ブルゴーニュ道・入門 村の違いを知る/コート・ド・ボーヌの白 〜ブルゴーニュのエキスパート 柳忠之さんに聞く〜
07/21
暑いので白ワインがいいだろう、ということで、前回はシャブリを取り上げました。今回は、更に暑さ本番ということで、再び白を。コート・ド・ボーヌの白ワインをフューチャーします。とはいっても、コルトン・シャルルマーニュやモンラッシェはもちろんのこと、ピュリニー・モンラッシェやムルソーなども高くてもはや手が出せなくなってしまいました。ですから、その次に注目したい産地を取り上げてみました。
<ペルナン・ヴェルジュレス>
— 今回は、ペルナン・ヴェルジュレス、サン・ロマン、サントーバンから1銘柄ずつです。
柳 はい。ピュリニー・モンラッシェ、シャサーニュ・モンラッシェ、ムルソーなど、ブルゴーニュの白に親しんできた人たちに是非お薦めしたい産地の筆頭です。
— では、そのココロを教えていただきたいと思います。
柳 では、一番北部にあるペルナン・ヴェルジュレスからみていきましょうか。このブリュノ・クレールは、本来はマルサネの造り手で、ペルナン・ヴェルジュレスは最も新しいキュヴェです。
— いつ頃から造っているんですか?
柳 98年が初ヴィンテージですね。0.23ヘクタールの畑を95年に植樹しています。
— では早速、ペルナン・ヴェルジュレスの特徴を教えてください。ラドワ・セリニイやアロース・コルトンとともにコート・ド・ボーヌの北の入り口にあたる立地ですね。
柳 集落はコルトンの丘の向こう側、奥まった部分にあります。
— 地図の手前、つまり東側にコルトンの丘があって、その丘が一旦終わり谷間があって、その向こう側にある丘がペルナン・ヴェルジュレスですね。ふたつの丘に分かれている。
柳 はい。まず右側、つまり北側にある丘はほとんとが村名畑で、南東向きから南向きの急斜面です。真南向きの濃いグリーンの部分、白は1級になるけれど、赤は村名までしか名乗れない。
— どうして白だけ1級になれるんですか?
柳 このスー・フレティルというクリマは2000年に白だけ昇格しました。標高が高いし赤が熟すには不十分なのでしょう。もう一つの丘はサヴィニー・レ・ボーヌに隣接していて、東向き。ここもとても急斜面です。中でも、アン・カラドゥー畑が最も斜度が最もきつい。上部は村名になり、下のほうは1級になります。
— 下のほうが粘土が多いんでしょうか?
柳 そうですね。だから下の方にはピノ・ノワールを植えている造り手が多い。そして、サヴィニー・レ・ボーヌのすぐ隣にあるのが、この村で最も有名な1級のイル・デ・ヴェルジュレス。ここも赤白ともに1級が名乗れますが、赤の方が有名ですね。
— じゃあ、イル・デ・ヴェルジュレスは万能な畑ということですね。
柳 緩やかな斜面で東向きなので、朝日をばっちり浴びられる。赤にもちょうどよい緩やかさなんでしょうね。石灰質と粘土質とのバランスがちょうどよい場所です。そのすぐ下にあるレ・バス・ヴェルジュレスになると、もっと粘土が多いんです。
ー レ・バス・ヴェルジュレスも1級ですね。
柳 じつは、ブリュノ・クレールが持っている畑ブーティエールは、レ・バス・ヴェルジュレスの更に下の畑なんですよ。だから、粘土がより強いはずなので、これは典型的なペルナン・ヴェルジュレスよりふくよかだと思ってください。
— そうですか、次のサン・ロマンほどではないですが充分タイトでミネラリーに感じますよ。ピュアな果実味とミネラル感がとてもきれいです。ただ確かに、時間を置いて温度が少し上がってくると、だんだん粘性というか、なめらかな触感が出てきますね。
柳 ペルナン・ヴェルジュレスの白のイメージは、コルトンの奥の南東向きの丘の白のイメージが強いので、涼しげなんですよ。タイトでミネラリー。コルトンの丘の後ろにあるので、影になるから。その一方、このブリュノ・クレールの場合は真東向きで粘土質の畑なので、典型的なペルナンのイメージよりもラドワの白、コルトン白に近いふくよかさを感じます。
<サン・ロマン>
— それでは、サン・ロマンへ進みたいと思います。サン・ロマンはコート・ドールの中でも随分奥まった場所にありますね。
柳 そうなんです。コート・ド・ボーヌ全体が見れるぐらいの、大きめの地図を見るとよくわかります。ここは1946年まではオート・コート・ド・ボーヌの一部で、1947年から独自にサン・ロマンのアペラシオンを名乗れるようになりました。
— どういう点が認められたんでしょうね。
柳 オーセー・デュレスのクリマとも地続きなので、ここからは明確に違う、と言いにくかったのかもしれませんね。当時のロラン・テヴナン村長が頑張ったみたいです。そういえば、サン・ロマンの写真を見ると驚きますよ。
(サン・ロマン村のぶどう畑の向うに、断崖絶壁の石灰岩がむき出しになっている写真を見る)
— あら、真っ白な高台が。
柳 それだけアクティブな石灰質が強い、ということですよ。それに、標高も高い。
— どのぐらい高いんですか。
柳 300から400メートル。コルトンの丘の頂上より高いですね。モンラッシェでも260メートルぐらい。
ー そうすると、コート・ドールの中では相当高いわけですね。
柳 そう。だからサン・ロマンは涼しい上に石灰質が多い。
— だから香りにはふくよかさを感じるのに、味わいはミネラルと酸がたっぷり
柳 そうなんです。ただ、斜面の方角が複雑だから、畑の場所によって性格が異なるかもしれませんね。
— サン・ロマンには1級はないですね?
柳 はい。サン・ロマンは村名だけです。このモレ・ブランは、ピエール・モレのネゴシアンなのでぶどうは購入しているから、明確な畑の場所まではわかりませんけれどね。一番よい畑は真南向きの畑スー・ル・シャトーといわれています。
— そういえば、シャントレーヴのサン・ロマンが随分よかったとか。
柳 瓶詰め前の試飲だけれど、シャントレーヴの2013年は、もう少し柔らかみが感じられました。
ー じゃあ、造り手によってタイプが少し違うかもしれませんね。
柳 総じて言えばサン・ロマンはタイトでミネラリーなんですが、よい造り手を選ばないと、やせてて酸っぱいだけでがっかりするかもしれませんね。ただ、まだ価格が手頃なのは嬉しいことです。
<サントーバン>
柳 樽の香ばしさが顕著ですね。
ー 立地の特徴はどうでしょうか。いくつかに分かれているように見えますね。
柳 シャサーニュ・モンラッシェとピュリニー・モンラッシェの間を通るN6という国道があっって、下、南東は3つ星レストランのラムロワーズがあるシャニーに繋がっています。上、北西に行くと黒ブドウのガメイの名のもとになったと言われるガメイ村があります。そこを通り過ぎるとサントーバンの村に着きます。つまり、シャサーニュとピュリニーのふたつの村の奥向うにあります。
— どちらか寄りのほうが条件がよいのでしょうか。
柳 ベストは、この1級畑アン・レミリーのある南東から真南の丘です。ピュリニー・モンラッシェ側。その向かいのシャサーニュ・モンラッシェ側の丘が真東向きで、1級のコンブ・オー・シュッドなどがあります。そして、サントーバン村を見下ろす奥まった東から南東向きが3つ目で、ここにもいくつか1級がありますね。
— ということは、サントーバンの1級の中でもアン・レミリーが一番素晴らしい?
柳 アン・レミリーのすごいところは、まず真南の斜面だということ。もうひとつは、この畑の等高線をたどっていくとシュヴァリエ・モンラッシェがあるんですよ。シュヴァリエは東向きですけれど、同じ丘で至近距離にあります。
— なるほど。地図をよおく見てみると、アン・レミリーは真南で等高線がたくさんあるから急斜面、シュヴァリエ・モンラッシェはほぼ東向きで、若干アン・レミリーより斜度が緩やかだとわかりますね。これが大きな違いをもたらすわけですね。
柳 でも、ポテンシャルがあるクリマであることは間違いないですよ。ミネラルはあるけれど、ほんの少しエレガントさに欠けたシュヴァリエ、といったところではないでしょうか。
<まとめ>
— では、総括としてペルナン・ヴェルジュレス、サン・ロマン、サントーバンの魅力をもう一度振り返ってみたいと思います。
柳 3つのブルゴーニュ白ワインの王道の影に隠れていて、でも、とても素晴らしいワインができていて価格もまだそれほど高くないので、今のうちにゲットしておくべき産地です。
— どれも1万円未満で購入できる、価格的にも嬉しいブルゴーニュの白ですよね。
柳 ピュリニーはもともと価格が高く、ムルソーもシャサーニュも上がってしまった。そろそろ、このサントーバンも上がってきている。次にペルナン・ヴェルジュレスが来るかな、という状況にあり、さらにサン・ロマンが狙われるのかな、といったところです。
— タイトでミネラリーなタイプが好きなら、サン・ロマン。
柳 まず、サン・ロマンかペルナン・ヴェルジュレス。ピュリニー、シャサーニュ、ムルソー的なものを望むのであれば、サントーバン。いずれにしても、この3つの村は、とてもよい白ワインのソースだと思いますよ。
— そうですね。シャブリとも、マコンとも違う、コート・ド・ボーヌらしさを備えた白だと思います。
柳 あとは、オート・コート・ド・ボーヌに、もしかしたら掘り出し物がみつかるかもしれませんね。
ー 見つけたら、是非教えてください。
ペルナン・ヴェルジュレス ブラン2012 <ブリュノ・クレール> Pernand-Vergelesses Blanc 2012
ペルナン
キリッとした黄色い果皮の柑橘類の、フレッシュな香りがとても若々しい。少し閉じている状態。味わいもミネラル感がたっぷりあり、なめらかさもありながら、とても爽やか。芯がしっかりしている。
温度が上がると、粘性、オイリーさが感じられる。ゆっくり飲みたい白。
サン・ロマン ブラン2012 <モレ・ブラン> Saint- Romain Blanc 2012
まろやかで熟した黄色い果実とバニラの香り。小樽の影響が感じられる。香りはふっくら華やかだが、口中はミネラリーで酸たっぷり。まだまだ若い。
サン・トーバン プルミエ・クリュ アン・レミリィ2012 <マルク・コラン> Saint-Aubin 1er Cru En Remilly 2012
更に熟した黄色い果実の香りが広がり、香ばしさやバニラ香も加わるリッチな香り。味わいも全体にふっくらとして、酸もソフトに感じられる。ボリュームも加わり、果実の熟度を楽しめる。
(輸入元:ラック・コーポレーション)
( text & photos by Yasuko Nagoshi )
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