ワイン&造り手の話

さて、シャトー・ムートン・ロッチルド・マスタークラスの続きです。

前回はムートンの歴史やアートラベルについてのお話をさせていただきました。今回は肝心要のワインについて、各ヴィンテージの気候条件や品種構成、現時点における試飲の印象などをお伝えできればと思います。このマスタークラスで供されたのは、白ワインのエール・ダルジャン2011年、セカンドラベルのル・プティ・ムートン・ド・ムートン・ロッチルド2005年、そしてムートン・ロッチルドが2010年、2009年、2005年、1989年という豪華さです。

Aile-d-Argent-bouteille-2011-210x749エール・ダルジャン2011

1991年が初ヴィンテージとなるムートンの白ワイン。4区画7ヘクタールの畑から年に18000本が造られます。品種構成はソーヴィニヨン・ブラン60%、セミヨン38%、ミュスカデル2%。すべて樽発酵、樽熟成。マロラクティック発酵は全体の20%です。2011年のボルドーは白の当たり年ですね。開花が早く、夏の天候はまあまあでしたが、1年を通じてみれば、温かく乾燥した年といえるそうです。

ワインは美しい黄金色。グレープフルーツ、白桃、それに軽やかなヘーゼルナッツのタッチ。リッチながら軽やかさもあり、とてもフレッシュな酸味が印象的です。デビュー当時は樽香ばかり目立つ白ワインでしたが、20年の間に様変わりしました。バランスのとれた美しい白ワインですね。

 

 

Bouteille-PM-2005-210x754ル・プティ・ムートン・ド・ムートン・ロッチルド2005

1993年にデビューしたムートン・ロッチルドのセカンドワインです。初ヴィンテージのみ「ル・スゴン・ヴァン・ド・ムートン・ロッチルド」という、セカンワインそのままの名前でクレームがつき、翌年から名前が変わりました。

2005年は平年より少し涼しかったそうですが、雨が少なく、偉大な年のひとつに数えられていますね。開花は6月5日。8月1日〜8日にかけてヴェレゾン。9月21日〜10月6日収穫。カベルネ・ソーヴィニヨン60%、カベルネ・フラン20%、メルロ20%。

若干熟成の進んだルビー色。果実味豊富でとてもリッチ。よく熟したダークチェリー、グリオット、プラム。アフターに甘草とインクのようなタッチ。タンニンはこなれており、シルキー。今、十分飲み頃です。

 

Etiquette-MR-20102-464x685シャトー・ムートン・ロッチルド2010

いよいよムートンです。2010年は寒い冬の後、乾燥した涼しい春を経て、6月中旬に雨。6月21日から気温が上昇し、7月末からは素晴らしい天候が続きました。8月は暑く乾燥した日が続きましたが、夜間の気温が涼しく、カベルネ・ソーヴィニヨンにとって完璧なヴィンテージに。カベルネ・ソーヴィニヨン94%(!)、メルロ6%。

まったくグラスの向こうが透けて見えないような、黒に近いガーネット。エッジにはまだ紫のニュアンスが残ります。カシス、ブルーベリー、プラムなど黒い果実がみっちり詰まっており、インク、鉛筆の芯。リッチでとてつもなく集中力のあるワインですが、タンニンは角が丸められ、酸も美しく、この段階で口にしても苦にならないことに驚かされました。いずれにしてもビッグなワインであることに変わりなく、30年後、ふたたび出会えることを期待せずにはいられません。

 

 

Etiquette-Mouton-Rothschild-20092-464x694シャトー・ムートン・ロッチルド2009

8月の平均気温が平年よりも1.4度も高かったという2009年。メルロを9月23日から、カベルネ・ソーヴィニヨンを10月6日から収穫したそうです。カベルネ・ソーヴィニヨン88%、メルロ12%。

これまた濃厚な色調ですが、2010年と比べると若干明るめに感じられました。猛暑の09年ですから、きっとジャミーなスタイルに違いないと思っていたのですが、美しい酸とミンティな涼やかさに驚かされました。タンニンはキメ細かく果実味のなかに溶け込んでいます。ボリューム感たっぷりでやや大柄ですが、しっかりとした骨格により理性的な抑えが利き、高次元でバランスがとれています。

 

 

Etiquette-Mouton-Rothschild-20051-464x658シャトー・ムートン・ロッチルド2005

ル・プティ・ムートンと同じヴィンテージです。こちらはカベルネ・ソーヴィニヨン85%、メルロ14%、カベルネ・フラン1%。

色調はやや熟成が進み、マロンがかったルビー。ブラックベリーやダークチェリーのコンポート。涼しげなミントの香りに加えて、杉のニュアンス。昔、熟成したムートンからは、しばしば動物っぽいニュアンスが感じられたものですが、衛生管理が徹底したのか、そのような印象はなくなりましたね。タンニンは緻密で豊富ながら、よくこなれていて、もう飲めないことはありません。

 

 

Etiquette-Mouton-Rothschild-19892-464x671シャトー・ムートン・ロッチルド1989

1989年は亡くなられたバロネスのお気に入りだそうで、シャトーの在庫も残り少なく、シャトーの重鎮たちも、気軽にゲストに出さないよう、よく釘をさされたそうです。5月28日に開花。9月6日〜25日に収穫。ずいぶん早いですね。カベルネ・ソーヴィニヨン78%、カベルネ・フラン14%、メルロ4%。

フィリップ・ダリュアン氏がムートンのディレクターに就任したのが2003年。この1989年のみ、前任のパトリック・レオン氏時代のワインということになります。それを踏まえて試飲してみると、やはり25年という時代の移ろいを感じざるを得ません。

色調はかなり熟成が進み、見事なレンガ色。カシスのリキュール、キルシュ、腐葉土、杉、タバコ、そして出ましたジビエっぽさが。香りは熟成感たっぷりですが、口に含むとまだ若々しい。果実味と酸味のバランスがとれ、タンニンは溶け込んでいる一方、現代のワインと比べると、粒子の粗い印象が否めません。パワフルで野性味溢れ、古き良き偉大なムートンというべきでしょうか。

ムートンは昨年、醸造所を一新し、44基の木製発酵槽と20基のステンレスタンクを備えた最新の施設となりました。強い個性でシャトーを牽引してきたバロネス・フィリピーヌ亡き後、フィリップ・セレイスやジュリアン・ド・ボーマルシェの新経営陣がムートンをどのように発展させていくのか。難しいとされた2013年ヴィンテージでは左岸のグラン・クリュの中でも最高評価を受けたムートン。もはや庶民が手を出せる価格ではなくなってしまいましたが、憧れの存在であり続けて欲しいものです。

(photo & text by Tadayuki Yanagi)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Related Article