ワイン&造り手の話

スペインのカタルーニャ地方には、いくつもワイン産地があります。ピレネー山脈近くのDOコステルス・デル・セグレ最北の地で造られる「カステル・デンクス」は、評判は聞いていましたが、飲んだことがなく、気になっていました。自由が丘のワイン・ショップ「eX-セラー」でデンクスを含めてプチ試飲会をすると聞いて、駆けつけました!

 

<デンクスの印象>

「カステル・デンクス」は、標高1000メートルの地にある畑でブドウを育てている。造り手のラウル・ボベさんは、16年間あの「トーレス」で醸造を行ってきた。スペインで最も有名な醸造家の一人。まるで学者のような人だ。イギリスの著名ジャーナリスト、ジャンシス・ロビンソンMWも、彼のリースリングとピノ・ノワールを絶賛した。

こういう情報を聞いていました。

 

リースリングの「エカム2012」(少量アルバリーニョをブレンド)、ソーヴィニョン・ブランの「タレイア2011」(少量のセミヨンをブレンド)、ピノ・ノワールの「アクスプ2011」、シラーの「タラルン2011」。この4アイテムを試飲させてもらいました。

何も知らなければ、「スペイン」という国を思い浮かべないだろうなあ、というのが正直な印象でしょうか。

 

デンクスのワインたち。

デンクスのワインたち。

スペインワインには、たいがい太陽の恵みをたっぷりと感じるものです。白も赤も、軽やかでも重厚でも、いつでも太陽の熱の恵みを受けたブドウで造られている、という感触が得られるのです。ところが、デンクスの場合には、太陽を感じないわけではもちろんないのですが、どちらかといえば太陽の光、そして固い岩を彷彿とさせるワインでした。

果実の純度が高く、全体に固い印象。酸がかっちりと骨格を形作っている。果実味と酸のバランスがちょうどピンと張りつめて均衡していて、どちらが優勢というわけでもない。そして何より、勢い、エネルギーを感じるワイン。共通して感じたのはこんな点です。

 

<デンクスの姿>

実際にどんな現場でどんな人が造っているのか? まずは画像でご覧頂くのが早いように思います。Ex-ワインの永野竜利さんー輸入元のワイナリー和泉屋さんースペイン在住の佐武佑子さん経由の、借り画像です。

 

畑の下に霧が見えます。雲の上のブドウ畑ですよね。素敵な情景です。ただ、きれい〜!と、感動しているわけにはいきません。だって、ブドウは大変そうじゃありませんか。

ワインの世界では「マージナル(境界の、限界の)」という言葉を使います。それぞれのブドウ品種が栽培できる限界地域で、素晴らしいワインができることが多いのです。まるで、もう後はないから! と発奮する人間と同じなのでしょうか。

ここの場合には、北端、南端というよりは、このスペインのカタルーニャ地方における天上へのマージナルなのかもしれません。

いずれにせよ、ブドウそのものの力を感じられるワインで、何年か熟成させてから飲みたいと思わせる要素が多々感じられるワインです。

 

ラウル・ボベさんは、こんな人です。さして特別な感じはしませんが、何を質問しても、即、詳細にわたって答えてくれるのだそうです。しかも、化学式を使って!

長年のブドウ栽培とワイン造りの経験から、すべてが頭の中に入っていて身体に染み付いているのでしょう。特にトーレスともなる大企業の醸造家を勤め上げたのですから。失敗は一切許されない仕事です。トーレスは、ヨーロッッパで最高峰ともいわれるワインの研究所を抱えています。そこでワインの科学を叩き込まれているので、国際的な学会でのレクチャー依頼が今でも絶えないようです。そのラウルさんが、いわば仙人のような生活を始めたというのも、なんだかしっくりきます。

 

でも、ただの仙人ではないようです。12世紀から僧侶が使っていた岩の発酵槽と、現代のステンレスタンクと、新樽を含む異なるサイズの樽と。今までに存在する技術すべてを駆使しているのが、まさに今の天空のワインの造り手なのです。

 

近いうちに、訪問して直接お話できたらいいなあ、と思ってしまいました。

<追伸>

生産量も日本への入荷量も少ないようですが、もし入手されたら、何日かかけてゆっくり飲んでみる、あるいは何年か熟成させてから飲むことをお薦めします。

<参考>

ボベさんについて書かれた「eX-CELLAR」永野さんのブログ 

輸入元「ワイナリー和泉屋」ホームページ

ボベさんについて書かれた、スペイン在住の佐武佑子さんのブログ

(text by Yasuko Nagoshi)

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