ワイン&造り手の話

ワイン好きの方々にはお馴染みの「クリスタル」。かつてロシア皇帝アレクサンドル2世御用達だったころ、クリスタル瓶に入れられていたことから名付けられた名前です。でも「クリスタル」はヴィンテージの回りが早いことに気がつかれるかもしれません。なぜだろう? 実は長年疑問に思っておりました。11月にルイ・ロデレール社の副社長ミッシェル・ジャノー氏が来日の際、こっそり尋ねてみました!

<クリスタルのリリースについて>

ジャノー氏の答えをお知らせする前に、シャンパーニュの全体像を少し。シャンパーニュ地方には34,000ヘクタールのブドウ畑がありますが、名前の知れた大手シャンパーニュのメゾンが所有する畑は、そのうち1割ほど。つまり、その他は小さなブドウ栽培家や、ブドウ栽培とワイン造りの両方を行っているレコルタン・マニピュランと呼ばれる小さな造り手が所有。そして大手や中規模のネゴシアン・マニピュラン(ワイン造りのみ行う、あるいは自社畑も所有するがブドウの購入もする)は、栽培家からブドウを購入しているのです。

「ルイ・ロデレール」の場合は、自社畑が約200ヘクタールあり、それで全生産量の75〜80%を賄うことができます。これほど有名なメゾンでは珍しく自社畑率が大変高いのです。ところが、プレステージの「クリスタル」のブドウに関しては100%自社畑の特級格付けから供給されています。

「すべて自社畑のブドウを使っているので、その量は限られている」。というのが、ヴィンテージの切り替えが早い理由のひとつでした。「クリスタル」専用の畑(もちろんクリスタルが造られないヴィンテージもありますが)は、およそ60〜70ヘクタールで、恐らく30万本ぐらいの生産量だろうといわれています。一瞬多いように感じますが、実は結構少ないのです。例えばボルドーの1級シャトーのラフィット・ロートシルトは同じぐらいの生産量です。ただ、ボルドーは誤差はあっても毎年必ず生産されていますが、シャンパーニュのプレステージの場合には毎年造られるとは限らないからです。

だから、前のヴィンテージがもうないから次の新しいヴィンテージはいつ発売されるのか、と待ち望む人が多く「少量だからしようがない。マーケットが待ってくれない」のだとジャノー氏。ただ、十分な瓶熟成は必要なので最低でも5年以上、平均的には6〜7年の瓶熟成を経てからリリースの準備を行います。「もちろん、より長く瓶熟成を行えば、よりまろやかになり、より微妙なニュアンスが醸し出されるのは知っているよ。でもね」。

でも、もともと質の高いブドウが使われているので、リリースされた後に更に熟成させることは可能です。もしワインセラーがあれば、あるいは地下蔵がある、などの環境が整っていれば、是非自家瓶熟成を楽しんでみてはいかがでしょうか? ちなみに1本ではありますが、個人的に2000年の「クリスタル」をワインセラーで熟成させています。2000年はそれほど突出した年ではありませんでしたが、充分20年熟成するのを見込んでのことです。

<2006年ヴィンテージ>

では、最新の2006年とはどんなヴィンテージだったのでしょうか。簡単に言えば「困難な年で収穫量は少ないけれど、品質はとてもよかった」とジャノー氏。

年間を通して温かい年となりました。6月、7月は天候に恵まれて開花などとても順調に進みながら、8月が曇りがちで雨も多くなかなかブドウが成熟せず、とても心配に。ところが、9月は日中が晴天で気温も上がり、夜間はぐっと気温が下がるという毎日が続いたので、ブドウはきれいに成熟し、しかも酸が保たれたといいます。また醸造の早い段階から、ピュアなアロマ、豊かな果実風味と上品さ、バランスがよい状態が感じられたようです。

また近年の他のヴィンテージと比べてみましょう。2004年は緊張感がありミネラリー、2005年が豊かで早くから美味しく飲めるタイプ、2006年はクリスタル特有のピュアで透き通るような味わいがありながら、秘めた力、凝縮感を感じとれるヴィンテージ。いずれも魅力的ですね。

そういえば、アレクサンダー2世の時代には、シャンパーニュ自体が極甘口タイプが普通で、「クリスタル」もリットルあたり80〜100グラムの糖分量だったようです。デザートワインですね。また、御用達品だったので5,000〜10,000本のみの生産。一人で飲むわけではないにしても「クリスタル」をそれだけ入手できるとは、さすが皇帝。。。羨ましいかぎりです。

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

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これは2006年秋に購入した2000年ヴィンテージ。

これは2006年秋に購入した2000年ヴィンテージ。

カテゴリー スパークリングワイン
ワイン名 クリスタル・ブリュット・ヴィンテージ
生産者名 ルイ・ロデレール
生産年 2006
産地 フランス/シャンパーニュ地方
主要ブドウ品種 ピノ・ノワール55%+シャルドネ45%
希望小売価格 29,400円(税込/本体価格28,000円)
輸入元/販売店 エノテカ
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