ワイン&造り手の話

今年の春、北イタリアのピエモンテを訪れた時に、とても久しぶりにベルサーノのワインを飲みました。何年ぶりか覚えていないほどです。すると、かつては希薄だった印象がガラリと変わり、とても魅力的な、モダンで均整がとれ、芯があるワインばかりだということに気がつきました。特に、バルベーラ・ダスティは目を見張るものがあります!

 

畑の向うには雪を頂いたアルプス山脈が。

畑の向うには雪を頂いたアルプス山脈が。

<ベルサーノの歴史>

ベルサーノの歴史を紐解いてみると、浮き沈みがあったことがわかります。ピエモンテのアスティ地区の中心地に、ジュゼッペ・ベルサーノが伯爵家が所有していたクレモジーナ・エステイトを手に入れて、ベルサーノを創設したのが1907年のことです。今年、バローロやバルバレスコの産地があるランゲと共に世界遺産に登録された、モンフェッラート内にあるニッツァ・モンフェッラート、バルベーラ・ダスティのメッカでもあります。このベルサーノ氏は、バルベーラというブドウ品種に惚れ込んで、ワイン造りを始めたのでした。

 

その後、息子のアルトゥロ・ベルサーノが50年代から60年代に畑を買い足すなど、拡大をはかりました。ところが、70年代から80年代にかけては、理由は定かではありませんが協同組合化して、品質が低下。当然評判も落ちていってしまいました。

 

しかし救世主が現れます。1985年にマッシメッリ家とソアーヴェ家が共同で、ベルサーノのかつての名声を取り戻そうと買い取ることになったのです。畑の管理からすべてに手をつけ、再生へ乗り出します。

90年以降に、バルベーラのためにカッシーナ・プラタ(畑52ha)、カッシーナ・ジェネラーラ(単一畑キュヴェを醸造/畑53ha)といった広大な畑に加え、もともと貴族の館だったカッシーナ・サン・ピエトラ・カスタニョーレ(ルケとグリニョーロなどを栽培/畑23ha/館はゲストハウスに改装)などを手に入れていき、今ではモンフェッラートとランゲあわせて10地所、230ヘクタールを所有しています。ピエモンテの家族経営のワイナリーで最大規模の畑のようです。

 

畑の基盤が整い、今度は核となるスタッフに精鋭があてがわれました。ちょうど2000年から、栽培責任者はフィリッポ・モブリチ氏が、醸造責任者はロベルト・モロシノット氏が務めています。この2人がベルサーノに入ってきたことで、ベルサーノのワインにルネッサンスが訪れたようです。どのように? という答えは、ワインを飲んでいただければ、きっとわかっていただけます!

 

<アスティのバルベーラ>

「バルベーラ」というと、まず思い浮かぶのが「バルベーラ・ダルバ」です。バローロの産地では、ネッビオーロを栽培している畑の一部にバルベーラを植えているので、たいていのバローロの造り手がバルベーラ・ダルバを造っています。やはりバローロはピエモンテで最も偉大な赤ワインですから、そのイメージもあり、確かに美味しいバルベーラができているので、とても人気です。

 

ただ、バローロの産地では当然のことながらネッビオーロに一番よい区画が与えられます。かつてブルゴーニュ地方でシャルドネが主体となり、アリゴテは条件がそれほどよくない区画に追いやられ、酸が強すぎるからとクレム・ド・カシスと混ぜたカクテル、キールのための白ワインの定番になった、という歴史があります。ただ、A.P.ドゥヴィレーヌ氏がブーズロンでアリゴテの真価を知らしめてくれたように、適材適所で栽培されれば、素晴らしいワインが生まれるのだとわかりました。

バルベーラも、もともと酸が強い品種です。「バルベーラは、ポリフェノールはありますが、タンニンは少ない品種です。ただ、酸がとても高い。バローロのネッビオーロが8g/lがマックスなのに対して、ルケは7〜7.5g/l、バルベーラは9〜11g/l」と、ロベルト。

それゆえ、標高や向き、土壌などの条件がバルベーラに適した場所を選び、きちんと成熟できる畑があってはじめて上級のバルベーラができあがります。

 

「ブリッコ・デル・ウッチェッローネ」で知られる「ブライダ」の今の当主、ラファエッラも、同じようなことを言っていました。皆さん気がつかれていないかもしれませんが「ブリッコ・デル・ウッチェッローネ」はバルベーラ・ダスティなんですよね。彼女は、バローロはバルベーラには標高が高すぎるし、真南など一番よい区画はネッビオーロが植えられているけれど、ブライダではバルベーラが最優先なのだ、と熱く語っていました。

 

そういえば、醸造責任者のロベルトは、ベルサーノに入社する直前まで実はブライダで醸造を担当していたのです。1991年の4月からですから、ちょうど大御所のジャコモ・ボローニャ氏が亡くなられたすぐ後のことです。今はラファエッラ&ジュゼッペ姉弟がブライダを切り盛りし、ジュゼッペが栽培・醸造を担当しています。ただ当時はまだ学生で、彼が醸造長になったのは1996年から。ですから、91年からはこのロベルトが造り、ジュゼッペに伝授したということになります。

 

ともあれ、ベルサーノのバルベーラ・ダスティを一度試してみると、コストパフォーマンスのよいことに気がつくはずです。

バルベーラにかけたベルサーノの創設者、ジュゼッペ・ベルサーノの思いが伝わることを願います。

 

<参考>

バルベーラ・ダスティ3種。

バルベーラ・ダスティ3種。

輸入元:メルシャン(単一畑ものは未輸入)

「バルベーラ・ダスティ コスタルンガ 2012 Barbera d’Asti Costalunga 2012」バルベーラ・ダスティと料理のマッチングの記事

(2,000円強で販売されています)

3〜4ヶ所の畑のブレンド。6ヶ月ステンレスタンクにて、6ヶ月スロベニアンオークで熟成。ハツラツとしたベリ系果実の香りがして、なめらかで生き生きとしたバランスよい味わい。とてもフレッシュ!

「バルベーラ・ダスティ・スペリオーレ クレモジーナ 2012 Barbera d’Asti Superiore Cremosina 2012」

創設者が最初に購入した畑。ナポレオン・ボナパルトがここの当主だった伯爵に、国の統治権を与えたという。南から南東向きの砂と石灰質の土壌。10ha。スロベニアンオークで10ヶ月熟成。熟したフレッシュなアメリカンチェリーの香りで、とてもなめらかな食感。まるみさえ感じられる。バランスよく、酸もきれい。

「バルベーラ・ダスティ・スペリオーレ ニッツァ・ジェネラーラ 2009 Barbera d’Asti Superiore Nizza Generala 2009」

95年に取得した53haの畑で、南から東向き。標高220m。フィリッポ曰く「石灰、砂、粘土が3分の1ずつ、という割合がバルベーラにはベスト」。ストラクチャーの強いバルベーラができる(そういう意味でバローロ地区は石灰質が強い)。6ヶ月小樽で、6ヶ月スロベニアンオークで熟成。スパイス、チョコレート、アメリカンチェリーなど、少し熟成し始めた香り。厚みがあり、酸はフレッシュ。心地よいテクスチャーで、口中でもスパイシーさが広がる。

*ベルサーノが拠点とするニッツァ・モンフェッラートは、バルベーラの栽培で歴史が特に長い地域であるだけでなく、アスティのなかでも最も温かいなど、バルベーラにとって最適地としての認識が高まっている。現在18コミューン、36生産者でより厳しい規定をもうけて「DOCニッツァ」を申請中。これが通れば「ドルチェットのドリアーニ」と同様に、「バルベーラのニッツァ」として認知されるようになる。

バルバレスコと料理とのマッチングの記事

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

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