ワイン界最強の3冠保持者マルクス・デル・モネゴが見る日本酒 〜日本酒の表現方法〜
11/06
日本酒や日本の食文化を世界に発信する「酒サムライ」の称号の叙任のために、ドイツからソムリエのマルクス・デル・モネゴ氏が来日。1995年の田崎真也氏に続いて、1997年に世界最優秀ソムリエ(ASI)に輝いた上、アメリカとイギリスが主宰の世界マスターソムリエの称号(MS)、更にはマスター・オブ・ワイン(MW)も取得した、ワイン界の鉄人ともいえるモネゴ氏が、母国ドイツのワイン、日本酒、両者を扱うテイスティング・セミナーを開催した。
酒サムライコーディネーターの平出淑恵氏、1999年にワインアドバイザー選手権(モネゴ氏がゲスト審査員を務めた)で優勝した大橋健一氏による主催で行われた。
「海外で、日本酒はワインとは異なる飲み物だ、ということを最終的に言うためには、まずはワインの上にのせて語るのが順当だと思います」という第一声からモネゴ氏はセミナーを始めた。つまり、日本酒もワインのように、どのような香りや味わいなのか、様々な言葉を使って表現していくのが重要だ、ということだ。とはいえ「50年前までは、ワインの世界にも表現のボキャブラリーがとても少なかった」ともいう。慣れることが何より、ということだろう。
驚くことに、かつてのワインのコメントは 「rich (豊か)、 opulent,(贅沢な)、usual(ありきたりな) unusual(並外れた)」ぐらいだったという。その反面「今ではとても分析的な表現になり、頭の中でワインが思い描くことをできるような細かい言葉を使う。また今日のように常にワインに料理を合わせて行くという考え方はフランス式」のコメントだというのも、面白い。
<ドイツで最も人気のある日本酒のコメント>
10数年前の「ブルータス(マガジンハウス)」の日本酒特集で、蔵元見学や日本酒のテイスティングに登場していただいたことがあったが、細かな表現力に関心した記憶がある。皆さんも、モネゴ氏が日本酒の香りや味わいについてどのように語るのか、とても興味深いだろう。
今回選ばれた銘柄は、ドイツで最も人気のあるもので、カテゴリーも多様だった。モネゴ氏によるコメントを記すので参考にしていただきたい。
1)浦霞 純米吟醸 禅
焼いたベーコンのようなスパイシーさがあり、南仏のメロンで料理のつけあわせに使うカバイヨンメロンの香りがする。メロンのキャラクターが、マイルドな味で始まり、ゆっくりと開いていく。とても豊かな反面とてもスムーズで、塩っぽさも感じる。
ミネラル感があるので魚料理に合わせたい。挑戦的な組み合わせとして、少しスモーキーな部分をベーコンとメロンに合わせるのもよい。
2)東光 大吟醸 山田錦
トロピカルフルーツやパイナップルの凝縮した香り。クリスマスのお酒、という印象。クリスマス料理に使う、クローブ、カルダモン、バニラ、フェンネルや八角のようなスパイスがたくさん感じられる。層の感じられる味わい。オレンジピール、フェンネル、アニスの香りも。
フェンネルにオレンジスライスを加えて、ほっくりとした蟹に合わせたい。日本料理の場合は、お寿司に使う前のマリネをした魚(昆布じめ?)に、クローブ、カルダモン、アニスも香り付けして。
3)桜正宗 純米 焼稀 生一本
スモーキーさ、アーシーさを感じるテロワールの酒。フルーツの印象が先行されるのではなく、よりミネラル感、土、乳酸菌のニュアンスやヨードを感じる。
海からの香り、ヨード香を合わせて、牡蠣、海苔などの海産物と。
4)出羽桜 純米吟醸 出羽燦々
フルーツバスケット。マンゴーやパイナップル、オレンジやレモンの果皮、ダークチェリーも感じられる。サクランボの種をなめているようなニュアンスも。
柑橘類を使った料理と。
5)達磨正宗 ビンテージ古酒 1989年
マデイラと間違えるかもしれないような、緑がかったマホガニー色。ダークチョコレート、クルミなどのナッツ、ドライプラム、ココア、オレンジピール、シナモン、バニラなど、たくさんの香りが感じられる。バタースコッチのような味わい。
<日本酒のプロモーションへのヒント/VDP/ラベル>
また、日本酒の今後のプロモーションへのヒントとして、ドイツワインでの取り組みをひとつ紹介した。VDP(ヴァウデーペー)というドイツの高級ワインをプロモーションするための特別な団体で、100年ほど前に創立されたものだ。
現在、品質管理基準や方針をクリアーした約200の生産者が加盟し、この団体が大使役となってイベントを実施していく。ただし会員制クラブ的で敷居は高く、そう簡単には加入できないようだ。新規加入は念に3、4軒程度で、既に加盟していても、オーナーが交代した場合には方針が変わる可能性もあるということで、新オーナーは改めて登録申請しなければならない。
また、参加費用は生産量ではなく、栽培面積のヘクタールあたり。そしてこのグループで特級、1級などの階級を決め、厳しい審査会を毎年メンバー内で行っている。
4つのカテゴリーは上位から、
Grosselageグロスラーゲ 特級
Erstelageエアステラーゲ 1級
Ortsweinオルツヴァイン 村名
Gutsweinグッツヴァイン 生産者名
筋の通った考え方をもつ団体として国内外に発信されているため、このグループのワインは高い品質を保っているとうイメージが定着し、世界的な経済不況の中でも売上を伸ばしているという。
また、日本酒の海外での成功のために「ラベル」についての要望を述べた。日本酒のラベルは、ほとんど日本語で表示されているので「どのような内容の酒なのか、読みたくても読めない」という。日本の場合でいう、海外から輸入されたワインのラベルの読み難さと同様の問題だ。勤勉な日本人は懸命に解読すべく多くの言葉を覚えていったのだが、同じことを他国に求めるのは無理なのかもしれない。ただ、日本ではワインの輸入元各社が日本語でわかりやすい裏ラベルを作成して貼付けている。日本酒の場合も表ラベルの日本語は、海外の人たちにとってもエキゾチックなイメージで格好いいものとして映るだろうからそのままにして、輸出国の言葉もしくは英語表示の裏ラベルを考えるのが得策のように思う。もちろん、輸出先の会社と共同作成するのが一番だろう。
(text & photo by Yasuko Nagoshi)
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