シルキーなタンニンを求めて 〜シャトーヌフ・デュ・パープのドメーヌ・ド・ラ・シャルボニエール〜
06/11
完成度の高いシャトーヌフ・デュ・パープと高評価のドメーヌ・ド・ラ・シャルボニエール。あと数年で100周年を迎えるという家族経営の造り手ですが、今、実際にワイン造りを任されているのは、当主ミシェル・マレの愛娘、ヴェロニク・マレ。共に助け合いながら仕事をしている姉のカロリーヌと共に、来日をとっても喜んでいたチャーミングな女性でした。
<ドメーヌ・ド・ラ・シャルボニエールの家族愛>
こんな丸くて大きな石、一体どこから持ってきたのですか? と、聞きたくなるような、いい漬物石になりそうな巨石がゴロゴロとしている畑。シャトーヌフ・デュ・パープと聞くと、そういう光景を思い出します。しかもその丸石の層がとても深いというから驚きました。ボツリボツリと植えられているブドウは、土の中、いえ石の中でどのように根をはるのだろうか、心配してしまったほどです。すべてのシャトーヌフの畑がこういう土壌ではありませんが、ドメーヌ・ド・ラ・シャルボニエールの畑の中にも、このギャレ・ルーレと呼ばれる丸石の区画があるようです。
とてもロマンチックなことに、創業者で現当主ミシェル・マレ氏の祖父にあたるウジェーヌ・マレ氏は、奥さんにプレゼントするためにこのドメーヌを購入したそうです。その愛情がその後も引き継がれ、畑も拡張されてもうすぐ1世紀を迎えようというのですから! 今では、栽培醸造学を修め、研修も終えて2009年から家業に参画したヴェロニクさんが中心となり、栽培から醸造まで任されています。創業者夫妻からすれば、曾孫ですね。ひいおばあちゃん、さぞがし喜んでいることでしょう。
<エレガンスを求めて>
ヴェロニクは「エレガントなワインを造りたい」という目標をもっています。ただ、シャトーヌフ・デュ・パープは南ローヌにあり、雨が少なく日照量が多く、とても力強いワインになりやすい傾向にあります。先ほどの丸石土壌の場合は、特に保温性が高いので夜間にも日中に蓄えた熱を放出してくれるため、ブドウがよく熟します。どのようにしてヴェロニクは「エレガンス」を求めていったのでしょうか。
鍵はタンニンの質にありました。
まず、畑においてはヴェロニク参画の1年前、2008年から有機栽培への移行を始めていましたが、2012年にはすべて完了し、2015年には認証も獲得しました。ブドウの熟度には敏感で「種と果皮のタンニンがよく熟したのを確認できてからの収穫します」。ここが仕上がりのタンニンのテクスチャーに、大きな影響を与えるのです。更に収穫後は、アグレッシブなタンニンを与える可能性のある梗の部分はすべて取り除き、容量の大きな木製の樽を主体にして発酵、熟成させます。
「昔は小樽をたくさん使っていたのです。でも、粗いタンニンが残っていました。ある時、父とボルドーのワイナリーをいくつか訪問しました。とてもエレガントできれいなタンニンのワインは、きまって木製の大樽を使っている、ということに気がついたのです。その後ワイナリーを改装が終了した2004年から大樽の導入を始めて、樽は2008年にすべて大樽になりました。そうしたら、それまでの乾いたようなタンニンは消え、丸みを帯びたエレガントなタンニンが得られました」。昔の粗くて乾いたタンニンが、とても嫌いだったようです。
もちろん、その後も慎重に果汁やワインを取り扱って、あまり濃くなりすぎないように、余分なタンニンが出てしまわないように、細心の注意を払います。その結果、厚みやボリュームはあっても、人を圧倒してしまうようなタイプではない優しいタッチ、そしてとても綺麗で丸いタンニンのシャトーヌフが生まれるようになりました。
仲良し姉妹のヴェロニクとカロリーヌは、東京滞在中に和食も食べたでしょうか? 彼女たちの赤ワインに合わせるなら、鉄板焼きがよいでしょうか。
<付記>
創業1912年。所有畑はシャトーヌフ・デュ・パープに12区画19.3ha、ヴァケイラス4haなど。シャトーヌフの中央東部。
(text & photo by Yasuko Nagoshi)
プラム、ブラックベリーなどの黒い果実とスパイスの香り。厚みがありストラクチャーもしっかり。
スパイシーさが増し、厚みもボリュームも。噛めるような味わい。タンニンのまろやかさにびっくり。
プラムやブラックベリーのエキスを感じる香り。とても木目が細やかで、厚みもあり、これもタンニンがとてもまろやかで溶け込んでいる。
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