フランスのワインと料理の定石 〜カスレ×ラングドックの濃厚な赤ワイン〜
10/06
今年の春、ラングドックへ出張に行くと友人に告げると「カスレ食べてきてね!」と言ってくれたので「もちろん!」と答えて出かけました。まさに初日の夜に準備されていたのが「カスレ・パーティー」で、ある日のランチにもまた食べました。そして日本でも、ラングドック料理で有名なアンドレ・パッションさんの店「ル・コントワール・オクシタン」でカスレを。やはり、ラングドックには欠かせない料理なのです。
今まで、冬の食べ物で保存食を利用した料理、というぐらいの感覚しかなかったのですが、「ル・コントワール・オクシタン」でサーヴィスをしてくれたパッション氏の息子さん曰く「カスレには3つの流派がある」ということなので、俄然調べてみたくなりました。
<カスレの3流派>
カスレが生まれたのは、フランス側のピレネー山脈の麓ですが、3都市でその起源について論争があり決着がついていないようです。その3都市とは、世界遺産でもあるカルカッソンヌ、そこから北西40キロのカステルノダリー、更に北西60キロにあるトゥールーズです。そして、都市ごとに微妙にカスレのスタイルが異なる、というのです。
そもそもの起源については、百年戦争(1337〜1453)の最中に、カステルノダリーがイギリス軍に包囲された際、住民が兵士へありったけの食料を使ってふるまった料理だ、という伝説が残っています。インゲン豆、塩漬けにして保存していた豚や鶏などに水と油脂を加えて、深い土鍋でグツグツと長時間煮込んだのだといいます。もちろん、お伴に地元のワインも添えて。これで体力気力を回復した兵士が大活躍した、という顛末です。
3都市の論争をまとめるためでしょうか、パッションさんがまとめる「アカデミー・ユニヴェルセル・デュ・カスレ」では「カスレはオック地方料理の神である。それも三位一体の神である」としています。それぞれの特徴は、他のものも参考にしましたが、今ではそれほど明確に分かれていないのかもしれません。
*父なる神/カステルノダリーのカスレ
白いんげんと、豚の背肉、もも肉、すね肉、豚の皮、ソーセージ、ガチョウのコンフィが使われて、トマト味のことが多い。
*子なる神/カルカッソンヌのカスレ
白いんげんと、ヤマウズラのコンフィ、豚の塩漬けや羊が使われる。
*聖霊/トゥールーズのカスレ
白いんげんと、トゥールーズのソーセージ(ハーブや香辛料をふんだんに使ったもの)、羊肉や鴨・ガチョウのコンフィが使われる。
つまり、カステルノダリーは豚肉が中心でトマト味、カルカッソンヌはヤマウズラがポイント、トゥールーズはこの地ならではのソーセージが肝、となります。
<ラングドックの赤ワインと!>
やっぱり基本的には塩漬けの肉類や乾燥豆、鴨の油脂といった保存食を使った料理です。味もしっかりしていますが、肉類からの脂分や鴨の油脂もたっぷりなので(それが美味しいのですが)、結構濃厚な味わいになります。しかも熱々で香ばしく、エネルギーの塊のような一皿です。だからこれからの寒い時期には是非パワーアップするために食べたい料理ですね。
ですから、カスレに合わせるにはワインもエネルギーがたっぷりのものを選びたくなるのです。太陽の恵みをたっぷり取り込んだ、色が濃く味わいもしっかりとしたボリューム感のある赤ワインがちょうどよいバランスです。
「ル・コントワール・オクシタン」のカスレは、2種類のラングドック赤で。ちょうど今年AOCに昇格した「テラス・デュ・ラルザック」の「アステリ シャトー・デ・クレ・リカール2011」は、プラムのような濃厚さとミンティーな清々しさがあり、「ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエール」の「ラ・ヴィアラ 2001 ジェラール・ベルトラン」は、プラムやブラックベリーのような香りで上品ながら厚みがあり、どちらもとてもよく合いました。
そうそう。アンドレ・パッションさんは、「カスレの神様」と呼ばれるマルセル・エメリックさんの元でカスレ修業をされたそうです。だからでしょう。フランスで何度か食べたカスレより、パッションさんのカスレのほうが断然美味しかったのです。納得しました。ですからパッションさんのカスレは、きっと日本一美味しくて、世界で二番目に美味しいのだと思います。
カスレ&ラングドック濃厚赤、是非試してみてください!
(text & photo by Yasuko Nagoshi)
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