池田美樹のおしゃれとワインのいい関係 〜ジェラール・ベルトランの最高峰Clos d’Oraは、祈りと光を分かち合うワイン〜
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祈りについて考えたことがある。
愛を叶えてほしいという祈り、赦されたいという祈り、愛する人の命を救ってほしいという祈り。時にはかなわぬこともあるというのに、なぜ人は祈り続けるのだろう?
そこには自らを照らす光があるからだ、と、その時の私は思った。
raison d’êtreレゾンデートル、と、彼は言った。ジェラール・ベルトラン。南仏で自らの名を掲げたワイナリーを経営する。このワインをつくることは、私のレゾンデートル=存在理由である、と。
Clos d’Ora、祈りのブドウ畑と名付けられたこのワインは、実に17年もの歳月をかけてリリースとなった、ジェラール・ベルトランの最高峰だ。今回、このワインの海外初のお披露目に出席するという幸運に与った。「お会いするのは去年に続いて二度目だね。もちろんあなたのことは覚えているよ」と彼は笑った。
もともと、ここは、バイオダイナミクス農法をつかってブドウを栽培するメーカーだ。ビオディナミ、とも呼ばれる農法は、多くのワイン生産者に影響を与え、その方法に忠実に、あるいは弾力的にブドウ栽培をおこなっている生産者が多数存在する。
ビオディナミとは、「月やその他の天体の動きが植物に与える作用を重視した農業暦を用いた栽培法」とWikipediaにはある。私自身は特にこの作り方のブドウによるワインにこだわったことはないけれど、ブドウからつくられるワインはすなわち自然の恵みである、と考えると理解できる。
Clos d’Oraは、もちろん、バイオダイナミクス農法で栽培されたブドウを使ってつくられている。さらに、鉱物と植物、動物、人間の繋がりを強めるため、動力としているのはラバと馬のみ。宇宙の恵みを受けるべく、発酵タンクは屋外に設置するという徹底ぶりだ。
ジェラールは、元ラグビー選手フランス代表だったというその頑丈な体つきからは想像もできないような、優しく繊細な言葉を使う。父親のブドウ作りを手伝い始めたのは10歳の時。ワイナリーを継いだのは22歳の時。南仏の多様性とビオディナミのカルチャーを理解したうえで、自らの手でビオディナミを超えたワインをつくりたかったという。
その理由は?
「なぜなら、ワインは、時に、飲みものの域を超えてメッセージを伝えるからだよ」
彼がClos d’Oraに乗せて伝えたいメッセージは、平和、愛、調和なのだという。1997年、散歩中に発見したという丘の上に古い羊牧場のある風景、そこで感じた深いやすらかな気持ち。そして芽生えた、ここで何かをつくりたいという欲求。それは実に自然なことだったに違いない。
私たちは、ワインを通じてその祈りを聞き届け、彼を照らした光を感じることができる。安らかな気持ちを分かち合える。そう思うとき、ワインって、なんと素敵な飲みものなんだろう! と思うのだ。テクニカルデータなんて、その後についてくればいい。
「そう、私はテイスティングのためではなく、飲むためのワインをつくっているつもりなんだ。食事が終わったらボトルが空になっている……それが、ワインを飲む幸せだと思うし、そういうワインをつくっていきたいと思っているんだよ」
私は、彼の祈りを受け止めることができただろうか?
「何十年もじっくり熟成できるワインができたと思う。また2050年に、一緒にこのワインを飲みたいね」
36年後の約束。楽しみにしていようと思う。

この日のおひろめ会は帝国ホテルの「レ・セゾン」にて。ワインを最高の状態で楽しんでのらえるように、と、出されたすべてのワインにRIEDEL社の最適なグラスがペアリング。ジェラール自ら試して選んだのだとか。ちなみに2012 Clos d’OraにはVERITAS NEW WORLD SHIRAZ 6449/30を合わせてあった。デキャンタはFLAMINGO 2007/01にて。
(text & photo by Miki Ikeda)
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カテゴリー | 赤ワイン |
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ワイン名 | クロ・ドラ Clos d’Ora | |
生産者名 | ジェラール・ベルトラン Gerard Bertrand | |
生産年 | 2012 | |
産地 | フランス/ラングドック地方 | |
主要ブドウ品種 | シラー、グルナッシュ、ムールヴェードル、カリニャン | |
希望小売価格 | 25,920円 | |
輸入元/販売店 | ピーロート・ジャパン |
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