ワイン&造り手の話

「私は3つの人生を歩んできました。でも、妻は1人だけですよ」と笑うドゥニ・デュブルデュー氏。ボルドーで5つのシャトーを所有するオーナーであり、ボルドー大学の教授、そして多くのワイナリーのコンサルタントも行っている多忙な人です。妻のフローランスさん、息子のファブリスさんとジャンジャックさんと共に家族経営するいくつかのシャトーのワインについて語ってくれました。

 

<家族経営>

所有するシャトーのひとつ「クロ・フロリデーヌ」は、妻フローランスさんと教授の名前を足してつけた名前だ、ということでもよく知られています。「若い頃にヨットに乗っていたけれど、忙しくて乗る時間がなくなってしまった。いつかまた、という希望もこめて、せめてラベルにヨットのデザインを入れることにしました。妻のおかげで今の仕事ができているし、人生の伴侶ですから」。奥様への感謝の気持ちをさらりと言葉にする、ダンディーな人物です。

 

5つのシャトーの裏方をすべて取り仕切っているフローランスさんに加えて、今では長男のファブリスさんが技術面を中心に、次男のジャンジャックさんが主に営業面で家業に参画して、より家族の絆が深まっているようです。

 

<シャトー・ドワジー・デーヌ>

バルサックにあるこのシャトーは、1924年からデュブルデュー家が所有しています。ご存知のように、ソーテルヌ同様に甘口白ワインの産地です。ところが、教授の父ピエールの代にこの地で初めての辛口白ワインを造り始めました。1950年代初め頃のことだったようです。

 

「18世紀から『ドワジー』という名前は既に知られていました。19世紀初頭の地形学者が書いた評価本で1級に格付けされていたのです。それが1855年の格付けに反映されたのです」。

ここの土壌はバルサックの赤い砂、と呼ばれる砂粘土質の浅い層が30〜50センチ表土で、その下は石灰岩の堅い層。「コルトン・シャルルマーニュと同じですよ。実は、フロリデーヌも同じように石灰岩の塊なのですが、あまり知られていません」。

 

この畑のソーヴィニヨン・ブランだけを使って造られるのが「シャトー・ドワジー・デーヌ セック」で、そもそも甘口ワインの品質の完成度を上げるために造り始められました。セミヨンに比べて、ソーヴィニヨンは房が小さくて実がタイトにつくこと、房が重なり合ってしまうこと、そして貴腐がつきにくい品種のため、貴腐がつき始める前の段階で間引きをした副産物だったのです。

 

2013年を試飲すると、とてもフレッシュな若々しい香りです。グレープフルーツや、柚子、カボスといった柑橘類の果汁のみ、といったピュアな香りで、なめらかな食感、そして酸がとても綺麗です(参考小売価格 4,600円/本体価格)。

ボトル4

<クロ・フロリデーヌ>

AOCはグラーヴとなるクロ・フロリデーヌは、先ほどの説明の通り「石灰質の島」だと教授。ただ、ドワジー・デーヌの辛口白がソーヴィニヨン・ブラン100%なのに対して、こちらは白ブドウ用の畑にはソーヴィニヨン・ブラン55%、セミヨン44%、ミュスカデル1%という構成で、セミヨンの比率がぐっと高くなっています。

 

2012年を味見すると、香りから随分表情が異なりました。リッチな香りで、よく熟した柑橘類やその果皮、パイナップルまでいかない少しトロピカルフルーツ的な要素も感じられ、アーモンドなどのナッティーさも感じられます。味わいも同様に豊かでバランスよく、とても心地よいトロリとした食感です(参考小売価格 4,800円/本体価格)。

 

一方、こちらの赤用ブドウはカベルネ・ソーヴィニヨン77%、メルロ23%という栽培比率です。この畑を取得した当初は、2haだけだったのを、ボーリング調査で同様の石灰質土壌を確認しながら拡張し、今では合計40haの畑になりました。そのうち赤用の畑は17.3ha。砂利が多い区画にはカベルネ・ソーヴィニヨンを、石灰質が多い区画にはメルロを栽培しているといいます。

 

2011年は、まだ香りが閉じていてタイト、そしてスパイシーな要素とカシスやチェリーといった熟した果実の香りが徐々に出てきました。バランスよい香りです。味わいも整然として、タンニンも細やかで、とてもエレガントな仕上がりです(参考小売価格 4,600円/本体価格)。

 

クロ・フロリデーヌは、白ワインも赤ワインも、恐らくこの20年間でほとんど日本での小売価格が変わっていないのではないかと思います。ボルドーの有名シャトーが高騰してしまった昨今の事情、そしてワインの品質から考えると、本当にお買い得なワインだと改めて感じたのでした。

 

<教授の呟き>

時に哲学的な語りをする教授ですが、今回は、こんなことを話してくれました。

 

「私たちは職人なのです。アルティザンというのは、最初から最後まで、すべてに手をかけてものをつくります。オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』を知っていますか? そこにこのような文があります。『芸術家は美しいものをつくる人のこと。その目的や存在を見せずに夢を見せてくれる人だ』と」。

「ワインの場合、ワインの造りを感じさせるようなワインではあってはなりません。産地を伝える必要はあるけれど。感動を与えるものでなくてはならないのです。『芸術は技術を隠す』と言います。どのように造られたのかなど、わからない。だから、造り方がわかるようなワインは、いいワインとはいえない」。

(tex t & photo by Yasuko Nagoshi)

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