ワイン&造り手の話

「ボランジェR.D.」は、ボランジェを他のシャンパーニュのメゾンと差別化する、象徴的なキュヴェです。その初めてのキュヴェ1952年ものがリリースされたのは、1967年のことでした。それから50周年を迎えた2002年が今年の春から発売開始。本当に当時としては革新的な新製品だったにちがいありません。そして、その披露の際に供されたロゼにも、ボランジェらしさが備わっていることに気がつきました。

 

ボランジェは、シャンパーニュの中でもモンターニュ・ド・ランス地区の南東部にあるアイ村に拠点を置いています。ピノ・ノワールの偉大な産地のひとつとして知られています。だから、ボランジェのシャンパーニュの主体となる品種は、どのキュヴェにおいてもピノ・ノワールです。そして、自社畑の中で最も有名なのが「ラ・コート・オー・ザンファン」。「子供の丘」という意味なのですが、名前の由来はふたつあるようです。

 

ひとつは、あまりにも急斜面なので、ここでは身軽な子供ぐらいしか登れない、と言われていたから。もうひとつは、やはりあまりにも急斜面なので、畑の表土が下へずり落ちてしまうことから、常に土を小さな籠に入れて畑の上方まで持ち運ぶ作業が必須のため、このあまりの重労働から「地獄の丘(ラ・コート・オー・ザンフェール)」と呼ばれたのが始まり、というもの。どちらが正しいかはわかりませんが、いずれにしても急斜面であることは間違いなく、今年3月にすぐその下を車で通った時にも確認できました。確かに仕事は大変そうです。

 

この畑は、ちょうどアイ村のすぐ外側にある小さな区画だったようです。そして19世紀初頭のボランジェの当主ジョセフ・ボランジェが、その潜在能力を見極めて、50以上もの栽培農家と交渉を重ねて、小さな区画の周辺を次々と購入し、今のような4ヘクタール足らずの畑にまとめあげたのです。

 

今春のボランジェ訪問の時に、初めてラ・コート・オー・ザンファンを味見しました。とはいえ、製品化されたものではなく、まだ樽熟成中の2013年ヴィンテージのサンプルですけれど。およそ8ヶ月は古樽で熟成されるようですから、まだこれから、という時ではありますが、それでもとても印象的な赤ワインでした。スパイシーで、バラの花やチェリー、どちらかといえば黒を思わせる果実の香りのとても華やかで魅力的な香りなので、とても驚きました。味わいは未完成といえ、バランスよく、力はあるけれど基本的にはしっとりしたニュアンスです(この時点で12.5%のアルコール度数があり、酸度が4.20g/l硫酸換算/酒石酸換算にすると約6.3g/l)。

 

ボランジェは2種類のロゼを造っていて、ひとつはノン・ヴィンテージの「ボランジェ・ロゼ」、もうひとつはプレステージ・キュヴェでヴィンテージの「ラ・グランダネ・ロゼ」です。後者にブレンドする赤ワインは5〜7%で、コート・オー・ザンファンだけです。さすが、プレステージですね。でも、ノン・ヴィンテージにもブレンドされていました。赤ワインの占める割合はやはり7%ほどですが、コート・オー・ザンファンの赤と、ヴェルズネイ(モンターニュ・ド・ランス北東部)の赤、両方を使っているそうです。

 

ノン・ヴィンテージの「ボランジェ・ロゼ」のどこにコート・オー・ザンファンのエキスを感じたかというと、チェリーなどの黒い果実の風味です。シャンパーニュのロゼは、ストロベリーやラズベリーなどの赤い果実風味を感じることが多いですが、これは黒い果実でした。ですから、一緒に食べるお料理も、しっかりしたものがよさそうです。メゾンからのお薦めはオマール海老やサーモンだということです。

もしそうできたら、豪華な食卓になりますね。

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

カテゴリー スパークリングワイン
ワイン名 ボランジェ・ロゼ
生産者名 ボランジェ
生産年 NV
産地 フランス/シャンパーニュ
主要ブドウ品種 ピノ・ノワール62%+シャルドネ24%、ピノ・ムニエ14%
希望小売価格 10,000円(本体価格)
輸入元/販売店 アルカン
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