ブルゴーニュ道・入門 村の違いを知る/ジュヴレ・シャンベルタン編① 〜ブルゴーニュのエキスパート 柳忠之さんに聞く〜
04/30
ピノ・ノワールもブルゴーニュも魅力的だけれど、なんだか複雑そうだし、ちょっと敷居が高いなあ〜。と、躊躇している方、いませんか? そういうワイン好きの方たちのために、新企画を試みます。ブルゴーニュのエキスパートに、その魅力のつかみ方(深みにはまるコツ?)を聞いてみることにしました。
第一弾は、今まで一体何回ブルゴーニュを訪問したんですか? というほど毎年現地に通い詰めている柳忠之さんに聞きました。
<ブルゴーニュ道入門前に、まず抑えておきたい3か条!>
— まず、ブルゴーニュ道に一歩足を踏み入れる前に、踏まえておきたい3か条を教えてください。
1)色の濃さを品質の指標にしてはならない!
柳 たとえ色が薄くても、香りが華やかで味わいがギュッと詰まった緻密なワインは、ブルゴーニュにはいくらでもあります。だから、特にボルドーのワインを飲み慣れている人には、ボルドーとは違うという前提を理解しておいてほしいですね。
— 人と同じで、見た目にまどわされてはダメ、ってことでしょうか。では2番目は?
2)ブルゴーニュは「鼻」で飲め!
柳 ブルゴーニュの場合、綺麗で美しい果実の香りがなければ、なかなか満足感はえられません。もちろん、若い時は香りが閉じこもっていて、熟成によってようやく香りが開くこともあるんです。しかもそういうワインこそ、頂天に達した暁には得もいわれぬ喜びをもたらしてくれるので、まさに「鼻」で飲むワインですよ。
— 香りのないブルゴーニュなんて、……ですね! 「クリープのないコーヒーなんて」は古いですね、「君のいない一日なんて、まるで太陽のない世界のようだよ」というイタリア人の口説き文句を思い出しますね〜。さて、ではもうひとつ教えてください。
3)ブルゴーニュは、へたに古いヴィンテージに手を出すな!
柳 実はブルゴーニュは、古いヴィンテージではずれることが多いんです。特に60年代から70年代は要注意。今評価されている造り手でも、お父さんの時代は量産ワインを造ってたりして、肩すかしをくらう可能性がありますねえ。もちろん例外の造り手もありますけれど。ともあれ、あまりお薦めしません。
— ということは、60年代、70年代生まれの方たちは、バースデー・ヴィンテージを探すの大変ですね……。
<ジュヴレ・シャンベルタン村の特徴とは>
— では早速、ジュヴレ・シャンベルタン村の特徴をうかがいたいと思います。ブルゴーニュ地方全体での位置づけから教えてください。
柳 はい。まずは赤だけの産地ですね。そして、数ある赤ワイン産地の中でも「最も力強く、最も長期熟成型のワイン」を生み出す、と一般的に言われていますし、私自身もその言葉に納得しています。もちろん、造り手や畑次第ですけれど。
— どうして、そういうワインが生まれるんですか。
柳 はい。ジャッキー・リゴー(「アンリ・ジャイエのワイン造り」の著者)に聞いたことがあります。彼の答えは、ブルゴーニュの主要な赤ワイン産地の中で「一番北に位置していて、ピノ・ノワールが完熟する限界にある」ので、「皆、ブドウがしっかり熟すまで待つ」、だから「みっちりと密度の高いブドウを収穫できる」という内容でした。いいワインを造らなければ、という人が多いんですよ。
ー 意識が高い造り手が多いわけですね。産地としても基本的に面積が広いですよね。
柳 はい。そういえば、18世紀から既に、ジュヴレ・シャンベルタンは力強いワインで、マチエールをたくさん備えているとされています。
— マチエールって?
柳 様々な要素を備えているというか。
— 辞書には「素材」とか「材料」とか書いてあります。多面性がある、複雑性がある、みたいなものでしょうか?
柳 もうひとつ。気候的な条件もありますね。ここは、3つの気候がせめぎあっている場所なんです。シベリア、つまり北東から来る大陸性気候。西から来る、海洋性気候、あ、でも西モルバン山脈があるので雨の影響は少ないですよ。あと、南からの地中海性気候の影響もあります。それで、年によってどの気候の影響が強いかが違うので、ヴィンテージによる出来の差が大きいのもこの村の特徴ですね。
— あら、じゃあジュヴレ・シャンベルタン通になるには、ヴィンテージを頭に入れておかないといけませんね。村が広いだけに畑も多いから、覚えることが多くて大変ですね。
柳 あ、まあ最初は気張らなくても。
— もっと簡単にジュヴレ・シャンベルタンを語る方法ありませんか。
柳 はい、じゃあこうしましょう。同じコート・ド・ニュイ地区から生まれる「シャンボール・ミュジニー」は、シルキーで女性的な赤ワインの筆頭です。これに対して、ジュヴレ・シャンベルタンは、力強くマッチョで男性的です。
— それはわかりやすいですね。
柳 もうひとつ思うのは、ジュヴレ・シャンベルタンの場合、赤い果実というよりも、黒い果実を感じることのほうが多いですね。
— ブドウが他のブルゴーニュの産地より凝縮している、というでしょうか。
柳 イメージ的なものかもしれませんけれどね。例えばシャンボール・ミュジニーに、ブラックベリーの香りを感じたのは2009年や2010年ぐらいですけれど、ジュヴレはかなりひんぱんですね。
— ブドウが小粒で比較的果皮が厚いんでしょうか? トスカーナのサンジョヴェーゼも普通は、果皮が薄くて色が明るくて、赤い果実の香りが多いですからね。
柳 果皮の厚さは関係するかもしれませんね。
(「つづき」のジュヴレ・シャンベルタン編②では、実際に3本のワインを比較試飲してみます。)
(text & photo by Yasuko Nagoshi)
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