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201407サム

世界的に有名なワインのコンペティションIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)でコ・チェアマンを務めるサム・ハロップMW(マスター・オブ・ワイン)が、「ワインの知識に基づいたSAKEの展望」と題するテイスティング・セミナーを7月25日に東京で開催した。IWC Sakeのチェアマン、大橋健一氏がワインの専門用語などの解説も加わる、とても興味深い内容だった。

 

山仁酒店の大橋健一氏と共にこの会を主催した、サケ・サムライの立役者でもあるコーポ・サチの平出淑恵さんが司会進行役を務め、サム・ハロップMW を次のように紹介した。

「2003年の11月に、ロンドンのWSET(ダブルゼット/日本にも支部があるワインスクール)で初めて日本酒の講座を行いました。その時に、マスター・オブ・ワインになりたてのサムが受講してくれたのが出会いの始まりです。2005年にIWCのコ・チェアマンになったサムから『日本酒部門もつくりたい』と持ちかけられて、それから数年後にSAKE部門ができることになりました」。

今春で8回目を迎えたIWC SAKEは、年々エントリーの数も増え注目度が益々上がっている。

 

さて、IWC SAKEの盛況さも受けて、海外からの日本酒への熱い視線が感じられる昨今、こちら日本側としても、どのように日本酒が映っているのかが気になるところ。その代弁者としてサム・ハロップの意見を聞くと、とても面白い。

 

1)日本酒とワインの比較試飲

A: 純米大吟醸 & ニュージーランドのソーヴィニョン・ブラン

日本酒における吟醸香と、ニュージーランドのソーヴィニョン・ブラン独特のフルーティーなアロマを比較。どちらの香りも醸造過程で生成されるという点、この系統の香りがわかり易くて消費者に受け入れられやすいという点で共通しているという見解。

 

B: 生モト純米酒 & ロワールのシュナン・ブラン

生モト純米の麹からくる土っぽい香りと、少し貴腐菌の影響を受けて生まれる根菜類のような香りを比較。どちらも、多すぎれば欠陥となるが他のキャラクターと共にバランスがとれていれば問題なく、かえって複雑性と判断される要素だ、という指摘。

 

C: 生モト & ブルゴーニュの白(シャブリ)

生モト造りによる乳酸と、マロラクティック発酵による乳酸の比較。特に生モトにおいて酸が余韻の長さを支えているという点を指摘。また、シャブリの典型的なフリンティーあるいは海を思わせる香りについて、緯度が高く冷涼な気候で貧しい土壌ゆえ、酵母がストレスによって生成する香りであり、それは新世界でも還元的な醸造でつくれる香りであると言及。

 

D: 山廃純米 & 熟成したリオハ

麹作りを1日長くして少し酸化した要素が出ている山廃純米と、熟成香が出て複雑性を増したリオハの比較。日本酒のこうしたスタイルは、日本酒に多様性をもたせるという意味で評価しているが、もっとその点を強調してもよいのではないだろうか、という意見。

今までにない比較試飲で、比較のための括り方が面白かった。今後、造り手にとっても売り手にとっても、日本酒の多様性を考えたり売り文句を考える上でよいヒントになるのではないだろうか。

 

2)ワイン市場から見る日本酒マーケティング

「ニューワールドのワインが素晴らしい成功をおさめてきた陰には、膨大な調査を行った経緯がある。フルーツ、純粋性、凝縮感などにおいて革新を行った。それは、畑だけではなく、酵母などを含めて醸造においても、フルーツを最大限に表現するために努力をした結果だ」。

「こういった動きに対して、テロワール主体だった古い考えの生産者はとても驚き、ワインにフルーツがほしい? じゃあ、テロワールはどうなるんだ? と言う。しかし、伝統も重要だが革新も必要。伝統的なワインに市場があるかどうかが重要で、市場がなければ物事は成立しないということを理解するべきだ。飲み手が何を求めているのかを知らなければならないのは、日本酒も同様ではないかと考えている」。

「つまり、ヘソの穴しか見ないという態度はもうやめなければならないのだ。普通の人間は、土や動物臭い複雑性よりも果実の香りのほうが好きだ。(ワインの造り手であり、テイスティングのプロでもある)私たちは、毎日毎日テイスティングを繰り返しているから、正直なところフルーツには飽きている。だからいわゆる自然派のワインに出会うと驚くのだ。ただ実際には自然派ワインにもいくつかの段階があり、結局バランスの問題で、スパイス的な自然の要素はよいけれど(人の介入が少ない)、その要素が多くバランスが悪く欠陥となってしまえば(不介入、あるいは放置)ダメ」。

 

話の流れで自然派ワインについても語ってくれた。ともあれ、輸出を考える場合には、既に海外市場で飲まれている醸造酒であるワイン市場を参考にしない手はないだろう。ただ、日本酒の多様性については、どこまで可能なのか造り手ではない人間には想像できないが。また、実際に何が市場で求められているのか、それこそ出来る限りの調査をしてから戦略を立てるのが得策なのではないかと考えさせられた。

 

3)まとめ

「IWC SAKEの目的は、各国で日本酒の教育を行うことと、セールスプロモーションを行うこと。いずれにせよ、まだまだ知られていない日本酒についての多くの情報発信が必要。そのためには、様々な人とのコミュニケーションが必要で、IWCのようなコンペティションや酒の大使などを有意義に使ってほしい」。

「そして、ワインツーリズムのように、日本酒のツーリズムも盛んにすることを提案したい。実際に顧客の声を聞けるし販売もできるし、より顧客にも理解してもらえる」。

 

確かに、カリフォルニアやオーストラリアのワイナリーでのツーリズムは、素晴らしい成功例だと思う。訪問して実際に畑や醸造所を見る、造り手と話をする、あるいは併設レストランで食事をしながらそこで造られたワインを楽しむ、といった経験は、確実にそれぞれのワイナリーのファンを増やしてきているからだ。リピーターも多いという。

日本酒の世界でも、日本酒そのものだけでなく、その背景や文化を知ってもらうのはとても重要なことだと思う。世界遺産に登録されたことだけにとどまらず、特に日本食に対する注目度は海外で年々高まっているのは明らかなので、食も含めて日本酒ツーリズムで一人でも多くの人を酒の虜にできれば、その分より副産物が生まれるようにも思う。

東京オリンピックまであと6年ある。それまでにある程度の基盤ができ、はずみがついてくれることを願いたい。

 

<付記>

サム・ハロップMWと大橋健一氏による10回にわたる、英語による日本酒ガイドも面白いので、是非ご覧下さい(下のリンクは第1回と第10回)。

ディスカバリー・チャンネルのSAKE EPISODE 01

ディスカバリー・チャンネルのSAKE EPISODE 10

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

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