for Professionals

ブルゴーニュの造り手の間で、いえ、造り手だけではなく私たちワイン・ジャーナリストの間でも、ピノ・ノワールについて「除梗をして発酵させるか、はたまた梗を残して全房のまま発酵させるか」というのが、今ちょっとホットな話題のひとつです。アンリ・ジャイエ派か、ロマネ・コンティ派か、という議論とはまた別の段階にきているようです。

 

2013年の1月にニュージーランドのピノ・ノワールの試飲会に参加しました。ちょうどその会へ向かう前に、ブルゴーニュのピノ・ノワールについての海外の記事を読んで、興味深いなあ、と思っていました。内容は、ピノ・ノワールを梗をつけた全房のまま発酵させるか、あるいは除梗して発酵させるか(この場合、破砕するかホールベリーかでも違います)、全房を採用する場合はどの程度の割合なのか、ということについてです。

そしてニュージーランドの会場でブルゴーニュの大家であるジャスパー・モリスMWを見かけたので、不躾にも質問してみました。「全房率の高さは、長期熟成可能性に影響すると思いますか?」すると、その問いには「今はまだ、はっきりとしていない」という答えだったのです。この件については、また後ほど。

 

今回のジャスパー・モリスMWを囲んだ試飲会のテーマである全房か除梗か、という議論は、今始まったことではありません。

「100年前は、ともあれシンプルにワインを造っていたので、全房発酵が当たり前でした。ただ、梗だけでなく、葉っぱなど余分なものも入ってしまうこともしばしばあった。その後、1950年頃から除梗機が導入され始めてから、除梗して破砕する、という方向に変わっていきました。故アンリ・ジャイエが、完全除梗を好んでいたのは、有名な話です。反対にロマネ・コンティはずっと全房発酵派。支持層はふたつに分かれた、というわけです」。

 

ただ、ここ10年で大きな動きがあると言います。

「ひとつは、地球温暖化により、平均気温が上がっているということ」。

つまり、以前は未熟な梗から不快な苦渋みがワインに取り込まれやすかったけれど、最近は梗もよく熟してきているということです。

「もうひとつは、除梗機の発展。とても性能がよくなってきています。以前はブドウの粒を潰してしまうこともあったけれど、今はとてもデリケイトな作業をしてくれます」。

聞けば、最新鋭の除梗機はまったくブドウの粒を傷つけることなく、果汁の一滴も出さないまま梗を取り除くのだといいます。

 

そして、造り手の意識も変化しています。

「誰もがエレガントなピノ・ノワールを求めるようになってきている。純粋なピノ・ノワールを造りたいと思っている。そして、できるだけ人が介入しない造りをしたいと考えているのです」。

これにはふたつの方向性があると言います。

「きれいに除梗できるので、ホールベリーで発酵できる」という意味での純粋性を求める層がいると思えば、

「リッチな果実が収穫できるようになってきたので、ジャミーなフルーツ感、豊潤さに、梗によってプラスアルファの要素を加えたい」という考えもあるのです。

 

更に、「テロワールを反映させるのに、梗が必要」と考える造り手がある一方で、「梗がもたらす要素がテロワールを隠してしまう」という造り手もあるということです。

これに答えは出ていませんが、実際にいくつかの例題を試飲しながら検証をしていきました。

 

その模様はつづきでお伝えします。

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Related Article