ワイン&造り手の話

見るからに心地良さそうに育つブドウ。丘の上にはモダンなワイナリーが。

バイオダイナミクス、あるいはビオディナミと呼ばれる農法は、ワイン造りの世界でも年々注目度が高まっています。ただ、とても手間暇がかかるので大規模に行うことは困難だと考えられています。そう、普通の環境では。ところが、チリの「ラポストール」では、世界に存在するバイオダイナミクスの認証機関「デメテール」が認めたブドウ畑の30%も所有しているといいます。その面積364ヘクタール! 驚きます。

 

<ワインの楽園>

このような広大な面積の畑を、一体どんな苦労をして管理しているのだろう? と思いますが、チリのブドウ畑の環境は他国とは条件が相当異なります。

 

「秋から春にかけて少しだけ雨が降りますが、春から秋は一滴も降りません。そして、夜は寒いと感じるほど冷え込むのです」と、「ラポストール」のジュリアン ベルトロー氏はいいます。水不足が心配されるほど乾燥しているので、細菌類が極めて発生しにくい上に、夜間の冷え込みで虫も生きていけないのです。だから、普通のワイン産地で悩みの種となる病虫害の心配がほとんどありません。衛生的にとてもきれいな環境にあるので、殺虫剤や病気発生の予防のためのスプレイなど必要がないので、バイオダイナミクスに取り組みやすい環境がもともと整っているわけです。

 

そして、もちろん日照量はたっぷりあり、ブドウは長い心地よい成長期が得られるので、のびのび、すくすく育っていくことができます。例えば「ラポストール」のワインを飲んだ時に感じるハツラツとした果実の特性は、こういった恵まれた環境で育ったブドウならでは、なのかもしれません。何だか、人間とよく似ていますね。

 

ワイナリーにはプール! でも、楽しむためだけでなく、これも温度調整のためのエコシステムの一貫です。

ワイナリーにはプール! でも、楽しむためだけでなく、これも温度調整のためのエコシステムの一貫です。

もうひとつのチリのアドバンテージは、フィロキセラ禍にあっていないのでブドウを接ぎ木しなくてもよい、という点です。世界中の他のほとんどの産地ではブドウの根をダメにしてしまうフィロキセラという小さな虫への対策として、必ず接ぎ木して植樹しているのですが、「ラポストール」では自根のままです。正確には、同じ畑で接ぎ木しているものと自根のものから造った別々のワインを比較してみないとわかりませんが、およそ自根のブドウのほうがニュアンスのあるワインを造るのではないかと考えられています。砂浜を靴を履いて走るより、素足で走る方が気持ちがよいのと似ているでしょうか?

 

いずれにしても、チリがワイン造りの楽園だと呼ばれる理由は、いくつもの条件が揃っているからです。ただジュリアン ベルトロー氏曰く「20年前まで、チリではほとんどが赤ワイン、白ワインというカテゴリーでしかワインを造っていなかったのです。洗練されたワインがなかった」。

 

<ラポストールの3つの畑>

「ラポストール」がフランスのグラン マルニエ創設者の曾孫、アレクサンドラ・マルニエ・ラポストールによって設立されたのが1994年のことです。

 

ファイン・ワイン造りにあたって、気候条件が異なる3カ所に畑を取得しました。

コルチャグア・ヴァレーにある古い「アパルタ」の畑(189ヘクタール)。

アパルタより北部で内陸のカチャポールに「ラスクラス」(115ヘクタール)を取得して1994年に植樹。寒暖の差が大きい場所で、ソーヴィニヨン・ブランとシラーが主体です。

更に北西部の海岸沿いカサブランカには「アタラヤス」(60ヘクタール)を取得して1996年に植樹。この地は寒流の影響で冷涼なので、シャルドネと少量のピノ・ノワールが植えられました。

 

メインの「アパルタ」の畑は黒ブドウ品種が主体で、カルムネール、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルド、シラーが、馬蹄形の南向きの斜面に植えられています。馬蹄形の谷間なので、およそ一日中太陽の光が届くのですが、もっとも条件のよい西日が当たらない区画には、1920年植樹でほぼ100歳!という樹齢の高いブドウが健全に育っています。これも、ブドウが大きなストレスを感じることなく、ゆったりと長生きできる環境にあるという証です。

 

この古樹から生まれるのがトップ・キュヴェの「クロ・アパルタ」。2010年は、まさにブドウのエキスを飲んでいるようなニュアンスで、緻密で一体感があり、なめらかな食感がとても印象的なワインです。醸造前に行う「粒選り」からくる完全無欠さは、いつ飲んでも感動的です。

 

ただ「クロ・アパルタ」は価格もお高いので、予算に合わない場合には「キュヴェ・アレクサンドル・メルロ」がお薦めです。2012年を試飲すると、もちろん個性は異なりますが、傾向は似ていて、ブラックベリーやプラムといった熟した果実やエキス分、スパイスなどが感じられ、ソフトタッチ。こちらは多くの人による粒選りではありませんが、最新鋭の選果器を使っているようです。

 

「クロ・アパルタ以外の赤には、ヴィスタリス・オプティカル・ソーターを使っています」。醸造長が望む通りの粒の大きさと熟度のブドウが、高性能レーザーによって判別されて、不合格な粒ははじき出されてしまうシステムだといいます。随分高価な機械のようですが、農薬や新しい苗木や台木も買う必要がないわけですからね。そういえば、バイオダイナミクスを実践してはいるけれど、「デメテール」の認証シールをボトルに貼る予定はないようです。これも節約のひとつ。緩急のメリハリがきいていて素晴らしい!

(ワイナリー写真提供:MHD モエヘネシーディアジオ/text & photo by Yasuko Nagoshi)

 

試飲会場では、牛ほほ肉の赤ワイン煮込みがワインと共にサービスされていました。

試飲会場では、牛ほほ肉の赤ワイン煮込みがワインと共にサービスされていました。

カテゴリー 赤ワイン
ワイン名 キュヴェアレクサンドルメルロCuvée Alexandre Mrtlot
生産者名 ラポストール Lapostolle
生産年 2012
産地 チリ
主要ブドウ品種 メルロ、カルムネール
希望小売価格 3,000円(本体価格)
輸入元/販売店 MHD モエヘネシーディアジオ
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