ワイン&造り手の話

「日本に来たのは初めてですが、来てすぐにとても好きになりました」と、チャック・ワグナーさん。でも、「ケイマス」はナパ・ヴァレーを代表するワイナリーで日本にもファンが多いはずなのに、どうして初来日なのか? その理由はいくつもあるようです。

<ケイマス設立とナパのカベルネ・ソーヴィニヨン>

ご存知の方も多いとは思いますが「ケイマス・ヴィンヤード」の概要を少々。チャック・ワグナーは、1971年に両親から相談を受けました。

「このナパ・ヴァレーで共に新しいワイナリーを設立してみるか? でも、もし継がないのであれば、オーストラリアへ行くのもいいかもしれない」。

それまで明確に将来の展望をもっていなかったので、悩みはしたようですが、ずっと父の背中を見て育ってきたので、結論はすぐに出たようです。

「その時、’66年に元従業員が逆恨みをして銃を持って父に襲いかかった姿なども思い出された」とも言います。

そして19歳にして、両親と共に1972年に「ケイマス・ヴィンヤーズ」を設立。愛着のあるナパ・ヴァレー興しの始まりです。今ではナパに450社以上のワイナリーがありますが、当時は稼働していたのがわずか10社だったそうです。そしてまだ「ナパにカベルネ・ソーヴィニヨンあり」という概念はまだない時代です。いくつもの品種をトライアルで栽培・醸造し続けた結果、最も熟成可能性の高いカベルネ・ソーヴィニヨンをメインにしていきます。「私は大学でワイン造りを学んだわけではなく、父と共に30年間現場で働くことで栽培や醸造を身に付けたのです」と、ケイマスの実績はすべて経験の積み重ねによる賜物だったのです。

<スペシャル・セレクション カベルネ・ソーヴィニヨン ナパ・ヴァレー>

ケイマスの「スペシャル・セレクション」は、文字通り、選び抜かれたカベルネ・ソーヴィニヨンを主体としたブドウから造られるフラッグシップです。ここしばらくカリフォルニアワインの世界では、「ブティック・ワイン」と呼ばれる極少量生産の単一畑ものが珍重される傾向にありましたが、これはそういう銘柄ではありません。

「単一畑のユニークさや個性は、品質の安定や収穫量のリスクという観点からすると、決して優れているとはいえないため、ケイマスでは単一畑ものは造らない」という方針があります。初ヴィンテージの1975年からほぼ毎年生産され続けています(1977年、1993年、1996年は欠年)。

そして基本的には「安定したクラシックなワイン」としての地位を確立していますが、21世紀に入ってから少し姿を変えます。

「2001年からはボルドーを意識せず、ボルドーとは異なる『ナパ』独特のワインを造ろうと決めました」。初期の試行錯誤が終わり、安定した品質が保てるようになり、「ナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨン」の品質が、広く認知されるようになったという証でしょう。

ブドウ1株あたりの収穫量を制限し、熟した果実のみを用いるという方向性で、その結果「充実した果実味、ソフトな酸、丸いタンニン」が得られるようになりました。また、「ココアパウダーのような食感のタンニン」が特徴のひとつでもあるといいます(実際にいくつかのヴィンテージを試飲したコメントは、最後に記しておきますので、ご参考に)。

またチャック・ワグナー曰く「果実の若さがなくなって酸が落ち着いて感じられる10年ぐらい経過してからが飲み頃の始まり」。つまり、今なら2003年から2004年ぐらいがお薦め、ということです。開けずに待つのは忍耐が必要ですが、美味しく飲むためならば、購入してワインセラーへ入れておき、しばらく忘れることにするのもよいかもしれませんね。

<初来日のわけ>

冒頭に記したように、チャック・ワグナーは現場主義の人です。現場にかける人で、現場から離れられない人は確かに多くいます。それに加えて、父親のチャールズが2002年に90歳で亡くなり、2013年秋には母親のローナが他界した、という事情もありました。

「今では自分の子供達が成長して、他にいくつものワイナリーを設立し、任せています。これまではワイナリーへの責任も大きかったし、母の面倒見なければいけませんでしたから。でも今年になって少し時間ができたので」。

またの来日を、お待ちしましょう!

ワグナー一家のワインたち。

ワグナー一家のワインたち。

<付記/ワグナー家 4代目から5代目へ>

自分が両親からチャンスを与えてもらったので、自分の子供達にも与えるべきだと考えて、それぞれにワイナリーや課題を与えて競争させているといいます。その性格やワインの個性のちがいも、楽しんで眺めている様子でした。

ケイマス・ヴィンヤーズ→ 長女のジェニーが父について修行中

メール・ソレイユ Mer Soleil→ 長男のチャーリー担当/シャルドネに特化

コナンドラム Coundrum→ ベテランワインメーカーのジョン・ボルタ担当

メイオミ Meiomi→ 次男のジョセフ担当/ピノ・ノワールに特化

ベル・グロス Bell Glos→ 次男のジョセフ担当/ピノ・ノワールに特化

<付記/試飲コメント>

Caymus Vineyards Special Celection Cabernet Sauvignon

1991/ きれいな熟成項。スパイスやドライチェリーなどの複雑な香り。味わいはとてもしなやか。きめ細やかでタンニンも細やかで、なめし革やカフェの香りも。

2000/ カシスやブラックベリーなどのリキュール、スパイス、コーヒー、バニラなどわだ若さも感じる香り。とてもなめらかでベルベットのよう。力強さと上品さが共存している。

2003/ まだ固さのある若々しい香り。ブラックベリーやチョコレート、スパイス。なめらかな果実味で、厚みがあり、力があり、収れん性も強い。果実の熟度が高い。

2009/ 華やかな香り。チョコレート、カシス、ブラックベリーのリキュール、コーヒー、スパイス、紫色の花。なめらかで、厚みがあり、弾力を感じる果実味。収れん性も多く、まさにココアパウダーのような食感。

2010/ まだ固さのある若々しい香りで、濃いカシスのエキス、ブラックベリー、スミレの花など。たっぷりとした果実味で、酸もソフト。厚みがあり力強く、とてもリッチな仕上がり。収れん性も細やかで豊か。次第に香りが華やいでいく。

2011/ コーヒー、チョコレートなどの香りに始まり、次第にカシスやブラックベリーなどのよく熟した濃くてハツラツとした果実の香りが出てくる。ベルベットのようななめらかさと厚みがあり、収れん性はこれもココアパウダー的。

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

カテゴリー 赤ワイン
ワイン名 スペシャル・セレクション カベルネ・ソーヴィニヨン ナパ・ヴァレーSpecial Selection Cabernet Sauvignon Napa Valley
生産者名 ケイマス・ヴィンヤーズCaymus Vineyards
生産年 2011
産地 アメリカ/カリフォルニア/ナパ・ヴァレー
主要ブドウ品種 カベルネ・ソーヴィニヨン主体
希望小売価格 17,500円(本体価格)
輸入元/販売店 ワイン・イン・スタイル
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