ワイン&造り手の話

30年間、シャトーのマネージング・ディレクターを務めるポール・ポンタリエ氏。

<門外不出のサンプルが日本に上陸>

さる2月17日、汐留のコンラッド東京で日本ソムリエ協会主催による「シャトー・マルゴー」のセミナーがありました。83年に就任して以来、30年間、シャトーのマネージング・ディレクターを務めるポール・ポンタリエ、その子息でアジア担当のティボー・ポンタリエ、コマーシャルディレクターのオーレリアン・ヴァランスの3氏が来日。司会進行は石田博ソムリエです。

セミナー最大の目玉と言いますか目的は、いよいよ市場にお目見えするシャトー・マルゴーのサードワインお披露目なのですが、いきなり本題に入る前に余興がありました。2013年のワインの試飲。しかもアッサンブラージュもまだ済んでいない、プリムールもプリムールです。

私も何度か春にボルドーを取材した際、前年のプリムールを試飲した経験がありますが、さすがにアッサンブラージュ前のサンプルは初めて。ポンタリエ氏も、「このようなサンプルをシャトーの外に持ち出したのは、シャトー創設以来初」と言うではないですか。

2013年はすでにあちこちで話題のとおり、フランス各地が難しいヴィンテージとなり、とくにボルドーは91年や92年にも劣るとさえ言われています。シャトー・マルゴーも例外ではなく、春は雨がちで開花は不規則。夏は好天ながら9月はジメジメとし、そのために病気が蔓延しました。しかしながら、「こうした難しい年ほどテロワールの善し悪しがものをいう」とポンタリエ氏。

さて、用意されたサンプルは4つ。区画違いのカベルネ・ソーヴィニヨンが3つ。もうひとつはプティ・ヴェルドです。

<2013年のシャトー・マルゴーはメルロー抜き?>

まず最初のカベルネ・ソーヴィニヨン、Cuve No.43 “Le Mur”(ル・ミュール)がグラスに注がれるなり、思わず「薄!」と心の中で呟いてしまいました。色だけ見たらまるでボージョレ。香りも小さな赤い果実のようで、口に含むと酸の後にザラついたタンニンが感じられます。2番目はCuve No.19 “Les Pantes”(レ・パント)。こちらは1番目と比べるとはるかにしっかりした色をしており、肉厚でタンニンも丸みを帯びていました。3番目はCuve No.20 “Puch Sempeyre”(ピュシュ・サンペイル)。色調は2番目と似てますが、(私には)香りが閉じ気味でした。ただし、口に含むと2番目にはなかった複雑味が感じられます。

さて、1、2、3はどう違うのでしょう。1番目は粘土質の強い土壌で、2番目と3番目はシャトー・マルゴーの心臓部にあたる砂利質土壌のカベルネ・ソーヴィニヨンとのこと。そして最後にプティ・ヴェルド、Cuve No.50 Mellet。これはもう、”rustique”という表現がぴったりの粗っぽいタンニンです。ポンタリエ氏の「スパイス的にしか使わない」という言葉も頷けます。

このセミナーの1週間前にアッサンブラージュの比率は決まり、まさにセミナーのあった17日から樽寄せの作業が始まるとのことでした。それで決定したグラン・ヴァンの品種構成はというと、カベルネ・ソーヴィニヨン94%、カベルネ・フラン5%、プティ・ヴェルド1%。この試飲にカベルネ・フランがなかったのは、樽香が強過ぎて試飲に適さなかったためで、一方、メルローはもともと生産量が少ない上に品質がグラン・ヴァンに見合わず、2013年のシャトー・マルゴーはメルローがゼロという特異な年となったそうです。

果たしてアッサンブラージュ後のシャトー・マルゴーがいかなるものか。4月以降に明らかになるであろう、プリムールの評価が見物です。

<パヴィヨン・ルージュの底上げが生んだ副産物>

そしてこれ以降は完成したワインの試飲となり、2011年のパヴィヨン・ブラン・デュ・シャトー・マルゴーを経て、いよいよ、本日の主役、シャトー・マルゴーのサードワインが登場しました。

だいぶ前からその存在自体は知られ、2年前のシャトー取材時にもポンタリエ氏から概要をうかがってはおりました。曰く、セカンドワインとなるパヴィヨン・ルージュ・デュ・シャトー・マルゴーの品質を底上げした結果、新たにラベルを付けてリリース可能なサードワインの誕生となったこと。また、その名前について、「まさかマルゴー・ド・マルゴーではないですよね」という冗談交じりの問いかけへの返答として、薄笑みを浮かべながら口を濁したこと……。

結局のところ、ワインの名は「マルゴー・デュ・シャトー・マルゴー」というベタなものでした(笑)。基本的に樹齢の若いブドウから造られ、初ヴィンテージの2009年は、メルロー50%、カベルネ・ソーヴィニヨン40%、プティ・ヴェルドが10%という品種構成。2009年らしい、濃密感のある果実味が特徴で、柔らかくしなやかなテクスチャー。すでに美味しく飲めてしまいます。

サードワインのラベル。

サードワインのラベル。

<いつかはシャトー・マルゴーを目指す人たちの入門篇>

驚いたのはその販売方法です。ボルドーのワインは現地のネゴシアンを通じて販売されるのが原則ですが、このワインはネゴシアンを通さず、シャトーが直接販売を行うという異例の措置がとられました。フランス国内と伝統的な市場である英国においては昨年から販売され、今年から日本とアメリカで発売となります。現時点ではその4市場のみ限定のようです。なぜ中国がないのか、不思議ですね。

日本のエージェントも限定され、エノテカ、ファインズ、徳岡、モトックスの4社のみ。日本ソムリエ協会の会員を前に、「レストランで1万5000円までの価格設定を望む」とポンタリエ氏。「若い人たちがいつかはシャトー・マルゴーを目指せるように、まずはサードワインをお手頃な価格で提供したい」とのお話でした。大部分がレストランマーケットと見られていますが、一般にも小売りをするエノテカでは、税抜き1万円で売られるようです。今や尋常ならざるお値段のつくシャトー・マルゴーの入門篇としては、十分に良心的な価格ではないでしょうか。

試飲はさらに続き、パヴィヨン・ルージュ・デュ・シャトー・マルゴーの2004年、シャトー・マルゴーの1999年で締められました。それぞれ10年、15年の熟成を経て、複雑なフレーバーが生まれています。

1999年のシャトー・マルゴーは3年ほど前、他の5大シャトーとともに味わう機会がありましたが、このヴィンテージのベストがマルゴーだった記憶が強く残っています。

2009年のマルゴー・デュ・シャトー・マルゴー。リリースされれば秒速で売り切れてしまいそうな予感ですが、今後、ラトゥール、マルゴーに続いて、サードワインを売り出す5大シャトーはあるのか? シャトー直販という形態は今後さらに広がりを見せるのか? 気になるところです。

(text & photo by Tadayuki Yanagi)

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