柳 忠之のマンスリー・コラム 第7回 〜パリの新鋭、田中淳シェフの「レストランA.T」を訪ねる〜
07/09
近頃、雑誌やテレビでたびたび取り上げられているように、パリで活躍する日本人若手シェフの勢いが止まりません。そこで今回は趣向を変えて、ワインメーカーではなくシェフにスポットを当てたいと思います。
2009年にオープンし、その翌年に早くも一つ星を獲得。さらにその翌年には在パリ日本人シェフとしては最高の二つ星を得た「Passage 53」の佐藤伸一シェフ。ともに2011年にオープンし、その翌年、揃って一つ星を獲得した「Restaurant K」の小林圭シェフと「Sola」の吉武広樹シェフ。いずれも今、予約の難しい、パリで大人気のレストランとなっています。
そして今年新たにまた、日本人シェフの店がパリにオープンしました。事情通の間では、すでに星取り間違いなしと見られているのが、「Restaurant A.T」の田中淳シェフです。
田中シェフとお会いしたのは昨年の夏。このコラムでもご紹介した「クロ・レオ」の篠原麗雄さんが一時帰国され、一緒にご飯を食べましょうと、六本木の広東料理店「香宮」で食事会を開いた時のことでした。その食事会には「横浜君嶋屋」の君島哲至社長に加え、料理評論家の山本益博さんも見えてらしたのですが、田中シェフと益博さんが意気投合。「今、フレンチが目指すべきはCuisine d’Aujourd’hui(今日の料理)」(益博さん)と、おおいに盛り上がっていたことを思い出します。
そんな出会いからしばらくして、今年の4月にようやくオープンと耳にした時には、早くうかがってみたくて矢も楯もたまりませんでした。
とはいえ、なかなかパリに立ち寄る機会もありません。最近はシャルル・ド・ゴール空港に着いたら、パリを素通りしてワイン産地往復のパターンばかり。ところが、先月、1週間と間を置かずにヨーロッパで開催される2つのイベントに参加することとなり、一旦、帰国したのでは不効率と考えた私は、珍しく二晩パリに滞在。田中シェフのお料理をいただくことができたのです。
ピエール・ガニエールの薫陶を受け、さらにベルギーやスペインで修業を積んだ田中シェフ。まずはその盛りつけの美しさに心を奪われます。またソースが素材を覆い隠した伝統的フレンチでもなく、また何を口に入れているのかが不明な分子料理とも違う。素材感をしっかり残しながら、火の入れ方や素材の組み合わせで驚きや感動を呼び覚ます皿ばかり。メニューが素材名(主材、副材、フレーバーの3要素)だけなのはそうした理由かもしれません。
とりわけ驚いたのは子牛の料理でした。ピンク色のそれは一見生のように見えますが、じつは火が通っている。柔らかな食感と上品な旨味が舌をとろり、じんわりと包み込むのです。
昨今のパリ・ワイン事情を象徴するように、A.Tのワインリストは自然派で占められています。私は還元臭や酸化臭の強い自然派ワインはけっこう苦手なタチ。ところが、自然派の中でもこれまではずれ経験の少ないアルザスのピエール・フリックを見つけ、これを頼むことにしました。
なんとこのワインがピノ・ノワールを白造りしたブラン・ド・ノワール。ヴィンテージは2006年ですからすでに8年も熟成しています。時間とともに色が濃くなっていく様子には肝を潰しましたが心配していた酸化の兆候はなく、爽やかさと力強さを同時に備えたその味わいは、サーモンやマグロにも、また子牛や鳩にも寄り添うその高い汎用性に、多いに感心することとなったのです。
まさに田中シェフの料理は、益博さんいうところのCuisine d’Aujourd’hui。料理はプリフィックスのコースのみ。昼は5皿45ユーロ。夜は9皿85ユーロ。場所はなんと、クラシックなフレンチの殿堂「ラ・トゥール・ダルジャン」とは目と鼻の先です(!?)。予約が取りづらくなるその前に、ぜひともチェックしておきたいレストランですね。
(text & photo by Tadayuki Yanagi)
カテゴリー | レストラン | |
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店名 | Restaurant A.T | |
住所 | 4 rue de Cardinal Lemoine 75005 Paris | |
info@atsushitanaka.com | ||
電話 | 01-56-81-94-08 | |
営業時間 | 12:00〜14:00、19:00〜21:30 | |
定休日 | 日・月休 | |
URL | A.T http://www.atsushitanaka.com |
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