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今秋開催されたプロ向けのワイン・イベント「ヴィネクスポ・ニッポン」で、いくつかのセミナー「マスター・クラス」が行われました。そのひとつに「シャトー・クレール・ミロン」のヴァーティカル・テイスティングができるクラスがありました。バロン・フィリップ・ド・ロッチルド社のコマーシャル・ディレクター、エルヴェ・グーアン氏によるガイドで、ラベルも魅力的なクレール・ミロンの世界を、少々垣間見ることができました。

 

バロン・フィリップ・ド・ロッチルド社のコマーシャル・ディレクター、エルヴェ・グーアン氏。

バロン・フィリップ・ド・ロッチルド社のコマーシャル・ディレクター、エルヴェ・グーアン氏。

<クレール・ミロンの畑>

17世紀からブドウ栽培をしている由緒ある畑で、当時のオーナーはシャトー・ラフィットと同じでした。クレール・ミロンの畑地図をよく見ると、すぐ左上にシャトー・ラフィット・ロッチルド、左下にシャトー・ムートン・ロッチルドの文字があるのに気がつきます(画像はクリックすると拡大されます)。

畑地図

1922年にバロン・フィリップが購入したこの畑は、現在40ヘクタールあり、栽培しているブドウ品種はカベルネ・ソーヴィニヨン49%、メルロ36%、カベルネ・フラン12%、プティ・ヴェルド2%、カルムネール1%。

 

カルムネールは、かつてボルドーで栽培されていながらほとんど残っていないと言われていました。チリでメルロと考えられていたブドウがカルムネールだと判明したのをご存知の方は多いと思います。クレール・ミロンの畑で栽培を始めたのは、バロン・フィリップが関わっているチリのプレミアムワイン、アルマヴィーヴァでのカルムネールの個性を捉えてのことでしょう。今、ボルドーで最大のカルムネールの畑はこのシャトーにあるといいます。

 

ラフィットが位置する高台から続くクレール・ミロンの畑の土壌は、ラフィットととてもよく似ているといいます。だから「タンニンのきいたしっかりとしたストラクチャーがあり、テンションの高いワインができる」とグーアン氏。ただ、全体を見ると深い砂利層がおよそ半分あり、残りは粘土石灰質のため、メドックの中ではメルロの栽培比率が高くなっているという説明でした。

 

グーアン氏は、今年の8月22日に亡くなった当主バロンヌ・フィリピーヌの言葉を教えてくれました。

「『クリュ・クラッセは、収穫年から10年ないし15年経ってから飲むべき』だと、いつも言っていました。『それまでは絶対開けてはダメよ』と」。

とはいえこのマスター・クラスは試飲ですから、許していただけたのでしょう。

 

バロンヌ・フィリピーヌといえば、真っ赤なドレスを纏った姿を思い出します。いつも堂々として華やかで、はっきりとした受け答えをする人、という印象です。2度ほどインタビューしたことがあります。

2000年に東京で行われたヴィネクスポで。今でもその時の緊張感を覚えています。ムートンのラベルに起用する芸術家について、どのようにして選ぶのかを尋ねると「私の好みよ!」と、一言。

そしてもう一回は、オーパス・ワンのヴァーティカル試飲が行われた時です。既にチリのアルマヴィーヴァのプロジェクトが始まっていたので、ジョイント・ヴェンチャーを成功させる秘訣は? と質問してみました。すると「まず初めのひとつを確実に成功させることね」と、オーパス・ワンのプロジェクトにとても慎重に取り組んだことを示唆するものでした。

オーパス・ワンについては、また改めて後日レポートします。

 

以下、試飲コメントとデータを記載しますので、ご参考に。

 

左から2012年、2010年、2005年、2000年、1996年、1989年。色の違いが明確です。

左から2012年、2010年、2005年、2000年、1996年、1989年。色の違いが明確です。

<2012年/7月20日から2ヶ月間のドライな晴天に助けられた年>

とても濃い色で、香りも閉じているが、緻密でほのかなロースト香と凝縮したカシスなどエキス的な果実の香りがする。ブラックチョコレートのニュアンスも。アタックはなめらかながら、堅く引き締まった味わいで、上品さも感じられ、細かく豊かなタンニンがストラクチャーを形成している。

Data: カベルネ・ソーヴィニヨン60%、メルロ29%、カベルネ・フラン9%、プティ・ヴェルド1%、カルムネール1%。収穫10月1日〜16日。

 

<2010年/XXL的な偉大なる年+『新1945年』ともいわれる年>

「2010年が今の2005年ぐらいの状態になるには、あと20年から25年かかるでしょう」と、グーアン氏。

12年より更に濃い色。香りも閉じ、ロースト香も感じられないほど。少しずつ、小さく黒い果実の香りが出てくる程度。なめらかなアタックで、ベルベットのような食感。タンニンはとても細やかながらとても豊かで、力強いストラクチャー。余韻がとても長い。完成度が非常に高い。

Data: カベルネ・ソーヴィニヨン50%、メルロ36%、カベルネ・フラン11%、プティ・ヴェルド2%、カルムネール1%。

 

<2005年/典型的なクラシックな年>

濃いガーネット色で縁は少しオレンジ。なめし革、動物的な香りが出始め、少しドライなチェリーやカシスなども香り、ふくよかさも感じられる。しっとりなめらかなアタックで、全体にソフト。こなれて一体感のある味わいで、タンニンもまろやかで細やか。

Data: カベルネ・ソーヴィニヨン48%、メルロ40%、カベルネ・フラン10%、プティ・ヴェルド1%、カルムネール1%。収穫9月21日〜10月6日。

 

<2000年/例年より1週間早く進行した年>

濃いガーネット色で、縁は広めにオレンジ色。スパイス、タバコの葉、チェリーやカシスのドライフルーツ、トランペット茸、カカオなど、これまで試飲したヴィンテージと比べると、より控えめな香り。味わいもやさしくフェミニン。

Data: カベルネ・ソーヴィニヨン67%、メルロ33%。収穫9月25日〜10月6日。

 

ラベルのデザインが微妙に変わっています。

ラベルのデザインが微妙に変わっています。

<1996年/2011年に完成したクレール・ミロン独自の醸造所オープニング用に選ばれた年>

全体にオレンジがかっている。スパイス、枯れ葉、土、チェリーやカシスなどのドライフルーツ、茸など、複雑性のある熟成香。アタックからしなやかで、細やかなタンニンも感じられる、心地よい熟成感。今とても美味しい状態。

Data: カベルネ・ソーヴィニヨン51%、メルロ37%、カベルネ・フラン12%。

 

<1989年/気温が高く成長が早く進行した年>

全体にオレンジがかっている。温かみを感じる、ふっくらとした香り。チェリーやカシスなどのドライフルーツを中心に、スパイスや動物的なニュアンスも感じられる。味わいはボリューム感があり、とてもソフトでタンニンもまろやか。少し新世界的な要素を感じる。

Data: カベルネ・ソーヴィニヨン65%、メルロ25%、カベルネ・フラン10%。

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

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