ワイン&造り手の話

アルザスの地図を前にしたマチュー・ダイス氏。

「マルセル・ダイス」4代目のマチュー・ダイス氏が、昨年に引き続き、自由が丘ワインスクールで試飲セミナーをしてくれました。ダイスのワインはどれを飲んでも美味しい、というだけでなく、情熱的な語りがまた聞きたくて、今年も参加してしまいました(笑)。アルザスの最新情報も引っさげてやって来た、マチューの哲学とワインについて再びお伝えします。

 

<変わらぬ方針>

父ジャン・ミッシェルは畑を、息子のマチューは醸造を担当しています。

父ジャン・ミッシェルは畑を、息子のマチューは醸造を担当しています。

「アルザスでは、アロマティックなワインを重視しすぎていると思います。反対にダイスでは、アルザスの地域性の確立を目指しています。そのために、ストラクチャーがあって滋味豊かで、深みのある余韻の長いワインを造りたいのです。ではどうしたらよいのか? と考えて、ブドウがより深く根を張るようにと、ビオディナミ(バイオダイナミクス)という栽培方法をとることにしたのです」。

 

正直なところ、アロマ豊かなワインは人気が高いと感じています。「香り」という要素は、ワインにとって重要な魅力のひとつだからです。ただ、マチューが言っているのは、ダイスは人為的にワインのアロマを高くするのは妥当ではないと考えている、ということなのです。例えば、日本酒でもいくつもの「協会酵母」というものがあって、それによって特定の綺麗な香りが生まれるのは多くの方がご存知だと思います。ワインでも、酵母や酵素で香りを高くすることができるのですが、ダイスはそれには反対です。

 

理由は、「それならどこで造っても同じになってしまうから」。もう一つは「そういったアロマは年を経ると消えてしまうから」。アルザスという土地の個性を出したい、長期熟成型ワインを造りたい、というマルセル・ダイスの方針とはまったく噛み合ないからです。

 

アロマではなく、味わいで勝負する! というダイスでは、とにかく畑での仕事をたっぷりして、凝縮感のある健全なブドウを収穫することに終始しています。収穫量を聞くと驚きますが、アルザスの平均値が78hl/haのところ、ダイスでは32〜37hl/ha。中でも特級畑では、一般的には55hl/haと規定されているのに、ダイスでは15〜20hl/ha。半分以下という少なさです。だからダイスのワインは、とても濃厚な味わいなのです。

 

<新たな展望>

「ブルゴーニュから2時間ちょっとしかないので、是非アルザスにも寄ってください!」

「ブルゴーニュから2時間ちょっとしかないので、是非アルザスにも寄ってください!」

満面の笑みで話してくれたアルザスの最新情報は、父ジャン・ミッシェル・ダイスの長年の悲願が叶った、という内容でした。

その願いとは、アルザスに「1級畑」を導入することです。15年前から提唱し始めていたのですが、ようやく賛同者が増え、アルザスの栽培家協会で今年3月に決定して、政府機関のINAOに申請することになったといいます。

 

今、アルザスでは「特級畑」(51の畑)はありますが「1級畑」は認められていません。それを、ブルゴーニュ地方のように「アルザス」という大枠を底辺に、「村名」ワインがあり、「1級」「特級」というヒエラルキーを確立したいのです。

 

「AOC法の始まりは、そもそも土地の個性を守るためのものでした。19世紀には120種類もの品種が混植されていて、上級ワインと日常ワインの2種類しか造っていなかった。それが、フィロキセラの被害を受けてブドウ畑を植え替えてから、変わったのです。その後だんだん国際化されて品種名を記したワインが求められるだけでなく、味わいも国際化してしまいました。今は、世界中でリースリングが造られています」と、危惧しています。

 

つまり、年々高度化している人の技術によってワインの個性が決められるようになれば、土地の個性が表れにくくなり、どこで造っても似たような味わいになってしまうのではないかと、危機感を覚える人がアルザスにも増えてきている、ということです。

「将来を考えると、何も競争力をもてなくなってしまうのではないかと。だから、アルザスワインが生き残るためには、土地の個性、テロワールをしっかり備えたワインを造らなければならないのです。だって、『ムルソー』は『シャルドネ』ではなくて『ムルソー』として理解されているじゃないですか」。

 

この「1級畑」の導入で、「品種より土地」という方向性へ動かしたいという強い思いがダイス父子の願いです(ご存知のようにアルザスでは、ブドウ品種名をラベルに記したワインが大多数です。ダイスでは反対に単一品種の銘柄もあるものの、多くは複数品種ブレンドで単一畑名を記した銘柄です)。

 

ただ、ドイツ語系が苦手な人間にとっては、アルザスの畑の名前を読んだり覚えるのが難しかったりするものですから、ちょっと冷や汗ものかもしれません。それから、アルザスにはたくさんの魅力的な品種があるので、畑ごとの複数品種ブレンドも確かに魅力的ですが、品種ごとに味わいたい、という層も必ず残るような気がします。

 

<長期熟成型白ワイン>

マルセル・ダイスが目指している土地の個性を最大限に引き出したワインは、同時に長期熟成型のワインでもあります。

「アロマティックなワインと、テクスチャーの優れたワインとふたつあるとします。アロマはすぐに消えてしまいますが、ミネラル感やほんのりとした苦みが感じられるテクスチャー豊かなワインは、そのままゆっくり熟成します」。

 

一番左が特級の「シュネンブルグ」。一番右の赤ワインは手造り感たっぷり。その隣のピノ・ダルザス(白)も充実したトロリとした食感で、今、お薦めです。

一番左が特級の「シュネンブルグ」。一番右の赤ワインは手造り感たっぷり。その隣のピノ・ダルザス(白)も充実したトロリとした食感で、今、お薦めです。

密度があって、味わい深く余韻が長い、エキス分をたっぷり感じられるワインは長期熟成型だから、反対にあまり早く飲んでしまうともったいないものです。今回試飲した中で、その象徴ともいえるワインが最後に出てきました。特級畑のシュネンブルグSchoenenbourg 2009年。2,3世紀も前から長期熟成可能なワインが生まれる場所として有名だった畑で、「とてもよい場所」という畑名です。

 

黄金色で、見るからに濃縮感があり、とてもよく熟した黄色い果実や金柑のような香りがします。トロリとした食感で、とてもリッチ、それに芯の強いバックボーンが感じられます。とても豊かなので今でも美味しいのですが、10年、20年と置いておけば、更に複雑性を増して成長した姿が見られるはずです。こちらの銘柄は、気の長い方にお薦めします。

 

マルセル・ダイスの様々な銘柄は「自由が丘ワインスクール」と同じグループのワイン・ショップ「イーエックス」で購入できます。

輸入元:ヌーヴェル・セレクション

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

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