ワイン&造り手の話

<アレハンドロ・フェルナンデス>

アレハンドロ・フェルナンデスは「スペインワインの革命家」という異名をもつ人物です。なぜか?

「ペスケラ」が創立された1972年当時のスペイン赤ワインは、長い樽熟成を経ていわゆる「飲み頃」になってから市場に出てくる、というのが常識でした。そうなると酸化熟成が進むので、色が褐色がかり味わいもなめらかな状態です。よく言えばスパイスやドライフルーツなどの複雑な香りがする「飲み頃」ですが、マイナスと捉えれば、色が薄く、果実の風味が少なく、力強さを感じない赤ワイン、ということになります。

オーナーの娘のオルガさん。

オーナーの娘のオルガさん。

アレハンドロ・フェルナンデスは、娘のオルガ・フェルナンデス・リベラさん曰く「子供の頃からずっと、自分がしたいと思ったことをし、自分の好きなものを造る、という気性」だったそうです。つまり、当時のスペインワインは彼にとって好みではなかったので、「色がはっきりとして、ボディーもしっかりとした」自分のタイプの赤ワインを造ることにしたのです。そして「ペスケラ」の登場以降、多くのワイナリーへ影響を与えたので、スペインワイン界に革命を起こした男として知られています。

ただ、オルガさんの話によれば相当豪快な人物らしく「家族を守ってくれた母がいるからこそ、今もこうして一家が幸せに暮らしていられる」とか。まとまった資金ができるとすぐに畑や土地を購入してしまったのだそうです。相当なワイン狂なのですね。でも、だからこそワイナリーが増え、今ではホテル経営まで行い、ペスケラのグループができたのでしょう。

さて、個々のワイナリーの話の前にアレハンドロ・フェルナンデスの基本方針をひとつ! 「それぞれの土地の個性を出す」こと。そのため、その土地に根付いた品種、いわゆる伝統品種をブレンドしないで単一で使うことにこだわり、赤はテンプラニーリョ、白はアイレンにフォーカスしています。そして、酵母は100%自然酵母によるなど、自然な造りを一貫して行っています。

以下、4つのワイナリーの立地条件と、それぞれ価格帯が同じぐらいの赤ワインをご紹介します。品種も携わる人もすべて同じですが、個性はそれぞれ。それに白ワインも1銘柄。

こうして並ぶと、ラベルのロゴやデザインが特徴的なのがよくわかります。

こうして並ぶと、ラベルのロゴやデザインが特徴的なのがよくわかります。

<ペスケラ>

1972年にスペインからポルトガルへ流れて行くドゥエロ河流域(ポルトガルではドウロ)の産地リベラ・デル・ドゥエロで創立された、グループの中でも主力のワイナリー。それまでに行っていたビーツ栽培で得た資金を、すべて注いだ地所がここです。

「ティント・ペスケラ・クリアンサTinto Pesquera Crianza 2010」(参考価格4,200円)は、スパイスの他にチェリーやプラムといった果実の香りが豊かにしますが、エキスというよりはふわりと立ち上がるエレガンスを備えているのが特徴的です。味わいも木目細やかさが印象に残ります。

<コンダード・デ・アザ>

1987年からワイナリーを建設したのは、ペスケラから30キロ離れた野原の中。何もない、更地の状態で200ヘクタールの土地を購入して始めました。ドゥエロ河の東端で、標高は800〜900メートルと高く、河へ向かってゆるやかな斜面が形成されているのが気に入ったとか。1994年が初ヴィンテージ。

「コンダード・デ・アザ ティント2009 Condado de Haza Tinto 2009」(参考価格3,800円)は、凝縮感がありながら、上品さ、繊細さのほうが印象に残ります。標高の高さからくる特性だとわかります。

<デーサ・ラ・グランハ>

1998年にリベラ・デル・ドゥエロより西にある産地、トロに近いサモーラ地方で、1700年代から存在したワイナリーを購入。全敷地で800ヘクタール、ブドウ畑は150ヘクタールもあり、すべて古いテンプラニーリョが植えられているという広大な土地です。ここから造られる「デーサ・ラ・グランハ2006  Dehesa La Granja 2006」(参考価格:3,600円)は、地域名付きワインのカテゴリーのビノ・デ・ラ・ティエラ・デ・カスティーリャ・レオン Vino de la Tierra de Castilla Leon に入ります。チェリー、プラム、イチヂクのエキスにスパイスをふりかけたようなハリのある香りで、凝縮感があり厚みがありますが、酸もあるので上品さも感じられます。

<エル・ビンクロ>

1999年からスペイン中央のラ・マンチャ地方で始めたワイナリーで、ここではよい栽培家を見つけブドウを購入して造っています。夏は暑く乾燥しているようですが比較的短く、日較差が大きく、長くて寒い冬は零下8度などが普通だといいますから相当寒いようです。

アイレン100%の白「アレハイレン・クリアンサ2011  Alejairen Crianza 2011」(参考価格3,800円)は、柑橘類とバニラ・カラメルの豊かな香りで、フレッシュながらソフトなタッチ。アイレンという品種は、栽培量がとても多く普通はあまり珍重されることなく、ブレンド用や蒸留用に使われることが多いので、なかなかこのような丁寧に造られたアイレンには出会えません。砂地育ちの樹齢80年以上のものも使っているようで、フレンチオークの小樽で2年間の熟成を経たものです。

赤は「エル・ビンクロ クリアンサ2008  El Vinculo Crianza 2008」(参考価格3,500円)、テンプラニーリョ100%。チェリーやプラムのリキュール、スパイス、スモーク、それに野性的な香りがして、とてもなめらかな口当たり。ラ・マンチャの赤ワインは重いイメージがありましたが、どちらかといえばしっとり系。

そういえば、今ではオルガさんの姉のエマさんが父フェルナンデスと共に醸造に携わっているといいますが、熟成に使う樽の好みが異なるようです。父はスペインでも伝統的に使用されているアメリカオークが好きで、エマさんはフレンチオークのほうが好み。両者をミックスすることは今のところないようです。これも時代でしょうか。他国でも、同じような話を聞いています。次第に新世代の望む方向性に転換されていくのかもしれませんね。

<ワイン輸入元:ミレジム>

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

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