ワイン&造り手の話

ブルゴーニュ道・入門では、前回コート・ド・ボーヌの白ワインに注目しました。そこで今回は赤に焦点を当ててみようと思います。どうしても、ブルゴーニュの赤の花形はコート・ド・ニュイのヴォーヌ・ロマネやジュヴレ・シャンベルタンなので、コート・ド・ボーヌの赤は幾分控えめに映ります。が、ここにもまた、魅力的な世界が広がっているのです。

 

<コート・ド・ボーヌの赤、とは?>

— では早速伺いたいのですが「コート・ド・ボーヌの赤ワイン」は、どのように括ればよいでしょうか?

柳 反対に質問させてください。コート・ド・ボーヌの赤に、どういう印象を持っていますか?

ー あら、逆パターンですね。はい。全体的な印象では、より柔らかい、というイメージでしょうか。

柳 なるほど。一般的には、コート・ド・ボーヌは、丸くてフルーティーで飲みやすい、というイメージを持っている人が多いようです。それは恐らく、ボーヌやサヴィニー・レ・ボーヌあたりを飲んで、ということではないかと思っています。

— ということは、柳さんはその意見に同意していない、ということですね。

柳 そうですね〜。実は、そんなに簡単な話ではないんですよ。だって、今日のコルトン、ポマール、ヴォルネイの3つを試飲しても、まったく個性が違いますよね?

— はい。違いますね〜。

 

<ヴォルネイはエレガント>

サン/ヴォルネイ柳 ヴォルネイはエレガント。ポマールはパワフル。これは、今日のサンプル含めて言えることだと思います。

— 明確ですね。その要因となるのは何でしょうか?

柳 どちらも、コート・ド・ニュイのバジョシアン土壌やバトニアン土壌より、二世代若いオックスフォーディアン土壌である、という点です。この土壌は、よりマール(泥灰土)が多く含まれています。特にヴォルネイはマールが多く、活性石灰質が多く含まれているので、赤ワインは色も濃くなりませんし、タンニンも柔らかく、デリケート。つまり、上品な赤ですよね。

— すると、このふわっと立ちのぼるような華やかな香りも、土壌に由来するものなのですね。

柳 ヴォルネイはフローラルでしょ?

— そうです、そうです。花の香りが華やかに感じられます。それに、樽のニュアンスが表に出ることなく、綺麗ですよね。

柳 プス・ドールはすごくいい新樽使っているはずですから、今すぐに飲まれる、とは考えていないでしょうが……。

— 樽使いでも、造り手さんのセンスが出ますよね。そういえば、ここは「プス・ドール Pousse d’Or」が、「ブス・ドール Bousse d’Or」の畑を単独所有しているんですよね?

柳 「ブス・ドール」はもともと、カペー朝のブルゴーニュ公家が所有し、次にフランス王家が所有した、という由緒ある畑なんですよ。

— それはそれは素晴らしい歴史のある畑ですね〜。日本人としてはブスという発音が気になりますが……。

 

ポマール(右側)とヴォルネイは隣り合わせの村。赤丸の部分が今回のワインの畑の位置。

ポマール(右側)とヴォルネイは隣り合わせの村。赤丸の部分が今回のワインの畑の位置。

<マスキュランなポマール>

サン/ポマール柳 そして隣のポマールもオックスフォーディアン土壌で、マール(泥灰土)が多いけれど、ここのプルミエ・クリュは、斜面の下側にあるのです。

— すると粘土が多くなる。だから、力強さが出てくる?

柳 そうです。ただ斜面の下部といっても、標高は250〜300mほどはあります。「リュジアン・バ」は、中でも優れた畑として有名で、特級への昇格がうわさされながら、なかなか実現しません。名前の「リュジアン」は「ルージュ」に由来していて、土壌がほんとに赤いんですよ。赤い粘土で、土の中に酸化した鉄の粒が出てくることもある。だから、ちょっと鉄というか、血のような香りがするでしょう?

— あ〜、しますね。赤い果実の凝縮したニュアンスの中に、血のような鉄っぽさがありますね。

柳 以前のゴヌーって、若いうちはもっと飲みにくかったような気がしますね。

— これは、熟した果実がハツラツとしていて、今でも美味しく飲めますね。ヴォルネイと比べると、断然肉付きがよいですね。

柳 筋肉質、でしょ?

— あ、脂肪は少ない、ってことですね。失礼しました。

 

<コルトンは山のワイン>

サン/コルトン— そういえば、コート・ド・ボーヌの赤ワインがコート・ド・ニュイに比べて地味目に映るのは、グラン・クリュが少ないからですか?

柳 それもありますね。加えて、スター的な造り手が白に集中していて、コート・ド・ニュイほど赤の銘醸家が多くないからかもしれませんね。でも、本当はいいワインがたくさんあります。

— なるほど。で、今度はコルトン。グラン・クリュですね〜。

柳 でも、実はコルトンは160haもあるんですよね。

— え〜、そんなに広いんでしたっけ? クロ・ド・ヴージョも広いですけれど、どのぐらいでした?

柳 クロ・ド・ヴージョで約40ha。所有者が80人。

— すると、コルトンの所有者は相当数ですね。

柳 かのカール大帝が所有していた畑ですから、皆が持ちたいわけです。ただ、丘ごとグラン・クリュですから、場所によって随分条件が異なります。

— 赤のコルトンと白のコルトン・シャルルマーニュと。

柳 西向きの区画は赤ではなく、白用の畑。標高が高いところも白ワイン用の畑になります。でも、東向きの赤ワイン用の畑で白をつくったら、コルトン・ブランと名乗れる。ともあれ、複雑に入り組んでいます。

11:Pernand-Vergelesses

— こうしてみると、本当に広いですね。向きや標高によって個性が違うんだろうなあ、というのは地図をじっくり眺めると想像がつきますね。

柳 例えば、コルトン・クロ・デュ・ロワが最も長寿でマスキュラン。ブレッサンドは少し標高が低いので、その分肉付きがよい。ルナルドはルナール(=狐)に由来する命名で、ちょっとソヴァージュというか獣的な要素がある。DRCが2010年頃から造っているコルトンは、この3つの畑をブレンドしている、と聞きました。

— フェヴレの、この「クロ・デ・コルトン」はどこにあるんですか?

柳 ラドワ・セリニー側にあるレ・ロニエ・エ・コルトンLe Rognet et Cortonの中にあるクロ(壁に囲まれた畑)が、フェヴレのものです。標高の高い部分には白用のシャルドネが植えられコルトン・シャルルマーニュになり、下のほうにピノ・ノワールが植えられています。

— なるほど。白ワインと赤ワインのボーダーの区画だから、酸がはっきりとしていて、タイトな印象なんですね。

柳 コルトンは、やっぱり山のワインですからね〜。でも、力強さもありますよね。

— はいはい、あります。今日の中で一番長熟タイプでしょうね。

柳 ここも鉄分の多い赤い粘土質だから、タンニンががっちりしています。

 

<まとめ>

— では、そろそろまとめてみたいと思います。コート・ド・ニュイの赤と比べると、コート・ド・ボーヌの赤ワインとは?

柳 コート・ド・ボーヌボーヌの赤は多様である。

— ん? とすれば、コート・ド・ニュイの赤は一様である?

柳 いや、つまり、簡単にはニュイとボーヌを二分割できない、ということでしょうか。ジュヴレイとシャンボールはまったく違うし。ポマールとヴォルネイともまったく違う。

— おっしゃる通りですね。どうしても、系統立てて分けたいと思ってしまいますけれど、なかなかそうは問屋が卸さない。

柳 ただ、今回も確認できたのは、ヴォルネイはフローラルでしなやかな舌触りで、タンニンが柔らかい。ポマールはマスキュランで生肉みたいな鉄っぽい香りがする。コルトンは一言ではいえませんが、フェヴレに関しては力強さもありエレガントさもあり。

— はい。納得いたします。おっしゃる通りです。で、どんなお料理がお薦めでしょう? 地元では、ということでも。

柳 ヴォルネイなら、ウッフ・アン・ムーレット。

— 卵料理ですね。ポーチドエッグを赤ワインソースで食べる地方料理。ビーフシチューの残りをソースにするのもいいかも。

柳 ポマールはジビエ。

ー どの系統のジビエがいいでしょう?

柳 4つ足でもいいですが、青首鴨や鳩が一般的です。

— ん〜、血には血を!

柳 はい。そしてコルトンは、シャロレー牛のステーキですね。

— 地元の牛ですね〜。すっかり食欲が湧いてきました。ありがとうございました!

 

<試飲したワイン>

Volnay “Clos de la Bousse d’Or” Monopole 2012 <La Pousse d’Or>

ヴォルネイ プルミエ・クリュ “クロ・ド・ラ・プス・ドール”(モノポール)2012 <ラ・プス・ドール>

はじめは閉じているが、次第に華やかに香りが広がる。スパイス、花、赤い果実。そして、時間と共にトーストやコーヒーの香りも加わる。味わいは、なめらかなアタックにはじまり、酸はほどよく生き生きとして、ミドルパレットもしっかり。厚みあり、タンニンは細やか。ふわりと香り出る花や果実が特徴的。しっとりとして心地よい食感の一体感がある味わい。少し置いておきたい。

 

Pommard Rugiens “Les Rugiens Bas” 2012 < Domaine Michel Gaunoux>

ポマール プルミエ・クリュ リュジアン“レ・リュジアン・バ”2012 <ドメーヌ・ミシェル・ゴヌー>

果実のたっぷりとした香り。少し火を入れた熟した赤い果実のような、濃厚さが感じられ、香ばしさも次第に広がっていく。まろやかなアタックで、果実味が豊かで、酸も生き生きとしている。厚みがあり、収れん性も。ガッチリとしたストラクチャーのしっかりとした味わい。肉付きもよい。今でも美味しく飲み始められる。

 

Corton “Clos des Cortons Faiveley” Monopole 2012 < Domaine Faiveley>

コルトン “クロ・デ・コルトン フェヴレ” グラン・クリュ(モノポール)2012 <ドメーヌ・フェヴレ>

まだ閉じているが、スパイス、バニラ、凝縮した赤い果実、トーストなど、厚みを感じる奥深い香り。なめらかで上品なアタック。全体にタイトなボディで酸が生き生きとして、芯が強くミネラル感もたっぷり。タンニンは細やかで豊か。細く長く、しなるような強さが感じられる味わい。少し柔らかくなるまで、しばらく置いておきたい。

(輸入元:ラック・コーポレーション)

(text & photos by Yasuko Nagoshi)

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