可憐で強い白い花のような、ベル エポックの味わいの秘密 〜2006年リリースに際して、7代目最高醸造責任者エルヴェ・デシャン氏に聞く〜
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ペリエ ジュエのプレステージ・キュヴェ「ベル エポック」の2006年ヴィンテージが昨年秋から発売開始されました。エミール・ガレが特別に描いた白いアネモネの花は、日本の秋明菊がモチーフにされたものですが、まさにそれが象徴するような香味がします。「フローラルで気品があり、スタイリッシュ」と表現されるそのスタイルは、いつ頃確立されたのでしょうか。ペリエ ジュエで醸造を始めてから昨年で30周年を迎えた、最高醸造責任者のエルヴェ・デシャン氏に伺いました。
<エルヴェ・デシャン氏・祝30周年!>
「とても早かったですね」と、ペリエ ジュエでの醸造30周年を迎えたエルヴェ・デシャン氏はいいます。30年前の日本では、まだ今のようにシャンパーニュが多くは輸入されていませんでしたし、もちろんシャンパン・バーなるものも存在していませんでしたから、その当時に、、、と思いを馳せると感慨深いですね。
シャンパーニュでは、代々の醸造責任者から次の醸造責任者へと、人から人へ技術だけでなく感覚的な要素も伝授されると聞いていますが、やはりペリエ ジュエでも同様のようで「30年の間にたくさんのことを学びました。分析、テイスティング、アッサンブラージュ(ブレンド)」などなどなど。そして前の醸造責任者の勤務29年は越えたけれど、更にその前の醸造責任者は40年の勤務だから、まだまだこれからだと笑っていました。
このペリエ ジュエは、シャンパーニュ地方の都市のひとつ、エペルネで1811年に創業したメゾンですが、ワイン造りそのものは1700年代から行っていたようです。この歴史あるメゾンは、実は現代につながるシャンパーニュのスタイルのパイオニアでもあったのだと、エルヴェさんと話をしていてわかりました。
<ペリエ ジュエの先見性>
ひとつは「ブリュット」スタイル。ペリエ ジュエは2代目当主の時代、1846年に他社に先駆けて「ブリュット」をリリースしました。シャンパーニュは甘味調整をしてから出荷されるのですが、昔はとても多くの糖分が加えられてデザートワインとして飲まれていました。ところが、次第に辛口タイプへの需要が増え、現在のようなブリュット=辛口スタイルが主流となったのです。
「イギリス市場からの要望で、ブルゴーニュやボルドーの前に飲む、酸がフレッシュな食前酒が求められたのです」
ただ、その後も英国スタイルの辛口と、北欧などの国が好む甘口スタイルは平行して造り続けられました。つまりシャンパーニュは長い間、食前と食後を担当していたのですね。食中にも活躍し始めて久しい気もしますが、これは極最近の流れなのだとわかります。
もうひとつは「ミレジメ」スタイル。こちらもイギリスへ向けて、1858年にどのメゾンより早く、初めてペリエ ジュエからブドウを収穫した年をラベルとボトルネックに記したものがリリースされました。より信憑性が求められた結果のようですから、今でいえば瓶内二次発酵を始めた日付や、瓶内熟成を終了してコルクで打栓した日付を記すシャンパーニュが少しずつ増えているのと、同じような現象なのかもしれません。
とはいえ、シャンパーニュ地方の厳しい気候のもとでは毎年「ミレジメ」が造れませんから、できが良く条件が整った年だけの特別な存在となりました。
<ベル エポックのスタイルの確立と鍵>
では、ベル エポックが「ミレジメ」の進化形かといえば、そうではないそうです。「ミレジメ クラシック」という名前で2005年まで造っていたそうですが、そのスタイルは「木樽で醸造した、力強いタイプ」だったといいますから、ベル エポックとは逆のタイプとなります。では、ベル エポックの気品やエレガンスは、どこからくるのでしょうか。
初めてのベル エポックは1964年ヴィンテージで、1969年にリリースされました。ただ、この時から始まるベル エポックの美しい装いは、1902年に当時の当主と親交の深かったエミール・ガレが描いたボトルをもとにしています。ブドウ品種の種類(*1)や割合などはその頃とは変わってきていますが「フローラルなスタイルは既に確立していました。香りや味わいのイメージからガレが描いたのがこの花だったのですから。それはペリエ ジュエが代々所有している畑、そこのシャルドネの個性から生まれてくるものです。ですから、私はその骨格となっているものを貫く、守る、という立場にあります」。
ペリエ ジュエが所有する自社畑の中でも最も広い面積を占めるのが、シャルドネの聖地とされるコート・デ・ブラン地区のクラマン村です。ここに3区画27ヘクタールを所有しています。コート・デ・ブランのシャルドネがもつすべての要素を併せ持つ、パーフェクトなシャルドネを生むといわれるクラマン村。「豊かな白い花の香りとフィネス」が生み出され、しかも南南東向きの畑という条件のよさから「力強さも豊かさも」得られるのです。
加えて、ほんの少量ブレンドされている品種ピノ・ムニエにも鍵がありました。秀逸なピノ・ムニエ産地とされるディジー村に10ヘクタールの自社畑を所有しています。「最良のピノ・ムニエをもっているのは、エペルネの古いメゾンにとっては誇り」であり、これがシャルドネとピノ・ノワール2品種 の架け橋となり、早くハーモニーを奏でさせてくれて、穏やかさ、まろやかさと共に生き生きとした表情を創り上げてくれるのだといいます。「シャルドネの個性を損なわないようにピノ・ムニエをアッサンブラージュ(ブレンド)する」のが、技の見せ所のひとつのようです。
<ベル エポック2006年>
さて、お待ちかねの2006年のできは?
「シルクのようなまろやかな口当たり」
気品がありフローラルな、という印象はそのままです。アカシアやレモンの花に加えて、桃や洋梨、次第にブリオッシュやマジパン、バター、ドライフルーツのような香りも広がり、とても優雅なニュアンスです。味わいはまろやかで、上品で、クリーミー、そして生き生きとしてエレガント。もちろん、とても長く余韻が続きます。
「シャルドネがとてもよかったですね」と、エルヴェさん。7月が暑かった反面8月は曇りがちで少し心配ながら、9月の晴天と昼夜の温度差が大きいことからとてもよい収穫ができ、「テンションはありますが、ピリッとする刺激的なタイプではありません。例年に比べてシャルドネの潜在アルコール度数が高く、酸度は少し低めとなったことから、シルキーなとてもまろやかな口当たりに仕上がった」と、とても満足そうです。
何か特別な日に、この華麗な花のボトルを開けてみてはいかがでしょうか。
(*1)ガレの時代にはまだ、プティ・メリエ、アルバンヌ、フロモントーなども多く栽培され、使用されていた。第二次世界大戦後に栽培が機械化されたので、無秩序に伸びて管理できない品種として、そして収穫量も少ないということも加わり、廃れていった。
(text & photo by Yasuko Nagoshi)
カテゴリー | スパークリングワイン | |
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ワイン名 | ペリエ ジュエ ベル エポックPerrier-Jouët Belle Epoque | |
生産者名 | ペリエ ジュエ Perrier-Jouët | |
生産年 | 2006 | |
産地 | フランス/シャンパーニュ地方 | |
主要ブドウ品種 | シャルドネ50%、ピノ・ノワール45%、ピノ・ムニエ5% | |
希望小売価格 | 22,050円(ギフト箱入り) | |
輸入元/販売店 | ペルノ・リカール・ジャパン |
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