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<馬鹿げた思い込みと現実:素晴らしきオーストラリアのシラーの世界>

<Dumb Prejudices and Reality: the wonderful world of Australian Syrah/ the original text is following this translation >

 

掲示板での、オーストラリアの赤ワインはどれだけ熟成できるか、という最近の一連の投稿には考え込んでしまった。両陣営のあーだこーだには、どのくらいの妥当性があるのか。両者に共通して気づいたことは、熟成に耐えない、ぺちゃんこになってしまう、つまり、熟成を経て味わいが安定るする前に腰が折れ、味わいがしばらくの間変わってしまうと揶揄されていたワインの多くが(グランジやヒル・オブ・グレイスといった、熟成のポテンシャルを批評家に高く評価されている主犯格も含め)、全て南オーストラリアで造られたものだということだ。

 

オーストラリアワインを飲まないワイン愛好家たちは、南オーストラリアのワインを”オーストラリアワイン”だと思っているのだろうと推測できる。国の大部分が暖かい、あるいはかなり暑いので、外部から見たオーストラリアワインはパワフルで柔らか、アルコール度は高めな赤、というのがおおよその見方だろう。

 

1990年半ばから終わりにかけてのワイン評論の時代風潮も、この認識をつくる原因となったと言える。ロバート・パーカーの、その野心的で大胆、甘い言葉でこれでもかと口説いてくるワインへの嗜好のおかげで、オーストラリアのワインはかつてないほどもてはやされた。90点代中盤から後半のスコアのついたワインは凄まじい勢いで膨らみ、最上級のバロッサの価格は急騰、ニューヨークやロンドンのトップのワインリストに並ぶことに。オーストラリアワインの業界関係組織はその一時の名声に甘んじて、オーストラリアの冷涼な地域と、そのはるかに多様性に富んだワインについて発信しなかった。結局、ヤラヴァレー、モーニントン・ペニンシュラ、マセドン、ビーチワース、ハンターヴァレーやタスマニアなど、土壌の多様性、気候、ヴィンテージごとの際立った個性など、それぞれのテロワールを表現する変数を兼ね備えたワイン ー太陽一辺倒でなく、”鼓動”のあるようなワインー は、放っておかれることになった。

 

もちろん、オーストラリアのワインの大部分が南オーストラリアで造られていることに間違いはない。プレミアムワインの産地、バロッサヴァレー、マクラーレン・ヴェール、かなり冷涼なアデレード・ヒルズでは、優れたワインを多く世に送り出していて、中でも傑出したワインには、土地の感覚がくっきりと出ている。

 

しかし、オーストラリアは広い。気候も地理も、他のニューワールドより幅がある。ここで、その素晴らしいブドウの表現を見てみることにしよう。

 

Jasper Hill

ジャスパー・ヒル Jasper Hillは、ヴィクトリア州のヒースコートにあるビオディナミを実践するワイナリー。オーナーのロンとエミリーのロートン夫妻が、他の模範となるようなワインを造り始めてからちょうど20年ほどになる。

 

灌漑なしのブドウ畑はシラーズ、カベルネ・フラン、ネッビオーロ、グルナッシュ、そして一握りのリースリング。フラッグシップ・キュヴェのEmily’sとGeorgia’s Paddockにはシラーズが声高らかに力強く表現されているが、しなやかなテクスチャーと爽快な酸が存在していて、このワインのあるべき姿がなんたるかを教えてくれる。

 

この地方の玄武岩の上にある深いローム層は、別名カンブリア紀の土壌として知られているが、これはなんと5億年前のもの!地球上で最も古い土壌に認定されていて、栄養に乏しい痩せた土地だが、地理的、組成的には複雑で、ブドウが熟すのにちょうど足りるだけの水と栄養素、過剰とは真逆をいく条件を備えている。

 

分別ある分量のSO_2以外、一切の添加物は無添加。こう作られたがゆえに、細部まできらびやかに表現されたタンニン、力強い酸味、口内にこだます何層ものアロマが、産地の歌を歌い上げる。経年とともに、これらのワインが熟成にも耐えうることがわかってきた。

 

2007と2008年ヴィンテージが干ばつと水ストレスで難しい年になったのに対し、2009年はどれも良い出来で、Georgia’s Paddockは100点を獲得!

 

Castagna

不景気な日本だからこそ消費者が得をすることもある(長期的には、ワイン業界に良い影響があるとはいえないけれど)。たとえば、最高級のプレミアムワインがお手頃価格で手に入ったり、文化的にそこまでヴィンテージにうるさくない文化なので、バックヴィンテージが比較的簡単に手に入ったりすることだ。こういうワインで最近飲んだのは、カスターニャ Castagna。

 

ジュリアン・カスターニャのワインはビーチワースにあり、涼しいオーストラリア・アルプスの裾に広がる花崗岩のテロワール。カスターニャの家の真ん前にある畑は、細部までビオディナミが実践されている。牛の頭蓋骨に堆肥をいれるなどの手法は、ビオディナミのリズムが畑の生物の多様性を促進し、ブドウの樹の根が栄養を吸収するのを助け、健康でバランスのとれた畑にするという、生態系全体に影響を及ぼすという考え方に基づいている。無駄の少ない世界につながるのは、いうまでもない。

 

この哲学は、結果としてできるワインにどれだけ影響を与えるかという点で一部物議を醸しているが、この世は単に科学的に「実証」できるものがすべてではない。ワインは、ボトルを開けるたびに少しずつ違うという、形のない力を秘めているから美しいのであって、もしもそうでなくなったら、私は別の職を探さねばならないだろう。

 

さらに、もし土地をビオディナミに従って耕すことでよく眠れ、朝起きれば力が漲り、自分の人生に対して楽観的になれるのだとしたら、私は大賛成だ。ビオディナミで作られたシャンパーニュを、ビオディナミカレンダーの「花」の日に味わうという記憶に残る体験の後(参照:http://asiancorrespondent.com/46656/the-whims-ebbs-of-biodynamics-christophe-mignon-champagnes/)、己には知覚・支配できない範囲のものも理解しようという、人間の謙虚な努力に報いようとする何らかのエネルギーが存在することを、直感的に感じるようになった。カスターニャ一家も同様に感じていることに疑いはなく、そのエネルギーはキッチン、暖炉、ワイナリーなど、いたるところにあふれている。

 

大まかに言って、カスターニャのワインは燻製肉、スミレ、五香粉、白胡椒のアロマが、ピリッとしたタンニンと共に、力強さと滋養に満ちた旨みたっぷりの液体と一体化している。酸は大胆不敵かつかなり目立つのだが、それでいて決してうるさすぎることはない。滑らかで熟したタンニン。ワインにはおしなべて、素晴らしいエネルギーがある。

 

これらのワインは、世界でも最も上質なシラーの表現の一つであり、ほぼ垂直で楽しめたことは、くどいようだが日本の景気後退のおかげだ。ワインのスコアは、下記のワインや、他のどんなワインにも評価を下せるものではないが、カスターニャの哲学という文脈の中で、試飲をした人間の印象を比べるのには便利なツールである。これらのワインを探すことはお奨めするが、価格は省略する。なぜなら、バックヴィンテージが日本市場以外で見つけられるとすれば、オークションくらいだから。ちなみにいうと、2008年、オーストラリアでの現行ヴィンテージで私の一番のお気に入りは、まだ日本未入荷である。

 

Allegro `06:色はアンバー。ムスク、スイカ、ドライ・ローズの香り。熟成するポテンシャルがあり、実際によく熟成しかけている本気のロゼ。88点

 

Genesis `00:明るい赤いベリーのアロマに、すこし焦げたような匂い。第三アロマは腐葉土と野生の動物の肉の匂いが遠くに漂い、ピリッとした酸味がそっと後を引く。まさに人生のピークを迎えたチャーミングなおじさんワイン、とでも言おうか。ソフトで病みつきになり、するする飲める。90点

 

Genesis `01:黒い果実路線に、リコリスと、ほとんどラングドックの低木やメンソール。力強く、長く、多少揮発性はあるものの、その野性味が魅力的。87点

 

Genesis `02:ピュアな冷涼な土地で育ったシラーの、スミレ、肉、砕いた胡椒。かすかな大豆の香りは、経年があるからだろうか。ジューシーな酸で締まったパレットに、素晴らしく溶け込んだタンニンが素晴らしいヴィンテージ。デキャンタして、肉と一緒に。94点

 

Sauvage `03:煙臭くて干からびた味わいのソノマや、その他北カリフォルニアの2008年の多くの生産者とは違い、ジュリアンはブドウを(そして値段も)格下げした。森林火災がヴィクトリア中で悩みの種となった年。だからこそ、名前もSauvage(”荒涼”)に。ありがたいことに、賢明な抽出レベルと、例年以下に抑えたオークのおかげで、ワインは今でもフレッシュで非常に飲みやすいが、特徴的なサラミやその他の肉製品の匂いは明らかに、燻製所の名残である。86点

 

Genesis `04:テイスティング中、教え子の一人がこのワインの立ち上るアロマを「まるでトルコのベリーダンサーのようだ!」と形容した。たしかに、このワインはターキッシュ・デライトを彷彿とさせるアロマをまとったエキゾチックな秘薬である。ムスクにローズ・ウォーター、ガツンとくるアジアの五香粉。パレットは2002、2005よりも緩めだが、もっと骨格がしっかりしていて恰幅が良く、それでいてアロマの複雑味と汁気したたるような余韻があって、爽快な飲み心地。93点

 

Genesis `05: 口内での重みは2002に非常に似ているが、香りの点では北ローヌのシラーを思わせるようなスミレ、ピート、ブルーベリーの第一アロマ。広がりと伸びがあり、口の中で何層にも層をなす。ストラクチャーは、明るい酸味が一手を打つと、レースのようなタンニンがひらりとかわす、ストラクチャー的攻防戦が行われているとでも言おうか。デキャンタせよ、さもなくば、死を。95点

(text by Ned Goodwin MW / translated by Ai Nakashima)

 

 

THE ORIGINAL TEXT

< Dumb Prejudices and Reality: the wonderful world of Australian Syrah / by Ned Goodwin MW>

 

Recent posts on bulletin boards about the potential ageability of Australian red wines have left me bemused. They have made me think about the validity of the yay or nay claims in either camp. One thing I did note, pertinent to either polemic, was that most of the wines criticized as ageing poorly or flatlining, meaning to soften and change for a while before hitting the wall of ever after; as well as the obvious culprits including Grange and Hill of Grace, praised by most pundits as being highly ageable; are all from the state of South Australia.

 

We can surmise that most non-Australian wine drinkers, therefore, perceive Australian wine as South Australian. Given the warm to very warm climate throughout most of that state, Australian wine seen from external perspectives is largely powerful, red, soft and rather high in alcohol.

 

The critical zeitgeist of the mid to late 1990’s was also responsible for these perceptions. Robert Parker and his particular taste for ambitious, robust wines of a flattering persuasion, saw many of the state’s wines lauded as never before. Scores in the mid to high ’90’s on that merry-go-round of speculation saw Barossa’s finest escalate in price overnight and land on top wine lists in New York and London. The Australian wine bureaucracy sucked on the yoke of hype and fame, failing its responsibility to speak on equal terms about cooler Australian regions and their greater diversity. After all, regions such as Yarra Valley, Mornington Peninsula, Macedon, Beechworth, the Hunter and Tasmania, all privy to a diversity of soil types, climates and compelling vintage variables that evince respective terroirs, each with an inimitable pulse rather than the subsuming sunniness of warmer zones, were left hanging.

 

To its credit, South Australia produces the majority of Australian wine. Its bevy of premium wine regions, Barossa Valley, Mc.Laren Vale and the substantially cooler Adelaide Hills, provide us with many superb wines. The best are also etched with a strong sense of place.

 

However, Australia is a very big place, offering far greater climatic and geological diversity than any other New World producing country. Let us, therefore, look at some of the many vibrant expressions of this wonderful grape variety.

 

Jasper Hill

Jasper Hill is a fully fledged biodynamic estate based in Heathcote in the state of Victoria, Australia. It is owned by Ron and Emily Laughton who have crafted exemplary wines for just over two decades.

 

The unirrigated vineyards are comprised of Shiraz, some Cabernet Franc, Nebbiolo, Grenache and a smattering of Riesling, although Shiraz expresses itself across the flagship cuvees Emily’s and Georgia’s Paddock with resonance and force, and yet with a svelte texture and invigorating freshness, affirming that things are as they should be.

 

This is just as well as the district’s deep loams over basalt, or Cambrian soils as they known, are 500 million years old and demand respect! Indeed, they have been proven to be the oldest soils on earth, meager and bereft of nutrients, yet geologically and structurally complex. This ensures that the vines have just enough, rather than excessive, water and nutrients to ripen.

 

There are no additions to the wines aside from a judicious amount of sulphur-dioxide. Given the way that these wines are made, they sing of place with gorgeously detailed tannins, compelling freshness and layered aromas that reverberate across the palate. Time has proven that they also age well over decades.

 

While the 2007 and 2008 vintages proved difficult due to drought and water stress, the 2009 is on song across the range, with the Georgia’s Paddock scoring a perfect 100 points!

 

CASTAGNA

Recessionary Japan has certain benefits for the consumer (although perhaps not for the long-term health of the wine business here). These include the number of high premium wines available at reasonable prices and the relatively easy access to back vintages in a culture that is not particularly vintage sensitive. Among wines of this ilk recently tasted are those of Castagna.

 

Julian Castagna’s wines hail from Beechworth, a granitic terroir at the foothills of the cool Australian Alps. The site, directly in front of the Castagna home, is nurtured with biodynamic attention to detail. Applications, including cow skulls filled with manure, are applied to the ecosystem in the holistic belief that biodynamic rhythms encourage biodiversity, the foraging of the vine’s root systems & a healthier more balanced vineyard; not to mention a less wasteful world.

 

This philosophy is to be admired for while its effects on the eventual wine are debatable among certain circles, the world has never been solely about that which is ‘provable’ by way of empirical process alone. Wine is beautiful partly because of the abstract forces that allow it to speak differently each and every time we open a bottle. Once it ceases being so, I will find another job.

 

Moreover, if tilling the land biodynamically allows one to sleep better at night and wake up each morning enthusiastic and optimistic about one’s lot in the world, then I am all for it. Indeed, after experiencing a profound shift in my experiences with some biodynamically rendered Champagnes tasted on a ‘flower day’ designated by the biodynamic calendar (see http://asiancorrespondent.com/46656/the-whims-ebbs-of-biodynamics-christophe-mignon-champagnes/), I feel intuitively that there is a certain energy that blesses us in our humble endeavours toward some degree of comprehension for all that is not within our immediate and perceivable sphere of control. The Castagna family no doubt feels the same way and this energy permeates the household: kitchen, hearth, winery and vineyard.

 

At large the Castagna wines are effused with notes of smoked meat, violet, five-spice & white pepper, all honed into a savoury meld of nourishment and verve, by sprightly tannins. Acidity is nervy and marked, yet never shrill, while the tannins are svelte and ripe. The wines have great energy across the board.

 

These wines are among the finest expressions of Syrah in the world and again, we can thank the Japanese recession for this near vertical. While scores do not do these wines or any wines real justice, they remain a convenient means to compare this taster’s impression of each wine within the context of the Castagna philosophy. While I encourage you to seek these wines out, I have decided to omit pricing as it is unlikely back vintages will be found in markets other than Japan unless purchased at auction. In addition the `08, the current vintage in Australia and my favourite to date, is not yet in Japan.

 

Allegro `06: amber in colour with notes of musk, watermelon and dried rose. A serious rosé that can and does age well. 88

 

Genesis `00: bright red berry fruit aromas with a hint of char. Tertiary notes of mulch and game echo in the background while peppery acidity gives sneaky length. A charming avuncular wine at its peak: soft, lingering and all too easy to drink. 90

 

Genesis `01: darker fruit spectrum with hints of liquorice and an almost Languedocienne hint of scrub and menthol. Forceful, long and while a tad volatile; attractively wild. 87

 

Genesis `02: pure cool climate Syrah aromas of violet, meat and cracked pepper with a hint of soy from mid-term age. An extremely impressive vintage boasting a tight palate bound by juicy acidity and superbly melded tannins. Drink with meat and decant. 94

 

Sauvage `03: unlike many producers of smoke-tainted and dried-out wines in Sonoma and other regions of northern California in `08, Julian declassified his crop (and price) in `03. Bushfire smoke was an issue throughout Victoria. Thus the change in name to ‘Sauvage’. Thankfully, judicious extraction and less oak than is usual sees a wine that remains fresh and highly drinkable although the hallmark notes of salami and other cured meats are indeed reminiscent of a smokehouse. 86

 

Genesis `04: while tasting, one of my trainees described this wine’s soaring aromas as ‘akin to a Turkish belly dancer”! Indeed, this wine is an exotic elixir with a nose reminiscent of Turkish delight: musk and rose-scented water, in addition to heady Asian five-spice. The palate is looser than the `02 and `05, both more structural and corpulent, yet the wine’s aromatic complexity and sappy length make for thrilling drinking. 93

 

Genesis `05: this wine boasts a palate weight very similar to the `02 although aromatically, the wine is more reminiscent of northern Rhone Syrah with tuned primary notes of violet, peat and blueberry. Expansive yet tensile and formidably layered in the mouth, the wine is a structural parry of cut and thrust due to lacy tannins and bright acidity. Decant or die. 95

 

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