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ブルゴーニュの造り手の間で、いえ、造り手だけではなく私たちワイン・ジャーナリストの間でも、ピノ・ノワールについて「除梗をして発酵させるか、はたまた梗を残して全房のまま発酵させるか」という話題が、今ホットなのです。アンリ・ジャイエ派か、ロマネ・コンティ派か、という議論とはまた別の段階にきているようです。

(前提の話は「今、ブルゴーニュで何が起こっているのか」①にて)

 

では、実際にジャスパー・モリスMWとともに試飲した内容をお伝えします。

ジャスパー横

テイスティングしたワインは6アイテム。

(カギ括弧内はJモリス氏のコメント)

1−Beaune 1er cru Les Epenottes 2011 <Dominique Lafon> 完全除梗

コント・ラフォンのドミニク・ラフォンが、2008年から自分の名前で造っているもの。「ドミニクは、アンリ・ジャイエとも友達で、年代は違うけれど一緒に狩りにいくほどの仲良し」。

「何度か全房もトライしてみたが、今まで一度も満足したことがないため、自分では全房にしない、という意見で、反対派というわけではない。デュジャックもロマネ・コンティも好きだと言っている。この畑はポマールのすぐ隣の畑。骨格やタンニンがあるというより、フルーティーでシルキーな味わい」。

香りは少し閉じ気味ながら、果実はハツラツとしてなめし革もほんのりと香り、なめらかで、フレッシュな酸が心地よく、シルキー。タンニンも細やか。ピュアな印象のワインでした。

2−Beaune 1er cru Les Grèves 2008 <Domaine de Bellene> 100%全房

「ボーヌの中でもストラクチャーのある畑で、骨格がしっかりしている。1904年に植樹。2008年は早く熟成していく年。酸は1番と同じぐらいだろうが、よりハラッシュに感じる。ぶどうの成熟がうまく進まず、梗も同様だったので難しかった年」。

「まだこのワインを造り始めて間もない時期なので、思いをぶつけすぎたのかもしれない。今は上級キュヴェには全房を続けている」。

オレンジがかった明るいルビー色。なめらかな、なめし革の香りと少しドライな果実の香り。酸はそれほどきついどは感じませんでしたが、タンニンの粗さが若干気になりました。

3−Nuits-Saint-Georges Les Grandes Vignes 2011 <Sylvain Loichet> 完全除梗

「還元的な造り方をしている。酸素に触れさせることなく長期マセレーションをするので、金属的な香りがする。こういう時には日本の10円玉を入れると、香りがクリアーになる」。

「もう少し通気性をよくしてくれればよいと思っている。例えば少し全房にすれば空気の入る余地がある」。

確かに香りはとても固く金属的な香りが果実の香りを隠している状態で、10円を試しに入れてみたところ、少し果実の香りが出てきました。味わいは全体にソフトで、酸も柔らかくなめらかな口当たりでした。

 

4−Fixin 1er cru Clos de la Perrière 2011 <Domaine Joliet> 10%全房

「700〜800年前にシトー派修道士が建てた小さな館で19世紀からここのワイナリーが管理している。父の代にはラフなワインで、年によって品質に波があったが、息子が継いでから畑も広がり本格的なワイン造りが始まった」。

「2008年までは完全除梗だったが、2009年は少し取り入れればよかったと後悔していた。2010年はちょうどよいバランス。2011年のフィサンは少し荒々しさがあるので、梗を使うことで果実味と香りを少し加えることにしたのではないかと思う。潰したストロベリーのようなアロマも感じる」。

熟した赤い果実の香りに少しスパイシーさが加わり、味わいはなめらかでストラクチャーもしっかりしていました。

 

5−Clos de Vougeot 2011 <Domaine de la Vougeraie> 2/3全房

「ヴジョレは段々全房率をあげてきているが、今は3分の2。3分の2の全房を下に敷いて、上に破砕したブドウをのせるという手法もあるし、破砕したものを下にして、上に全房をのせるという方法もあるが、ヴジョレは、ラザニア式で何層にも重ねている」。

果実香がとても綺麗で、ソフトな香り。味わいもとてもなめらかで、一体化して。収れん性はありますが突出することなく、余韻に綺麗な酸が長く残りました。

 

6−Clos de Vougeot 2008 <Château de la Tour> 100%全房

「ピエール・ラベが1997年から全房を始めた。ここのワインは全房でも 梗の熟度も充分に確認してから収穫するので、ハラッシュさがない。このワインの骨格は梗からきている。100%新樽で、果実味とのバランスも保っている。梗の使用は新樽の支えにもなる。デュジャックのジャック・セイスも全房(100%とは限らない)で新樽(銘柄によって比率は異なる)。樽屋は人気のステファン・シャサンで、デュガ・ピーも使っている。各造り手の収穫量にあわせて樽のサイズを変えてくれる」。

まだ固さも感じられるとてもスパイシーな香りで、果実の香りも強い。アタックがなめらかで、酸がきれい。収れん性がありストラクチャーもしっかり。まだまだ若いワインでした。

 

<まとめ>

*全房は過度にとりいれ過ぎるのはよくない。ヴィンテージごとに決めるべき。

*地球温暖化の影響も大きい。今や日照量の多い年がブルゴーニュにとって素晴らしい、とは言えなくなっていて、少し冷涼な年のほうがよいと言う人も増えている。2009年は特に暑かったため、リッチになりすぎないように多くの生産者が全房を取り入れ始めた。アルマン・ルソーも一部を取り入れ始めたひとり。アンリ・ジャイエを継いだメオ・カミュゼも、少し全房を取り入れている。

*全房率が高いワインは、ある意味、若い段階では理解しにくい部分がある。香りが固い、グリーンな部分があるなど。このようなワインが受け入れられるかどうかは、消費者の理解次第。「熟しすぎているよりも、少しグリーンさがあってもよいと、自分は思っている」とは、ジャスパーのコメント。

 

現在、全房を取り入れているのは全体の5〜10%ほどのようですが、今後更に増えるのではないか、と感じているようです。

 

また、全房を使用した場合のワインの熟成可能性はより高まる、というのが今回の見解でした。開くのは若干遅くとも、その後の寿命が伸びて複雑性を備えた素敵なワインに成長するのではないでしょうか。

 

ともあれ、完全除梗のクリアーなワインでも、全房を用いたスパイシーなワインでも、バランスがよいワインであることがまずは一番だと思います。これからの展開も楽しみですね!

(輸入元:ベリー・ブラザーズ&ラッド 日本支店)

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

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