赤ワイン
ワイン名 キメラ  Quimera
生産者名 アシャヴァル・フェレール Achaval Ferrer
生産年 2011
産地 アルゼンチン/メンドーサ
主要ブドウ品種 マルベック+カベルネ・フラン、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルド
希望小売価格 6,000円
輸入元/販売店 ジェロボーム

↓ 同じ造り手のスタンダードなマルベック。スミレとプラムの香りが魅力的です。

ラベルにはブドウの葉柄が描かれています。

ラベルにはブドウの葉柄が描かれています。

カテゴリー 赤ワイン
ワイン名 マルベック Malbec
生産者名 アシャヴァル・フェレール Achaval Ferrer
生産年 2011
産地 アルゼンチン/メンドーサ
主要ブドウ品種 マルベック
希望小売価格 3,000円
輸入元/販売店 ジェロボーム
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