ワイン&造り手の話

キリッとした男前な女性。初めて栗山朋子さんのワインを飲んだ時に、造り手さんはそういう人なのではないだろうか、と想像しました。きめ細やかな女性らしさはありながら、芯が通った、媚びないニュアンスがワインから感じられたからです。それから1年半ほど経ってからでしょうか? ようやくご対面できた時に、すべてが想像のままというわけではありませんが、およその勘はあたっていると気がつきました。

<2回目の試飲セミナーは二人で>

ブルゴーニュで栗山さんがワインを造り始めたのが2010年ヴィンテージ。この2月に、これからリリースされる予定で3回目となる2012年「シャントレーヴ」の試飲セミナーが行われました。前回は一人での開催でしたが、今回はパートナーのギヨーム・ボットさんと二人です。そう、ラベルに描かれているふたつの手の片方の人です。もちろん大きい方の手がギヨーム。栗山さんが小柄なので、二人並ぶとものすごく身長の差があって、何だか見ているだけで和んでしまいます。

ご存知の方も既に多いと思いますが、ギヨームは平日はサヴィニー・レ・ボーヌの「シモン・ビーズ」に勤務なので、シャントレーヴの造りの主体は栗山さんです。でも、「ドイツ時代は一人で造っていたので、今は相談ができるし、気がつかないところをお互いに補い合うことができるのが、とてもよいことだと思っています」という通り、セミナーではまずギヨームに話してもらい、それを即座に通訳しながら自分の意見も加えて説明してくれる姿を見て、とても素敵なコンビだと思いました。

さて、2012年のブルゴーニュワインは、品質はとてもよかったけれど収穫量がとても少なかったと、頻繁に耳にしてきました。やはり、栗山さんたちにとっても、状況は同じだったようです。「シャントレーヴ」はネゴシアン・ヴィニフィカトゥールと呼ばれる存在で、自分たちで畑そのものは所有しませんが、ブドウ栽培家からブドウを購入して、醸造・熟成させてワインに仕上げるのが仕事です。天候が悪くて収穫量が少ない場合、直接的な打撃はありませんが、収穫量が少ないからブドウを売れない、とか、収穫量が少ないからブドウを値上げする、と言われることもあるわけで、その交渉も大変な仕事です。もちろん、いい畑仕事はするけれどワイン造りをするつもりのない人を見つけるのが、とても重要な仕事のひとつなのでしょう。

二人が目指すスタイルは、赤白ともにピュアなブルゴーニュらしいワインです。「果実味が全面に出るのではなく、フローラルでミネラリティーを感じられる白」、「ブルゴーニュならではの果実の純粋性が感じられる赤い果実を表現した赤」。いくつか試飲してみると、言葉通りのワインができあがっていることがわかります。

例えば「ブルゴーニュ・シャルドネ」は、黄色い花や熟したリンゴのような、綺麗なフルーティーさとフローラルな香りで、なめらかな心地よい食感が感じられるとともに、ギュッと引き締まるミネラル感も感じられます。レジュメに書かれていた「テンションを残してかっちり造り」「ミネラリティー優先、果実味は上品に」という言葉が、最もスタンダードな白にもそのまま表現されています。

赤ワインの「ヴォルネイ」は、まるみを感じられる香りで、ラズベリーやスパイスの香りが立ちのぼります。果実が生き生きとして、プラスアルファの複雑性が感じられるといったニュアンスです。味わいもなめらかでソフトで、旨みを感じるとともに、フレッシュ感があり、ほどよいタンニンが引き締め役となる、華麗なワインです。こちらもレジュメの「フレッシュな果実味を表現する」「ブルゴーニュならではのピュアさ、緻密さやフィネスと調和する、かっちりしたタンニンを」という通り。

こうして確実に追求するものを具現化できる、というのは本当に素晴らしいことだと思います。

そういえば、赤ワインの説明の時にこんな話が。。。醸造中にタンクの上部には果帽と呼ばれる固形物の塊ができるのですが、それを潰すために、通常は栗山さん本人がタンクの中に素足で入って50センチほどの深さまで踏むのだそうです。ただ「しっかり踏みたい時にはボットに入ってもらうか、櫂を使います」。二人の身長の差は、こういう時に役立つのですね。

<2013年から>

二人とも様々なネットワークを持っている人ですが、ブルゴーニュの他の生産者を尋ねて色々と学びを得ることもあるようです。そして2013年ヴィンテージからは更に「ミニマルな介入」を進めたといいます。つまり、なるべく自然な状態を保ちながらワイン造りをすること。具体的には、ブドウやワインがなるべく酸化しないように丁寧に扱って、酸化防止のための亜硫酸を加える量を減少させる、という方向性です。例えば、醸造中や醸造後にポンプを使用するのをやめて、重力によって移動させる。これによって亜硫酸量が減らせるだけでなく、最終的にはワインの上品さを保つことにもつながるので、一石二鳥というわけです。

2012年でも素晴らしいできだと思うのですが、年々進化するのですから期待感が高まります。

ちなみに2012年は以下の銘柄で、生産量は228リットルの小樽で28樽分しかないようです。

白:ブルゴーニュ・シャルドネ

ムルソー

シャサーニュ・モンラッシェ プルミエ・クリュ レ・モルジョ

赤:ブルゴーニュ・ピノ・ノワール

モンテリー

ヴォルネイ

ポマール

でも2013年は新しい畑のキュヴェ、オークセイ・デュレスの白、サン・ロマンの白も加わって57樽分できるようですから、また来年も楽しみです。

輸入元:ラック・コーポレーション

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

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