東澤壮晃の楽しい嬉しい美味しいヒント 〜肉食研究室|おうちでやってみよう〜
09/14
肉とワイン。切っても切れない間柄。
ある日、肉を加熱しすぎて本当に「切っても切れない」肉になってしまった事はありませんか?
肉の主な成分は水でありタンパク質であり脂肪でありetc・・・、これらにより構成されたものが「食肉」として食べられています。
水分が最も多くを占めるのですが(グラスフェッドの牛肉だと60%くらい、タンパク質は18%程度)、水は焼いても煮ても硬くはなりません。
加熱しすぎると硬くなる原因の一つがタンパク質にあります。細かく書けばきりがないのですが、ざっくり言うとタンパク質は63℃から凝固を始め、68℃から水分を分離し始めます。
ちょっとだけ細かく書くと、球状タンパク質は60度くらいから変性が始まり、繊維状タンパク質は50度くらいから変性開始し60度で凝縮が始まります。そして結合繊維タンパク質は60度から凝縮が始まり100度以上で崩壊が始まるらしいです。
つまり、肉の種類や部位に関わらず焼き過ぎるほどに水分が出て、タンパク質も凝固します。
これらのタンパク質は一体何なのか?ご興味があれば調べて頂くとして(難しい話は終わりにしましょう)、この温度帯にはお肉をしっとりと仕上げるヒントが隠されています。
今回チャレンジするのは、タンパク質の凝固を最低限に抑えるために「真空調理法」を採用、分水作用が始まる温度以下で調理可能な方法です。
この調理法を用いると、ご家庭でもジューシーで瑞々しい「素敵なお肉様」に仕上げる事が可能で、温度さえ守ればそれほど失敗しません!
さぁ、みんなでやってみよ~ぅ!
- 準備するもの
・ご家庭にある一番大きなお鍋(お湯が冷めにくいから)
・水温計(中心温度計でも良し、デジタルがおすすめ)
・ジップロック(家庭用真空機をお持ちならそれを)
・各種お好みの肉など(牛・豚・鶏・羊・野菜など)
- 前準備
・お鍋にお湯を沸かします
・お湯の温度は今回57℃~60℃くらい
・ジップロック等に食材を入れ可能な限り空気を抜きます。
コツ:袋の口をできるだけ閉めて袋ごと溜め水に沈めます。
水圧が勝手に空気を押し出してくるので、空いている口の部分以外を沈め、抜けたら口を閉めます(徹底的に抜くなら隙間にストローを挿しておくと小さな隙間から抜く事ができます、口で空気を吸い出しても良いですが、食材の水分を吸いこむ可能性あり)
・湯の温度が適温に達したら肉を入れる
- 実践
・60℃に達したお湯にジップロックに入った食材を入れます。
・食材を入れるとお湯の温度が下がるので、必要に応じて再加熱。
・できるだけ60℃をキープできるように、こまめに湯温を確認。
・今回は3時間くらいがんばりましょう!
- コツ
・例えば(我が家の場合)、アルミ寸胴鍋21センチ(7.2L)の鍋にお湯を7分目まで入れ、500g程度の食材を入れておくと(蓋をして)、1時間程度で6~10℃くらい湯の温度が下がってしまうので(外気温に左右されます)、57℃~60℃をキープするには最低でも30分に1回くらい温度のチェックと再加熱が必要になります。が、あまり気にしすぎると疲れます(笑)。しっとり仕上げる為には「温度を上げ過ぎない」事に注力しましょう!
・下味はお好みで、作るものによります。今回やった事はお肉ごとに記載しました。
・この温度帯では筋は柔らかくなりません。筋の無い部位を選びましょう。
それでは難しい話は抜きにしてテキパキ進行させて頂きます。
まずは鶏の胸肉。
鶏の皮と脂は袋に入れる前に全て除去。
軽く塩だけ振りました。
経験から言えば52~53℃を越えたなら時間を長くする事で作る事はできますが、低すぎると若干プルンプルンとした食感になります。
そのまま食べてもしっとりとして美味しいですし、軽い塩しかしていないので様々な味付けで楽しめます。
大ヒットだった豚の腿肉。
袋に市販のスキヤキのタレを入れ空気を抜き、一晩漬け込んだものを調理しましたら驚きのしっとり感!!一度冷まして浸透圧で味を更に染み込ませるのですが、冷めても全然硬くなりません。
全ての食材で守って頂きたいのは(出来たてを食べない場合)、加熱調理後30分以内に冷却を始め、90分以内に芯温が3℃以下になるよう急速に冷やして下さい(氷水が一番早いです)。これは、細菌類が繁殖しやすい温度帯を出来るだけ早く通過させるためです。
同じく豚、部位は肩ロース。
子供たちに人気です。
漬け込みは豚ももと同じ。
脂肪分があるので、腿肉よりも甘味があります。
軽く表面をバーナーで炙って食べるのが香ばしくて旨いのです。
さらに豚ロース。
インスタントなロースハム風も作る事が出来ます。
適量の塩(若干強め)で揉んで、お好みのハーブ(入れなくても良い)。
ジップロックに入れ、丸一日くらい塩漬けしたらあとは同じです。
このような低温で調理した食材は、温度帯的に様々な菌の温床にもなりやすいので、自分で作ったものは出来るだけ早く食べて下さい。
仔羊肉(ラム)の骨付き。
最初に塩だけふって塊のまま(今回は2本分)やってみました。
ご覧のとおりの均一な仕上がり!フライパンではありえへん状態です。
表面の水分を拭きとったら、強火で出来るだけ短時間で(中心部にこれ以上の熱を入れないように)焦げ目を付ければ完成。骨の部分はバーナーで炙るとさらに香ばしさを演出できます。
挽きたての黒胡椒を散らせばパーフェクト。
こんなに小さな牛の切れはしでも大丈夫(たぶん60gくらい)。
極端に小さい場合は通常よりも早くお湯から引き揚げて下さい。
仔羊と同じく表面を炙れば憧れのロゼステーキを楽しめます。
※脂肪があまり無い牛肉をお勧めします、部位ならば肩肉か腿肉。
こんなこともできます「ハンバーグ」。
焼き過ぎてボソボソになってしまった事はないですか?これなら、お湯から出して表面を焼きつけ、ソースをかければ完成!
最後に表面を焼きつける事を考慮し、早めにお湯から取り出し、バンズに挟めばジューシーなハンバーガーを楽しむ事が出来ます。
洗って適当にカットしたかぼちゃに味付けて、お湯にポチャン。
茹であがったら冷蔵庫で冷ますと浸透圧で勝手に味が染みてしまいます。
驚くほど簡単です。
茹でたり蒸したりするよりも、野菜の水分が抜けないので甘味そのまま楽しめます。
加熱温度だけで冷凍肉も美味しく仕上がります。
ニンニク・オリーブオイル・塩コショウと適当なハーブでマリネしてから冷凍保存しておいた「鶏もも肉」はご覧の通り。
表面はカリカリ、中はしっとりと仕上げる事ができました。
これが一番の自信作!作り置きはできませんが、56℃くらいの温度で30~40分程度(仔羊のこの部位のみに適応、長さはお好みで)。このまま食べるには若干熱が足りませんが、最後に表面を焼きつける事を考えると、このくらいでちょうど良いのです。
まさに火の通った生肉!
仔羊の旨味を全て肉の中に残したままの状態(写真は表面を炙る前)。
これを自分でやったのか?と疑いたくなるほどの出来栄えに、早速ワインが飲みたくなったのは容易に想像できるでしょう。
調理の歴史を考えれば、昨今新たに生まれた加熱方法ですが、みなさんは試したことがありますか?
他の調理法と違う事は、使用する「温度帯」。
通常の調理よりも低く、厳密な管理が必要になります。
湯温が低い場合には取り返しがつきますが、高温になってしまうと(例えばうっかりして90℃になってしまったなど)失敗の可能性大です。
そして、特に書き記したいのは安全の為に以下の事項を守って頂き、美味しくワインと楽しんで下さい!
【お肉屋さんからのお願い】
※この温度帯は細菌が最も増殖しやすい温度帯でもあります、十分に注意して調理して下さい。出来上がった料理はできるだけ早めに食べて下さい。
※重複しますが、出来たてを食べない場合は加熱調理後すぐに冷却して下さい。90分以内に芯温が3℃以下になるように出来るだけ素早い冷却を。
※冷却後は0~3℃のチルド状態で保存して下さい。
長くても96時間以内には消費しましょう。
それでは、このしっとり感にハマっちゃって下さい(ワインと共に)!
(text & photo by Moriaki Higashizawa)
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