シャンパーニュ地方なのにスティル・ワインばかり造っていた、という変わり種。 〜オリヴィエ・オリオ①〜
02/19
「2009年からブレンドのシャンパーニュを造り始めて、ようやくこの地方の住人らしくなった」と自覚している、面白い人に出会いました。オリヴィエ・オリオ氏は、シャンパーニュ地方の南部にあたるコート・デ・バールの中心地、トロワから南東に約40キロの地、レ・リセが拠点です。ロゼ・デ・リセという、ロゼワインで知られる村です。
<オリヴィエの代で始めたこと>
オリヴィエ・オリオ氏は、1999年の父の引退に際して、「他では造れないものを造ろうと考えた」といいます。それまで、8.5haの畑からできるブドウは、すべて協同組合に販売されていたところ、彼の代になり、3分の1は自社ブランドとして使い、残りの3分の1ずつを協同組合とネゴシアンに販売することにしました。そのネゴシアンの中にはあのクリュッグも入っているそうですよ!
オリヴィエにとっての「ここでしか造れないもの」とは、ロゼ・デ・リセでした。確かに、シャンパーニュにはコトー・シャンプノワというニッチなスティル・ワインが存在しますが、ロゼ・デ・リセという名のロゼはこの地域でしか造れません。しかも、単一区画のロゼを2000年に初めてリリースしたのです。
その後の経緯はこんな感じ。
2002年から自社ブランド用の畑をビオディナミ農法へ転換。
ようやく2004年からシャンパーニュ造りを始めるのですが、「単一品種」「単一ヴィンテージ」、場合によっては「単一区画」と、「単一」にこだわりがある人のため、「あまりシャンパーニュらしくない」と自分でも感じていたようです。
2006年になると、今度はシャンパーニュ地方ではあまり栽培されなくなったブドウ品種、ピノ・グリとプティ・メリエの植樹をしました。
ところが、2009年になって「単一」の呪縛からのがれたのか、複数品種、複数ヴィンテージをブレンドした「メティス」という名のシャンパーニュを造ることになりました。これで晴れて? シャンパーニュの人らしくなった、というわけです。
現在造っているのは、ロゼ・デ・リセを3種類、コトー・シャンプノワの白と赤を各1種類、つまり合計5種類のスティル・ワインと、シャンパーニュを5種類です。
スティル・ワインにこだわったのは、もちろん他では造れないワインを! という思いもあったのでしょうが、「コート・デ・バールは16世紀にブルゴーニュの傘下だったことがある」という歴史的な意味合いや、「土壌はジュラ紀後期のキンメリジャンで、シャブリやサンセールと同じ」というあたりも関係していそうです。それに、スティル・ワインを普通に造れるぐらいにブドウが充分に成熟するという、気候的な条件も考えてのことでしょう。
さて、もう少しそのこだわり加減をお伝えしましょう。
<畑違い>
オリヴィエさんは「単一」主義の傾向があることは先ほど記しましたが、細かい区画の違いをワインに表現したいという思いがあります。そのため、自社ブランドの生産量が25,000本しかないのに9種類ものアイテムが生まれています。1銘柄あたり2,000〜3,000本のみと、どれも数量限定品なのはこのためです。
中でも、オリオ家が所有している「ヴァラングラン」と「バルモン」という対照的な畑については、ロゼ・デ・リセでその畑のもつ個性の違いを表しています。
「ヴァラングラン Valingrain」は、南向き斜面で、キンメリジャン由来の泥灰土。「ブルゴーニュの赤ワインでいえば、ヴォルネイ的。控えめで繊細で、熟成能力も備えている」といいます。2009年を味わうと、確かに繊細な香りです。グラスに注ぎ立てでは、酸の高さやドライなタンニンが感じられますが、少し時間が経ち空気と触れ合うと、とてもなめらかな食感に変わって行きます。今飲むなら、デキャンタするほうが美味しそうです。
「バルモン Barmont」は、東から南東向き斜面で、粘土質の土壌。「ブルゴーニュではポマールのよう。赤い果実味にあふれている」といいます。同じく2009年を味わいました。とても華やかな香りで、赤い花やスパイス、赤い果実などが広がります。よりなめらかで丸みがあるので、タンニンも包み込まれている感じです。デキャンタしなくても、このままいけます。
今現在のヴィンテージが2009年というのは、ロゼワインとしては随分ゆっくりとしたリリースです。
「ロゼ・デ・リセは長期熟成型のロゼです。熟成とともにその土地ならではの個性が出てくるので、敢えて収穫後2,3年してから市場に出すようにしています」という、意図あってのことでした。
更に、ふたつの区画をブレンドした「エスキス」という上級キュヴェのロゼがあります。試飲には出てきませんでしたが2003年が今のヴィンテージだそうです。「ロゼ・デ・リセの熟成能力を示すために造った特別なキュヴェだから、10年待ってからリリースする」と決めているようです。造りからリリースまで、考え方が徹底しています。
話がまだシャンパーニュに行き着きませんが、長くなりそうなので、続きは別便でお伝えすることにいたしましょう。お待ちください。
(tex t & photo by Yasuko Nagoshi)
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