グリューナー・フェルトリーナに運命を掛けたレンツ・モーザー 〜モーザー家15代目が始めた「ローレンツ・ファイヴ」〜
06/19
オーストリアの代表ワインといえば、グリューナー・フェルトリーナ! でも、こうして認識されるには時間がかかりました。ちょうど10年前から、グリューナー・フェルトリーナだけに特化してワイン造りを行うために、モーザー家の15代目レンツ・モーザーは「ローレンツ・ファイヴ」を立ち上げました。レンツ(ローレンツ)・モーザー5世、を意味する命名です。さあ、この決意のきっかけはどこにあったのでしょうか。
<モーザー家>
レンツ・モーザーは、オーストリア屈指のワイナリーとして知られていただけでなく、来日したレンツ・モーザー5世の祖父にあたるレンツ・モーザー3世のことをオーストリアのワイン界で知らない人はいません。それは、祖父の時代には地元品種のグリューナー・フェルトリーナは、ほぼ「株仕立て」で栽培されていたのを、高い垣根仕立てを開発して広めたからです。1950年代から一世を風靡して「レンツ・モーザー仕立て」と呼ばれるようになりました。
「祖父についてブドウ畑の仕事を学びました。6歳の頃から。仕立て、剪定、収穫。ブドウ品種の見分け方。それに、土の中のバクテリアの組成についても」と、当代レンツ・モーザー氏。とにかく祖父は畑の人で、反対に父はどちらかといえばワイン造りの人だったようです。
畑の人であるレンツ・モーザー3世は早くも、グリューナー・フェルトリーナがオーストリアにとって重要な品種だと気がついていたといいます。「オーストリアは小さいから、独自のブドウ品種が必要だ、と言っていました。それがグリューナー・フェルトリーナだと、私は確信したのです」。父のワイナリーで仕事をし、その後「ロバート・モンダヴィ・ヨーロッパ」の支配人として長年勤務した後に、地元に戻りグリューナー・フェルトリーナ一本で勝負しようと決めたのでした。
「この10年越しのプロジェクトが、私の最後の仕事になるでしょう」。オーストリアの中でグリューナー・フェルトリーナの栽培面積は約30%だといいます。それを100%にしてしまったのです。カンプタル地域にある自社畑の他の品種はすべて植え替え。農家の契約先もグリューナーのみ。「最初の数年は辛かったですね。でも、周囲の反応が徐々に変わり、世界が変わりました!」確かな感触を得られている様子。それに双子の娘、ソフィーとアナが既に16代目として次世代を担ってくれることになっているのが心強いところです。
<グリューナー・フェルトリーナはカメレオン?>
グリューナー・フェルトリーナのワインは、それほど飲んだことがないけれど、どんな特徴があるの? という質問が聞こえてきそうです。日本にも輸入されるアイテムが増えてきてはいますが、フランスやイタリアのワインに比べればまだ少数派です。「グリューナー・フェルトリーナのワイン95%は、ドイツ語圏で飲まれています」と、レンツ・モーザー氏も言います。
「ただ、グリューナー・フェルトリーナはカメレオンのようなワインで、どんな料理にも合わせられます。ハンガリーのグラッシュという肉料理だけは無理ですけれどね(笑)。日本の料理なら、全部合いますよ!」と、太鼓判を押されました。
それを踏まえて、料理研究家の千葉真知子さんによる、和食を含めたいくつものお料理との組み合わせを試させてもらったのですが、納得です。グリューナー・フェルトリーナは、軽快なタイプから重厚なタイプ(中には甘口も)まであるのですが、共通点として香りが強すぎず、芯の通った酸と塩っぽさが存在します。それがうまく料理に寄り添うポイントなのではないかと思います。
レンツ・モーザー氏の美しい表現では「グリューナー・フェルトリーナとは、ドイツのリースリングの花のような芳香、ロワールのソーヴィニヨン・ブランの爽やかな活力、北イタリアのピノ・グリージョの豊かさ、これら全てが素晴らしく調和したようなワイン」となります。
<名前もボトルもお洒落なアイテム>
ローレンツ・ファイヴのワインは、すべてブルゴーニュ型のボトルで、スクリュー・キャップを採用しています。繊細な白ワインなので、コルクによる影響などのリスク回避のためでもあり、気軽に飲めるように、そしてもちろんコスト削減もできるので、とても合理的だからです。そして、オレンジ、シルバー、紫色など、とてもポップな色使いなので食卓が楽しくなりそうです。
「シンギング グリューナー・フェルトリーナ」は、singingというだけに、飲めば歌いたくなるような衝動にかられます(笑)。2013年(2,592円)は、香りが豊で熟した果実の香りにスパイシーさも加わり、なめらかさと塩レモン的な味わいがうまく融合して、とても爽やかな後味です。
「シルバー・ブレット グリューナー・フェルトリーナ」だけは500mlのボトルです。発想は日本の新幹線から、とか。ウィーンの西にある産地、カンプタルの単一畑で、樹齢が40年という2ヘクタールの畑のブドウを、スキン・コンタクトしてブドウのもつ個性をより引き出そうとしている銘柄です。2012年(4,190円)は、まだ若くて固く閉じていますが、リンゴやレモンの香りや、塩っぽさが感じられるなめらかな味わいです。少し熟成した2009年には、スパイシーさが感じられ、より丸みのある味わいでした。
「チャーミング グリューナー・フェルトリーナ」もカンプタルの畑ですが、シルバー・ブレットが粘土質なのに対して、こちらはスレート土壌の段々畑の25区画からより選ったブドウです。2012年(4,449円)は、フレッシュで、レモンやリンゴなどの上品な香りが徐々に立ちのぼり、クリスピーで、塩っぽさもあり、タイトで芯の強い、スレンダーな美しさが感じられます。2009年、2006年、2005年も試飲させてもらいましたが、時間と共に香りや味わいにふくらみが現れてきて、2005年にはハチミツのような香りもして素晴らしい状態でした。これは、ゆっくり飲みたいワインです。
どの銘柄も、とてもピュアで清楚な白ワインです。ピュアだからこそ、カメレオンのように七変化できるのかもしれませんね。
(text & photo by Yasuko Nagoshi)
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