ワイン&造り手の話

スイスのワインは大半が国内消費されてしまうため、あまり日本でも知られていませんが、その粋な姿に対面すると、清々しく透明感のあるワインに心が動かされます。本当にきれいな環境で生まれたワインなのだなあ、という印象です。代表的なブドウ品種、シャスラの他にも、ピノ・ノワールやガメイ、あるいはスイス特有のガマレといったユニークなものも。さあ、和食との相性は?

<ヴォー州>

スイスといえば、スキー、時計、チーズ、アルプスの少女ハイジ、あるいは銀行。人それぞれ思い浮かべるものはちがうと思いますが、誰もの共通イメージは澄んだ空気、ではないでしょうか?

かつて一度だけワインの取材に行ったことがあります。ワイナリーを数軒訪問した後に訪れたのはツェルマット。最もワイン産地が多いヴァレー州の街ですが、スキー三昧の日々を過ごす人々やマッターホルンを観るために訪問する観光客が各国から集まって来ていました。スイスワインの試飲会が、そのツェルマットで行われたのです。ハリがあり透明感のある空気。標高が高いことも関係しているのでしょうが、それ以来、スイスのイメージはこのまま変わっていません。

ただ、スイスワインのイメージをお持ちの方はそれほど多くないかもしれません。スイスはワインの生還国でありながらワインの輸入量が多いことで知られています。観光客が世界中からやってくることもあり、世界でも有数の消費国なので、標高が高く山岳部の多いスイスにある限られた産地のワインだけではとても賄いきれないのです。だから、輸出できる量がとても少ないというわけです。

さて、ヴァレー州の西にあるヴォー州は、ちょうどスイスの西端でフランスと国境を接する場所にあります。そして三日月形のレマン湖の北から東にかけて、小さなワイン産地が湖を取り囲んでいます。中心にあたる「ラヴォー地区」は、ユネスコの世界遺産にも登録された、中世に修道士たちが拓いた急斜面の段々畑でも有名です。そのラヴォー地区の西側には「ラ・コート地区」が、東隣には「シャブレー地区」が並んでいます。

<ラ・コート地区とシャブレー地区のシャスラ>

スイスの代表的な白ブドウ品種は「シャスラ」です。比較的ニュートラルでそれほど突出した特徴がない代わり、生まれる土地や畑の個性を忠実に表現する白いキャンバスのような存在、と言えるかもしれません。

「シャスラはとてもピュアな品種で、土地によってワインの性格がすべて異なります。シャスラは、まるでスポンジのような品種です」というのが、今回会ったベルナール・カヴェさんとブノワ・リブレさんの共通した意見でした。

ラ・コート地区生まれの「シャトー・ル・ロゼー」の「コテ・ニル2012」は、レモンやライムのような柑橘類を思わせる、清々しくしっとりとして、フルーティー。

片やシャブレー地区の「ドメーヌ・ド・ラ・ピエール・ラティネ」の「リヴォルヌ2012」は、同様にシトラス系果実に加えて、花の香りが加わり、よりミネラル感があり芯のある味わいです。

シャブレー地区の中でもラヴォー地区に近い位置に畑のある「ベルナール・カヴェ」の「オロン2012」では、柑橘類にアプリコットの香りが加わり、なめらかな口当たりでオイリーさも感じるほど。

同じ造り手の「クロ・デュ・クロワゼ・グリエ2012」では、花と果実の香りがより華やかになり、力強さとミネラル感が共存しています。

ヴォー州のワインを目黒区の「八雲茶寮」の食事と合わせてみよう、という試みがされたのですが、特にホワイトアスパラの天ぷらと「オロン2012」、海老煎餅と「クロ・デュ・クロワゼ・グリエ2012」が、すばらしい組み合わせで驚きました。ワインそのもののインパクトが強くて主張する、というよりも、お料理に寄り添ってお互いに引き立て合いながら別の世界をつくっていく、という感じでしょうか。素敵でした。ただ、同じ料理を作るのは家庭では困難ですから、真似してみる他にこの組み合わせを再現する手立てはありませんけれど。

<ロゼと赤>

白だけではありません。ロゼと赤も造っています。ガメイやピノ・ノワールが多いですが、ガマレという独自の黒ブドウ品種も栽培されています。

ガメイで造られるロゼ「シャトー・ル・ロゼー」の「ニゼーレ2012」は、色合いも淡く、ベリー系果実が上品に立ちのぼる、清楚でしなやかな味わいです。洗練された味わいなので、素材の味わいを生かすタイプの料理と合わせたくなる味わいで、この時には「鰆の味噌柚庵」のお伴を務めました。

ガマレという品種は、1970年にスイスで交雑されもので、親はガメイとレッシェンシュタイナー(Reichensteiner)。房も粒も小さいようです。カマレだけで造られた「ベルナール・カヴェ」の「ガマレ2012」は、色もしっかりとして、スパイシーでチェリー系の香りがハツラツとして、清涼感を思わせるミネラリーな要素も備え、タンニンもきっちり。とてもきれいな造りでした。

まだまだ日本への輸入量が少なくて、出会う確率が低いかもしれませんが、上品なタイプのワインがお好きな方や和食党の方々に特にお薦めしたいカテゴリーです。是非繊細な和食と合わせてみてはいかがでしょうか。

<おまけ/アンフォール>

ベルナール・カヴェさんは、自分のドメーヌ「ベルナール・カヴェ」を運営する傍ら、友人でイヴォルヌ村の村長を務めるフィリップ・ジェックスがオーナーの「ドメーヌ・ド・ラ・ピエール・ラティネ」の醸造アドバイスもしています。彼がiPadを取り出して見せてくれたのが、最近特に有機栽培やバイオダイナミクスを行う造り手がよく使っている卵形のコンクリートタンクでした。2006年から使い始めていて気に入っているようです。

「このタンクをアンフォラと呼んでいるのですが、これを使うとミネラル感が引き出せる。ワインを飲んだ最後にミネラルが残るので、味わいのバランスがとてもよくなるから」というのが利点のようです。

例えば「ベルナール・カヴェ」の「オロン2012」にはアンフォール10%とステンレスタンクで90%醸造。「クロ・デュ・クロワゼ・グリエ2012」は、アンフォールとステンレスタンクを50%ずつ使うようです。

カテゴリー ロゼワイン
ワイン名 ニゼーレ Nizeré
生産者名 シャトー・ル・ロゼー Château Le Rosey
生産年 2012
産地 スイス/ヴォー州/
ラ・コート地区
主要ブドウ品種 ガメイ
希望小売価格 3,580円
輸入元/販売店 ヴァン・レマン
カテゴリー 白ワイン
ワイン名 リヴォルヌ L’Yvorne
生産者名 ドメーヌ・ド・ラ・ピエール・ラティネ  Domaine de la Piere Latine
生産年 2012
産地 スイス/ヴォー州/シャブレー地区
主要ブドウ品種 シャスラ
希望小売価格 5,980円
輸入元/販売店 ヴァン・レマン
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