ワイン&造り手の話

「BB&R(ベリー・ブラザーズ&ラッド)」のブルゴーニュワインのバイヤーで現地在住のジャスパー・モリスMWが、新星のひとりと共に来日しました。今のブルゴーニュワインの流れと、ふたりのライジング・スターについて聞きました。熱烈なブルゴーニュ・ファンはもちろん、そうでなくても、興味深い内容です。

ブルゴーニュの新星たち。

ブルゴーニュの新星たち。

<新星1/ドメーヌ・バシュレ・モノ>

「実は、せっかく見つけて大喜びしたのに、イギリスの輸入元はもう決まっていたのでがっかりしました。でもどうしても扱いたくて、日本のマーケットのために契約したんですよ」と、ジャスパー・モリス。いかにこのドメーヌが気に入ったのかがよくわかります。

今のブルゴーニュのワインを大きくふたつに分けるとすれば「豊かでまろやかなタイプ」と「フレッシュでミネラル感が豊富なタイプ」になり、この造り手の場合は後者。2005年にマルク&アレクサンドレ・バシュレ兄弟が始めたばかりという、まさに新進気鋭の造り手で、ブルゴーニュの比較的南部に位置する「マランジュ」を拠点としています。

コート・ド・ボーヌ最南端の村で、すぐ隣がサントネイという立地の「マランジュ」は赤ワインで知られる丘ですが「丘の頂はより涼しいし、表土が薄いので高い酸が得られるため白に向いています。シャルドネは、今、樹齢40年ほどですね」。丘の斜面から下方にはピノ・ノワールを、丘の頂にはシャルドネを栽培しているようです。

また、ムルソー、シャサーニュ・モンラッシェ、ピュリニー・モンラッシェ、バタール・モンラッシェも併せて生産しています。いくつか試飲しましたが、特に白ワインはどれもフレッシュでエレガント、そしてミネラリーという表現がされるタイトなコアな部分が備わっていて、酸がきれいな印象でした。

(参考)

「マランジュ プルミエ・クリュ ラ・フシエール 白 2011年」は、白桃などの熟した白い果実やミネラル感のある香りで、味わいもキリッと芯のある、きれいな酸も印象的なかっちりとした味わい。

「シャサーニュ・モンラッシェ 白 2011年」は、よりリッチでふっくらしてシャサーニュらしい豊かさが出るものの決しておもくはなく、丸みと力がありミネラル分の強い味わい。

「シャサーニュ・モンラッシェ プルミエ・クリュ レ・シュヌヴォット 白2011年」は、香りは閉じ議身で、味わいはなめらかなアタックの後、きっちりとした酸が長く余韻に続き、旨みも感じられる、ハリのある味わい。

「マランジュ クロ・ド・ラ・ブティエ 赤 2011年」は、樹齢65年のピノ・ノワールが植えられたとても細長い南東向きの区画で、標高は低め。ラズベリーやチェリー、スミレなどが若々しく香り出て、なめらかさとフレッシュ感、そして細やかで豊かなタンニン。

<新星2/シルヴァン・ロワシェ>

今回、ジャスパー・モリスと共に来日したのが、このシルヴァン・ロワシェ。彼のワイン造り開始も2005年から。コート・ド・ニュイの南端コンブランシアン産まれで、ロワシェ家は大理石の採掘と石工が本業のようです。他者へ貸与していたブドウ畑の契約がちょうどシルヴァンがワイン学校卒業時に終了、というグッド・タイミング。

「シルヴァンを有名にしたのは、彼のラドワだよ」と、ジャスパー・モリス。ラドワの畑は、コルトンの丘の東端にあります。南向きの広い斜面は素晴らしい赤ワインで知られるアロース・コルトン、西側は偉大な白ワインで有名なコルトン・シャルルマーニュを生む畑です。ところがラドワは、特級畑の陰に隠れるようにして、どちらかといえば地味な存在。

「ラドワは赤ワインが多いですが、ロワシェ家が単独所有するボワ・ド・グレションは、白亜質でシャルドネに最適の区画」。この畑から生み出されるシルヴァン・ロワシェ作の白は、あのラドワからこんなに素晴らしい白ワインを造れるなんて!? と評判になったということです。

「畑はずっと有機栽培。質の高いブドウを得るために、多くの時間を畑で費やします。一般の畑仕事と比べると2倍の時間をかけていると思います。その代わり、よいブドウが収穫できたら醸造は最低限のことしかしません。収穫時期も念には念を入れて決めます。未熟でも過熟でもダメですから」。と、シルヴァン・ロワシェ。

同じ丘にありながら東側のラドワと西側のコルトン・シャルルマーニュでは、収穫時期が最低でも1週間異なるといいます。「ラドワは早く熟し、コルトンは一番遅いですね。収穫のタイミングは開花時期にほぼ予測をたてておきますが、最終的には味見して決めます。分析値にはあまり頼らない」。

シルヴァン・ロワシェはラドワとコルトン・シャルルマーニュ、白2種類を試飲しましたが、共通項はバランスのよさとなめらかな舌触り。ヴィンテージの違いも関係しますが、バシュレ・モノほどのタイトでキリッとしたニュアンスではなく、よりテクスチャーが心地よく感じられました。ラドワ、コルトン・シャルルマーニュの他にも、ペルナン・ヴェルジュレス、サントーバン、ムルソー、ピュリニー・モンラッシェ、クロ・ド・ヴージョ、ニュイ・サン・ジョルジュも造っています。

(参考)

ラドワ 白 ボワ・ド・グレション2009年

ほんのりバニラ香、熟した白い果実の香り。なめらかなアタックでふくよかさも感じられ、フレッシュな酸とミネラル感が豊か。後味がとても爽やか。

コルトン・シャルルマーニュ 白 2009年

グラスに注いですぐは香りは閉じ気味。バニラ、熟した白い果実、黄色い果実などまろやかさと深みを感じる香りで、徐々に広がりをみせる。厚みがあり、粘性、酸、ミネラル、力強さも感じられ、余韻が長く続く。(この年は「アン・シャルルマーニュ」区画のみ。2011年は「アン・シャルルマーニュ」と「コルトン」区画を別々に醸造。2012年からはふたつをブレンド)

<ブルゴーニュの新潮流とは?>

ブルゴーニュでは今、冒頭で挙げたふたつのタイプのうちの後者「フレッシュでミネラル感が豊富なタイプ」のほうが主流になりつつあるようです。

例えば「ドメーヌ・バシュレ・モノ」の白ワイン造りでは、熟成を1年間樽で、6ヶ月間タンクで行いますが、新樽比率は平均25%と低めにし、2013年からは大きさも350Lのみ。澱の撹拌(バトナージュ)も行いません。

「5年前ぐらいから、大きめの樽を使うところが増えてきました。樽香がつくのを回避したいからです。バトナージュをしない、あるいは回数を減らすところも増えています。今は、リッチなタイプより、フレッシュでミネラル感豊かなタイプへ向かっていますから。ロバート・パーカー効果もそろそろおしまいでしょう」と、ジャスパー・モリス。

「赤ワインでは、除梗する率を低くするところが出てきています」。温暖化の影響で梗もよく熟す傾向にあるのが、理由のひとつでもあるのだとか。

また白ワインと同様に「力とエクストラクトの強いタイプ」より、どちらかといえば「軽やかでエレガントなタイプ」のほうが増えてきています。

「ロバート・パーカー的な嗜好は、赤ワイン好きのための指標だったと考えています。今の流れは、ブルゴーヌ好きのためのワイン造りへ向かっているということです」と、ジャスパー・モリス。

シルヴァン・ロワシェも「特に若い世代はテロワール(様々な要因を含む土地の個性)を尊重したワイン造りを目指しています。一人の評論家だけに受けるスタイルを造ろうとは思わないですね」。

既にロバート・パーカーの点数の影響力は衰え、畑の個性をいかにうまく表現するか、という命題に日夜取り組んでいるようです。

<付記>

ジャスパー・モリスへ、いわゆる「自然派ワイン(自然な栽培法によるブドウから造ったワイン、というカテゴリーでなく、亜硫酸無添加などを謳ったヴァン・ナチュールと呼ばれているワイン)」についての質問があり、彼はこう答えていました。「BBRでは取り扱いません。ナチュラル・ワインは取扱中に変質する恐れがあるので、造り手から消費者にダイレクトに販売してほしいと考えています」。

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

バシュレ・モノ カテゴリー 白ワイン
ワイン名 マランジュ プルミエ・クリュ ラ・フシエールMaranges 1er Cru La Fussiere
生産者名 バシュレ・モノ Bachelet-Monnot
生産年 2011
産地 フランス/ブルゴーニュ地方
主要ブドウ品種 シャルドネ
希望小売価格 3,900円(本体価格)
輸入元/販売店 BB&R(ベリー・ブラザーズ&ラッド)日本支店
シルヴァンロワシェ カテゴリー 白ワイン
ワイン名 ラドワ・ブラン・ボワ・ド・グレションLadoix Blanc Bois de Grechons
生産者名 シルヴァン・ロワシェ Sylvain Loichet
生産年 2009
産地 フランス/ブルゴーニュ地方
主要ブドウ品種 シャルドネ
希望小売価格 4,400円(本体価格)
輸入元/販売店 BB&R(ベリー・ブラザーズ&ラッド)日本支店
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