ノシターのモンドヴィーノ以来のワイン映画 〜9月27日ロードショー「世界一美しいボルドーの秘密」〜
08/26
最上級のボルドーワインは、今や手の届きにくい存在になってしまい、その背景には、様々な要因があることが報道されてきました。ワーウィック・ロスとデヴィッド・ローチが共同監督・共同脚本の「世界一美しいボルドーの秘密」、原題 ”Red Obsession” (赤い執着)は、鋭くアイロニックな視点を持ち、それを面白く描いています。撮影された現場はフランス、イギリス、中国、香港です。これで、ある程度ストーリーの予想ができるかもしれませんね。
ナレーションを、アカデミー賞受賞俳優のラッセル・クロウが務めるこの映画の始まりは、ボルドーのシャトー・コス・デストゥルネルの整然として美しい樽貯蔵庫の映像から始まります。世界には膨大な数のワイナリーが存在しますが、これほどの貯蔵庫をもつのは、ほんの一握りです。
<偉大な2009&2010年ヴィンテージ>
ボルドーワインの価格沸騰の要因のひとつは、ご存知の通り連続して訪れた偉大なヴィンテージの出現です。
造り手側の弁と評論家側の意見をつづるために、ボルドーで毎年行われるプリムールのテイスティング(春先に、前年収穫されたブドウで造られた樽熟成中のワインを試飲して評論家やバイヤーがその出来をチェックするための試飲)風景もたくさんでてきます。例えばロバート・パーカー、ジャンシス・ロビンソン、ミシェル・ベタンなど、お馴染みの評論家の面々もそれぞれにコメントをしていきます。ただ「モンドヴィーノ」とは異なり、今回ロバート・パーカーは悪役ではありません。
それぞれのシャトー、評論家の考え方は微妙に違いますから、そのあたりのニュアンスも見所のひとつです。そして、最初から一貫して描かれている、シャトー・ペトリュスで知られるクリスチャン・ムエックスのワインへの愛情やワインの魅力についての語り口が、とても印象的でした。これは、もうひとつのテーマへのアンチテーゼともいえるでしょう。
<大国中国の存在>
そして、原題からもご推察の通り、近年のボルドーワイン市場を語る上で大国である中国の存在は欠かせません。既に億万長者の数は600人以上で、アメリカよりも多い、というせりふがありました。インドやロシアの消費量など陰に隠れてしまっています。中国市場の場面に入ると、ラフィット、ラトゥール、ラフィット,ラトゥール、ラフィット、ラフィット、ラフィット、ラトゥール、というぐらいの頻度で、このふたつのシャトーの名前が繰り返し聞こえてきます。面白いことに、ボルドーのいわゆる5大シャトーの中で、このふたつのシャトーとマルゴーの関係者は登場するのですが、ムートンとオー・ブリオン関係者は一度も出てきません。
反対に、マルゴーのジェネラル・マネージャーのポール・ポンタリエの子息ティボーは、アジア担当として中国に滞在しているようで、ポンタリエ父子の画像も交互に何度も登場しました。かつて、シャンパーニュのクリュッグが次世代を担うオリヴィエ(現在の当主)を、ペトリュスのムエックスが子息のエドワルドを、日本のワイン関連企業で仕事をするために日本へ送り、彼らが何年か滞在していたことを思い出しました。やはり現実として、今の中国市場がボルドーにとっていかに重要なのかと推察できます。
ボルドー側としては、もちろん大量のワインが高価格で販売されるのは、正直なところ嬉しいのでしょう。当然です。ただ、中国のワイン消費、投資、マナーへ対して、大いに困惑している、といったところでしょうか。今後、どのような関係が築き上げられていくのかが、現実世界での見所です。今度、知人の中国人ワインジャーナリストに会ったら、この映画について尋ねてみたいと思います。
リズミカルで、アイロニーもたっぷり含んだ面白い展開です。ワインのプロの方々にはもちろん、ディープなワイン・ファンの方々にも、是非ご覧頂きたいドキュメンタリー映画です!
<公開予定>
劇場鑑賞券:1,500円(税込)/当日一般1,800円
ヒューマントラストシネマ有楽町 ほか全国順次公開
配給:アット エンタテインメント
(画像:アット エンタテインメント/text by Yasuko Nagoshi)
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