おしゃれに飲む

「いつかワイナリーのオーナーになりたい」と、多くの人が夢をみます。特に欧米では多いようで、ビジネスの成功者が最終的にワイン造りに入っていくのは珍しいことではありません。ただ、多大な時間と莫大なお金、両方の投資が必要です。ところが、そのどちらもコンパクトにして、たったの1樽から自分のワインを造れるシステムをつくってしまった人がいます。スティーヴン・ボルジェ。VINIVを始めた人物です。

 

<夢を叶える>

「自分でも、いつかワインを造りたいと思っていました」と、スティーヴン・ボルジェ氏。ある時、アメリカの雑誌「ビジネス・ウィーク」を読んでいると、将来の夢のアンケート結果が出ていたそうです。1番は「映画のプロデュース」、そして2番目が「ワイン造り」。これを見て「自分だけじゃないんだ!」と気がついて、それまで経営していた鉱物の会社を売却して新しい会社を立ち上げることにしました。

 

でも、自分がワイナリーのオーナーになる、という決心でなかったところが新発想ですね。億単位の投資をしなくても、自分のワインを造りたい! という人の夢を叶えるためのお膳立てをしたわけです。

 

2009年から始め、2012年からはボルドーのメドック5級で知られるシャトー・ランシュ・バージュのカーズ家から投資が入り、ランシュ・バージュのすぐ側に専用のワイナリーを建設しました。ブドウ畑の管理は、カーズ家所有の畑すべてを管理しているダニエル・ルースが、醸造関係はシャトー・ランシュ・バージュのテクニカル・ディレクターを努めるニコラ・ラベネ。更にコンサルティングには、1級シャトーとも契約しているエリック・ボワスノーという、一流揃い。

 

一から独自のワイン造りを始めようと思っても、これだけの豪華メンバーをすぐに集めるのは難しいものです。ボルドーの偉大なワインが好きな人であれば、こんな贅沢な話はなかなかないと思います。

 

<好みのブレンドを選べ、好きなだけワイン造りに関われる楽しみ>

既存のワインに好みのラベルを貼ってオリジナルワインをつくる、という選択肢は今までにもたくさんありました。でも、このVINIVはちがいます。どの畑のブドウを、どれだけの割合でブレンドするのか。品種と場所を選べます。それに、好きなだけワイン造りに関わってもよいのです。ブドウが実り収穫され、ワインになって樽で約2年熟成されて瓶詰めされます。この過程で、時間と興味の許す限りワイン造りに関われるというのです。そしてもちろんワインの名前も、ラベルのデザインやパッケージも、すべて思いのまま。

 

ユニークなことに、ブドウ畑は15カ所、AOCはオー・メドック、サンテステフ、ポイヤック、マルゴー、グラーヴ、カノン・フロンサック、サンテミリオン、コート・ド・カスティヨンにあります。ブドウ品種はカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルロ。これらを自由にブレンドできるのだと。つまり、複数のAOCをブレンドする場合は高級AOCボルドーを造る、というわけです。まるでスーパー・タスカンのようなキュヴェができます。

 

しかも畑のリストを見ると、その立地が目を見張ります。例えばポイヤックのカベルネ・ソーヴィニヨンの畑のひとつは樹齢35年で、ピション・ロングヴィル・バロンのお隣。もうひとつは、カーズ家所有の畑、ランクロ。ミシュラン2つ星レストランの「シャトー・コルディヤン・バージュ」にある畑です。コート・ド・カスティヨンのメルロは、ステファン・ドゥルノンクールのドメーヌ・ド・ラのすぐ近く。サンテミリオンのカベルネ・フランは、ヴァランドローのご近所、などなど。

 

<それぞれのストーリーが生まれる>

今までのVINIVの顧客は大半が個人だといいます。「皆さん、造るまでの経験をシェアして楽しんでくれていますね。結婚の記念に、というカップルもいました」。素敵なことに、2009年に結婚記念のワインを造った二人から、2010年も造りたいと言ってきたそうです。そう、子供の誕生年の記念のために。

 

ロックスターや有名人、あるいは会社からの注文、販売目的もあるようですが、それぞれにストーリーが展開されているようで、スティーヴン・ボルジェさんはまるでハッピー・プレゼンターのように見えました。

 

実際にいくつかのサンプルを試飲して、ブレンドのおままごと体験をさせてもらいました。カベルネ・ソーヴィニヨン2種、カベルネ・フラン2種、メルロ2種の中から1種類ずつ選んでメスシリンダーで計って試飲。決してよいブレンドとは思いませんでしたが、面白いですね。反対にこういった経験をすると、プロフェッショナルの腕の高さも実感できます。本当にオーダーすれば、15種類を試飲して細かく配合して、更にプロと相談しながら微調整をしてもらえるのだから、考えただけでもワクワクします!

 

「いつかは!」と思っていらっしゃるあなたに、最適なプランかもしれませんね。

 

<付記>

—詳細はBB&Rのサイトへ/英語

—白ワインも可能。

—1樽あたり750mlで288本。

—赤ワイン1樽あたり、栽培からパッケージングまですべて込み(日本への輸送料や税金などは別途/1本あたり約3ポンド)で6,900ポンド(約119万円)=1本あたり23.96ポンド(約4,100円)から。価格は選ぶ畑によって変動。

—日本での問合せ先:BB&R日本支店(ベリー・ブラザーズ&ラッド)7月からVINIV紹介ページ開設予定。

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Related Article