ワイン&造り手の話

1844年に設立したペンフォールズは、昨年170周年を迎えました! おめでたいことです。それを記念して、4代目のチーフワインメーカーを務めるピーター・ゲイゴ氏が来日しました。「ペンフォールズは最高級のワイン造りから始まったワイナリーだから、世界で一番大きなブティックワイナリーになりたいと考えています」とゲイゴ氏は口火を切りました。

 

<ペンフォールズの3つのスタイル>

ペンフォールズのアイテムはとても多いですが、大きく分けると次の3つのスタイルがあります。

1)マルチ・リージョナル・ブレンド

複数の地域のブドウをブレンドしたもの。フラッグシップの「グランジ」や、白のグランジと呼ばれる「ヤッターナ」が、その筆頭です。ペンフォールズはこのタイプの銘柄が最も多く、シャンパーニュのグラン・メゾンがシャンパーニュ地方内の様々なブドウを駆使して、それぞれのメゾンのスタイルを築き上げているのに少し似ているかもしれません。

 

2)シングル・リージョン

バロッサ・ヴァレーのシラーズだけで造られた「RWT」、エデン・ヴァレーのリースリングだけで造られた「BIN 51」のように、ひとつの地域内にブドウ原料に限ったもの。

 

3)テロワール・タイプ

マギル エステートの単一畑のブドウだけで造られた「Block 42 カベルネ・ソーヴィニヨン」のように、ピンポイントのキュヴェもあります。

 

ペンフォールズのラインナップは、どれを選んでも間違いなく安心して飲めるのですが、やはり最も気になるのはフラッグシップの「グランジ」、その対極にある「セント・アンリ」、この2つのシラーズ、そして白の「ヤッターナ」でしょうか。

 

<ヤッターナ>

ヤッターナの初ヴィンテージ1995年が1998年にリリースされた時、ちょうどオーストラリアの見本市に参加するためにメルボルンを訪れていたように思います。新聞に大きく取り上げられて、「グランジの白が登場!」と書かれていたような。これも複数の産地からのブレンドですが、ブドウはシャルドネ100%です。

 

初リリース当時は、まだ力強いワインが主流の頃でしたから、「ヤッターナ」も濃くて樽香もたっぷりとした、とてもインパクトの強い白だったという印象が残っています。ところが、今回試飲したのは2012年ヴィンテージで、ちょっとイメージが変わりました。バニラの香りはたっぷりあり、マンゴーに近いトロピカル系果実の香りもするのですが、以前に比べてずっと上品な装いです。味わいに厚みはありますが、酸がとてもきれいで余韻に長く残ります。

 

産地は、タスマニア、ヴィクトリア州、アデレード・ヒルズと記されています。オーストラリアでも、冷涼な産地のブドウが注目を集めています。時代の流れが感じられました。

 

<セント・アンリ シラーズ>

「グランジ」ほど知られていないかもしれませんが、こちらもペンフォールズが誇るシラーズです。タイプとしては「グランジ」の対極にあたるもので「1800年代のスタイルです」と、ゲイゴ氏。かつて、1950年代から造られていたのですが、「グランジ」のような華やかさがないからでしょうか、真価が認められるようになったのは1990年代に入ってからのようです。

 

こちらは、1,460リットル、しかも60年という古い大きな木製発酵槽を使って造られます。ですから、樽からの影響がほとんどなく、ある意味ピュアなブドウの姿が表現されている赤ワインです。

 

ちょうど試飲した2011年はとても冷涼な気候の年ですから、とてもタイトで繊細な香りと味わいでした。まだ香りが閉じていて、口の中でようやく黒い果実や黒胡椒といった冷涼な地で育ったシラーズらしい香りが開き、バランスよくとてもなめらか。しばらく置いておきたい、清楚な姿でした。そう、例年はカベルネ・ソーヴィニヨンを少量ブレンドするようですが、この年はシラーズのみで造られています。

ボトル2本

<グランジ>

さて、別格の「グランジ」です!

1951年に初めてトライアルで造られて以来、毎年造られている偉大なワインで、なんと南オーストラリアの「ヘリテージ アイコン(歴史的文化遺産)」に認定されているそうです。

「バロッサ・ヴァレー、クレア・ヴァレー、アデレード・ヒルズ、マクラーレン・ヴェイル、マギル エステート」と、ブドウの出所が記されています。南オーストラリアが誇るシラーズの究極を表現した赤ワイン、ということです。

 

「グランジ」の強みは、やはりマルチ・リージョンという考え方です。「最適な畑をセレクトできる。その柔軟性があるところが利点ですね」。

 

では「グランジ」のブレンドは、一体どういう方法で決めているのか、ゲイゴ氏に聞いてみました。

「一定の決まりがあるわけではなくて、変わらないスタイルを守り続ける、ということが前提にあります。およそ100種類のワインをブラインドでテイスティングして決めるのです」。このブラインド試飲は、ブドウ品種も産地も、すべてわからない状態で行うそうです。

 

ゲイゴ氏それでも、カベルネ・ソーヴィニヨンの比率は結果的にだいたい3%から9%ぐらいになるといいます。「多かった」という1993年は14%ブレンドされていました。反対にカベルネが0%の年もありました。「1951年、1952年、1963年、1999年、2000年」と、スラスラ答えてくれて驚きました。

最近の傾向としては、冷涼な年にカベルネ・ソーヴィニヨンの比率が低くなるようです。件の「セント・アンリ」と同様に2011年はブレンドされないようです。

 

2010年は、とても順調な素晴らしい気候条件だったようです。まだ香りが閉じていましたが、黒い果実のリキュールやチョコレート、それにスパイスやハーブのような香りも少々。味わいは、木目の細やかさが印象的で、もちろん厚みやボリューム感もありますが、ずっしりした印象ではなく、果実味、酸、タンニンともに緻密な構造なのに驚きます。

 

何年かに1度しか「グランジ」の味をみることはないと思うのですが、なんと同時に2001年まで試飲できました。2001年は暑かった年。こちらは香りが開いて、黒いスパイス、プラム、ブラックベリーといった凝縮した果実の香りもリッチそのものです。ただ、味わってみるととても若々しく、なめらかな食感、そして細かく豊かなタンニンが備わり、まだまだこれからのワインだとわかります。やっと開き始めたという状態なのでしょう。

 

もし手元に「グランジ」を持っているなら、少なくとも収穫年から10年間はその存在を忘れておいたほうがよさそうですね。

(tex t & photo by Yasuko Nagoshi)

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