禁酒法で廃れたワイナリーを、ブティック・ワイナリーへ! 〜クリス&ポーリーン・ティリーによる「V マドロン」〜
02/03
クリス&ポーリーン・ティリー夫妻は、ニューヨークのウォールストリートで仕事をしている時に出会ったようです。クリスは金融家で、ポーリーンは弁護士でした。新婚旅行でクリスの故郷カリフォルニアのセント・ヘレナを訪れたことが、2人に大きな転機をもたらしました。禁酒法により、1920年代から何も造ることなく、畑からはブドウの樹も引き抜かれてしまった廃屋に、なぜか2人して惚れ込んでしまったのです。2001年のことでした。
<ともかくベストなワインを!>
すぐに購入手続きをすませカリフォルニアに住居を移し、2002年から植樹を始めました。カベルネ・ソーヴィニヨンを2ha分です。これだけではすぐにはワイン造りができません。ところが、クリスには懐かしい友人がたくさんいる土地です。
「シャルドネ、プティ・シラー、ジンファンデルは長期契約を結んで調達することにしました。シャルドネはね、私の姉の高校の同期で65年卒の単一畑。結構な樹齢でクローンも台木も古いもの。プティ・シラーは樹齢50年。こっちは私の同期で72年卒。ブドウだけではなくて僕たちも、もう随分年をとったよ」と、クリスは笑います。
荒れ果てていた館を修復している最中に、故・ロバート・モンダヴィ翁が訪ねてきてくれた、という話をしてくれました。
「『昔はここにワイナリーがあって、ハンガリー人がレストランを開いていたんだよ』と、子供の頃の思い出を話してくれて、プライヴェート・ディナーにも呼んでくれました。『できる限り美味しいワインを造ってくれ!』とアドヴァイスももらいました。皆でシェアすれば、皆でよくなれる、という寛大な考え方をもっている人で、本当にナパ・ヴァレーをつくった、素晴らしいリーダーでした」。
「モンダヴィ翁の話をうちのワインメーカーにしました。『だからコストは考えなくてもいいから、とにかくベストなワインを造ってくれ』と言うと、『それはハッピーだ!』と、大喜びされてしまって」。
V マドロンのワインは、白は「カーネロス・シャルドネ」のみ、赤は「ジンファンデル オールド・ヴァイン」、「プティ・シラー オールド・ヴァイン」、ジンファンデルとプティ・シラーをブレンドした「レプラコーン」、「カベルネ・ソーヴィニヨン」などを造っていますが、いずれも数100ケースほどで、レ・プラコーンは50ケースのみ、という極少量生産です。
<カーネロス・シャルドネ2012>
バニラや洋梨、白桃、トロピカルフルーツなどクリーミー香りに、まろやかでトロリとした食感、そしてフレッシュな酸が心地よい味わいです。
「バタリーではなくクリーミー&エレガントなスタイルに、とワインメーカーに注文をした」と言います。「アメリカならロブスター料理か、蟹、帆立のバターソースがお薦め」。
<プティ・シラー オールド・ヴァイン2012>
オレンジピール、チョコレート、チェリーやベリー系果実の香りに、ほんのりスパイシーさが加わり、なめらかなテクスチャー。プラムやエキス分を思わせる香りも口中で広がります。
「若い鹿肉や北京ダックと、とてもよく合う」というプティ・シラーを、とても気に入っているようです。「特に古樹のプティ・シラーが好き。ここではカベルネ・ソーヴィニヨンが王様だから、プティ・シラーはなくなってきているけれど、このフローラルな香りがとても綺麗で、なくなるのがもったいない」と、熱弁していました。
<レプラコーン2012>
古樹のプティ・シラーとジンファンデルをほぼ半々でブレンドしたものです。プティ・シラーに、力強さとタンニンを補強したような骨格です。
「このブレンドは、随分前からもっていたアイデア。でも50ケースしか造らなかったから、すぐに売り切れてしまった」とか。
<カベルネ・ソーヴィニヨン2009>
自社畑のカベルネ・ソーヴィニヨン100%。「東向きの畑で、エレガントで濃すぎないワインができる立地にあります」。
スパイスやなめし革、よく熟したカシスやブラックベリーの香りがし、まだ若さがあり刺激的ながら、なめらかさも感じられる、上品なタイプ。
いずれも、とても丁寧に手をかけて造られたワインでした。
2人は、ワイナリーの建て直しから実際にワインが出来上がるまでに多くの困難を乗り越えなければならなかったようですが、実際にワインができてから、どこに販売すればよいのかと迷ったそうです。
よくよく考えて、ニューヨーク時代によく知っている、契約成立のお祝いとして行うクロージング・ディナーに使うレストランを思い出したといいます。まずは友人知人、口コミ、そしてニューヨークで市場を見つけたのです。
少量生産のため、今でも海外市場は日本だけです。
(輸入元:TY Creation Inc. )
(tex t & photo by Yasuko Nagoshi)
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