おしゃれに飲む

「食の名文家たち」「池波正太郎劇場」「作家の食と酒と」「ソムリエ世界一の秘密 田崎真也物語」など、多数の名著で知られる重金敦之さんの最新版です。どのような作家が、どんな酒を、どういう場面で登場させて、どんな風に描いたのか。読んでいると、出てくるものが飲みたくなったり、原書を読みたくなる一冊です! そして何より面白いのが、それぞれの文学から酒の場面の切り取った重金さんご自身の言葉。いわば「つっこみ」といったところでしょうか。

お酒の種類は「ビール」「ウイスキー」「ワイン」「ブランデー」「焼酎」「カクテルとリキュール」「紹興酒」「日本酒」と分かれています。最も興味深い「ワイン」のページを早速開いてみました。

興味のある部分から読み始められます。作家や作品から、という場合には索引から。

興味のある部分から読み始められます。作家や作品から、という場合には索引から。

「鰻丼の合うワインとは」という、昨年春に東京で開催された「第十四回世界最優秀ソムリエコンクール」の実技試験の話がエピローグ。当日この実技を見ていましたが、各国の代表として来日したソムリエ陣が一人ずつ鰻丼の味見、そして2種類の赤ワインの試飲を壇上でしていました。海外からの選手も、箸を器用に使っていたのが印象に残っています。これに、映画化もされ話題となった「舟を編む」の三浦しをんによるワイン入門書に記されたブラインド・テイスティングや、「舟を編む」の一節が引用されています。

そして本編は、皆の好きなスパークリングワインから始まります。泡ものの話の中にも「カリフォルニア・シャブリ」という言葉を目にして懐かしくなったり、シャンパーニュが「シャムパン」とか「三鞭酒」と記されていたと知り戦前から特別な飲み物だったのだと感心したり。

「日本人には浮かばない『発泡の溜め息』」という一節には、ピーター・メールの「南仏プロヴァンスの木陰から」の引用文があります。シャンパーニュをはじめとしてスパークリングワインの栓を開ける時に、なるべく泡が抜けないようにコルク栓を抑えながらそっと取り除く行為について、ピーター・メールの「『発泡の溜め息』などという言い回しは、とても日本人の頭には浮かんでこない。そのような生活体験や慣習がないのだから、仕方がない。」とあります。確かにあの「プシュ」という音を「溜め息」とは思い浮かびませんよね。

開高健と「ロマネ・コンティ」節を繰り返し読みたくなったり、アメリカの推理小説作家スタンリイ・エリンの短編に出てくる謎のブルゴーニュの話で想像力をたくましくしたり、甘糟りり子の短編での「ルーチェ」については現実の世界へ戻ってきたり。読んでいる間に、時代や空間などの設定が移り行くので、重金さんのガイドにそのまま連れられて回遊しているような気分になります。

次に誰かと飲むときのネタにもできる話題が、たっぷりぎっしり詰め込まれている豊かな一冊です。ただ、読んでいるうちに、飲みたくなってきますから、あらかじめ何か一杯片手に読み始めるのもよいかもしれませんね。

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

表紙 カテゴリー 新書
書籍名 ほろ酔い文学事典 作家が描いた酒の情景
著者名 重金敦之
発行日 2014年3月30日
判型など 朝日新書
ISBN 978 – 4 – 02 – 273552 – 2
出版社 朝日新聞出版
定価 定価(本体 780円+税)
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