ワイン&造り手の話

年が明けてまもなくのこと。山梨の勝沼を訪問しました。2年前から不定期で開かれている、「オヤジ会」に参加するためです。

オヤジ会とは、グレイスワインこと中央葡萄酒のワインメーカー、三澤彩奈さんの私設応援団(笑)。一部の人たちからはアヤナ騎士団と呼ばれているようです。コンフレリー・デ・シュヴァリエ・アヤナ。うむ、悪くありません。

きっかけは3年前の仕込み時期、彩奈さんのやつれっぷりを心配したオヤジたちが、「一息ついたころにお疲れ会を開いてあげましょう」……と申し合わせたのがことのはじまり。会長は勝沼「ビストロ・ミル・プランタン」の店主、五味丈美さんです。

原則オヤジだけの会ですが、彩奈さんより若いホテル・ニューオータニ・ソムリエの藤谷くんがいたり、お目付け役(?)として五味さんの奥様の千春さんがいたり……。8名で始まったこの会も、今では12名。会員資格はよくわかりませんが、決定権は彩奈さんと千春さんが握ってるようです。

さて、今回で(たぶん)5回目になるオヤジ会。五味夫妻と彩奈さんがたまたま東京に出て来た場合を除き、山梨県内での開催です。昨年は年明け早々車にトラブルが発生し、不意の出費を強いられて涙の不参加でした。今年は泊まりと決めたこともあり、18時のスタート前に、フォルスター・ジャパンの諸澤さんやカメラマンの小松さんを引き連れ勝沼のワイナリーを回ることにしました。

Yoshio Amemiya

ダイヤモンド酒造の雨宮吉男さん。

最初に伺ったのはダイヤモンド酒造。ワインメーカーの雨宮吉男さんに昨年の作柄について尋ねると、「いや〜、日照不足でたいへんでした」とのこと。たしかに去年は日照量の少ない年でした。太陽光発電を導入している我が家でも発電量の少なさが響き、夏から秋にかけて売電料ー買電量は大幅な赤字です。

「それから収量も悩みのたねでした。11年のベト病のあと、12年、13年と豊作が続いたので、一部とはいえ14年もたくさんの実を樹に成らしちゃった農家さんがいたりして……」。日照不足のうえ多収穫では、熟度の高いブドウを得るのは難しい。農家さんに収量制限をお願いするのは、そう簡単ではなさそうです。

甲州やマスカット・ベーリーAをひととおり試飲させていただき、その中で気に入った2012年の「ますかっとベーリーA Y Carré de Hosaka」を購入。次の訪問先、ルバイヤートワインの丸藤葡萄酒工業へと向いました。

Haruo Ohmura

ルバイヤートワインの大村春夫社長。

お相手してくださったのは社長の大村春夫さん。まずは同じ質問です。

「甲州についていえば、気温が低かった分、酸が残ってバランスよかったかな」とポジティヴなお答え。「でも赤は難しかったね。色がつかなくて……」。難しくても、美味しいワインが出来ることを期待しています。

ところでルバイヤートといえばプティ・ヴェルド。発売前の2012年を試飲させていただきましたが、この品種、勝沼の気候にじつにうまく合ってるようです。「ちょっと野性味を帯びたカベルネ・ソーヴィニヨン」というのが、ボルドーにおけるプティ・ヴェルドの評価ですが、最適な土地で栽培すれば、カベルネを超える存在になるのかもしれません。

そうこうしてるうちに時間は過ぎ、横浜君嶋屋の君嶋社長と勝沼醸造で合流し、その夜に泊まる「富士野屋夕亭」に移動。チェックインを済ませ、「彩奈ちゃんに会う前に身を清めたい」というオヤジ2人が温泉から上がるのを待ち、会場の山梨市「割烹寿司いづ屋」へと向かいます。

ワインは各自持ち寄り。「高価なものはなるべく避け、彩奈さんに飲ませたいワインを持参」がお約束。私は彩奈さんがワイン造りに励むうえで、刺激になりそうなワインを選ぶことにしています。中国の同名ワイナリー、グレイス・ヴィンヤードのチェアマンズ・リザーヴや、ニュージーランドの日本人ワインメーカー、楠田浩之さんのクスダ・ワイン・リースリング、そしてこの日は篠原麗雄さんがボルドーのカスティヨンで造るクロ・レオでした。

今回のオヤジ会はオリジナルメンバーのひとり、平賀さんのご結婚祝いも兼ねていたので、みんなでプレゼント用のワインを彩奈さんにお願いしたところ、「キュヴェ三澤リッジシステム2009年」をご用意いただきました。さらに彩奈さんからこの日のサプライズワインとして、なんと門外不出の「キュヴェ三澤Inouï 2009年」がわれわれに振る舞われたのです。1樽300本こっきりのワイン。カベルネ・ソーヴィニヨン75%、メルロ15%、カベルネ・フラン10%の、いわゆるボルドー・ブレンドです。

 

いや、このワイン、ほんとに素晴らしい。肉付きよく充実したマチエール。ピュアな酸味がバランスをとり、ほどよいテンションを保っています。力強さとエレガンスを兼ね備え、スタイリッシュで洗練された味わい。「日本だから」とか「日本にしては」といった言い訳めいた枕詞を必要としない、まさに世界と伍することのできるワインでした。……と、褒めちぎってますが、ふつうには買えないワインの話ですみません。

ただ、彩奈さんがワイン造りに携わるようになり、グレイスの赤ワインが一皮剥けたことは間違いありません。ご本人は「一番の関心は甲州」と言われるでしょうし、「まだまだ父のレベルには達してません」と謙遜するでしょうけどね……。

18時に始まった宴会が終了したのは23時くらい。11人で空けたワインの本数は13本。みんなよく食べ、よく飲みました。われらオヤジたちの声援を受け、きっと今年も彩奈さんは素晴らしいワインを造ってくれるに違いありません。

(text & photos by Tadayuki Yanagi)

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