ブルゴーニュ道・入門 村の違いを知る/ニュイ・サン・ジョルジュ編② 〜ブルゴーニュのエキスパート 柳忠之さんに聞く〜
05/28
(前提の話=ニュイ・サン・ジョルジュの特徴は別ページにあります)
<3つの1級畑の立地の違い/レ・ダモード>
— この3本はどれも1級畑ですが、それぞれ畑の位置が違いますね。
柳 はい。レ・ダモードは、ヴォーヌ・ロマネに接した北端にあります。その先にあるヴォーヌ・ロマネの畑も同じように「ダモード」という名前ですけれど、つづりが違うんですよ。
— おっ、さすがに細かいですね。また、書いてみてもらえます?
柳 ニュイ・サン・ジョルジュでは damodes ヴォーヌ・ロマネのダモードは damaudes
ー 音はまったく同じでいいんですか?
柳 同じです。ただ、ヴォーヌ・ロマネのダモードでは1級でなく、村名です。
— あら、どうしてでしょう?
柳 実はね、ニュイ・サン・ジョルジュのダモードも、ひと続きでも上と下に分かれていて、上は村名、下は1級。
— あ〜。これだからブルゴーニュの畑はややこしいんですよね。めげそうです……。
柳 まあ、そう言わずに。で、レシュノーは、どちらにも畑を持っているので、昔はブレンドして村名で売っていたんです。でも、今は下の畑が増えたので、1級として単独で造れるようになりました。
— よかったですね。それで、ダモードの特徴は?
柳 ダモードはじめ、北部のニュイ・サン・ジョルジュの畑は、ヴォーヌ・ロマネの影響を受けてエレガントだといわれています。他にも、ラ・リッシュモーヌ、レ・ブードも同様ですね。
ー 土壌や標高はどんな感じでしょうか?
柳 ダモートは280から350メートルありますね。とても高い位置にあります。それに斜度が20%以上。歩いて登ったことがあるんですが、結構高かったですよ。ニュイ・サン・ジョルジュで、これほどの斜度の畑はなかなかない。
— それも影響してエレガントなんでしょうか。土壌は?
柳 表土が薄いですね。クライヴ・コーツの本には「小さな石ころがたくさんゴロゴロしている」と、書いてありますね。で、レシュノーのダモード、どうですか?
— 結構香ばしい香りが強いですね。
柳 ちょっと新樽の比率が高い感じがしますね。フィネスがあって、エレガントなクリマなので、もう少し新樽を控えてもらってもよいかなあ、と個人的には思います。
— きっと、こういうタイプを好きな人も多いのでしょうね。
柳 そうですね。造り手の主張がはっきりしたワインですね。
<3つの1級畑の立地の違い/レ・サン・ジョルジュ>
— では、レ・サン・ジョルジュに。これは、AOCニュイ・サン・ジョルジュの真ん中あたりにある畑ですね。
柳 はい。この真ん中あたりは、ストラクチャーがしっかりしてくる。ヴォーークラン、レ・サンジョルジュ、プリュリレ、ポワレ、などがそうですね。
— 土壌は?
柳 粘土とプルモー石灰岩ですね。プルモー石灰岩はきれいなピンク色をしていて、昔はカラーラ大理石より高く売れたといわれています。
— 建築材として?
柳 そう。レ・サン・ジョルジュ、上のヴォークラン、北のカイユは、ニュイ・サン・ジョルジュの3大テノールと言われている畑です。
— それだけ特徴的、ということですか?
柳 一番この村の中で、ニュイ・サン・ジョルジュらしいリッチでパワフルな畑だから。でも、一番パワフルなのはヴォークラン。カイユはエレガント。レ・サン・ジョルジュはその間にある、いい塩梅でもっている、とロベール・シュヴィヨンの息子のベルトランが説明してくれた。
ー 面白いですね。
柳 それで、この3つの畑を並べて飲んでみると、その違いがよくわかると思いますよ。
— いいですね。同じヴィンテージで比較試飲。
柳 フェヴレも、エルワンの代になってから、ワインが随分変わりましたね。アンリ・グージュも最近造りが優しくなってきたけれど、昔はガチガチで若いうちは飲みづらかった。
ところで、このレ・サン・ジョルジュは、のどごしがシルキーというよりも、少しタンニンが残るでしょう?
— あ、つい最近、バローロやバルバレスコとか、ネッビオーロをたくさん試飲してきたばかりなので、実はあまりタニックに感じないんですよ……。
柳 あ〜。でもね、ほら。舌の奥のほうにね……。
— だから、ジュヴレ・シャンベルタンに次いで、タンニンのしっかりとした男性的なタイプといえる、ということですね。
柳 それから、レ・サン・ジョルジュの、この舌にキュッとくるのがミネラルだと、リジェ・ベレールが言っていました。彼を訪問した時にはもう夕方で暗くなっていたのに、畑に行ったら石を持ってきて、洗って、なめさせられたのを覚えていますね。「これがミネラルだ」と。「ミネラルは味ではなくてテクスチャーだ」とね。
— 石をなめたんですか!? それは強烈な印象ですね。でも、タンニンも、味ではなくて触感、ですもんね。収れん性は味ではなくテクスチャー。
<3つの1級畑の立地の違い/クロ・ド・ラ・マレシャル>
柳 そう。最近、栽培や醸造技術の変化、温暖化の影響も含めて、果実味を全面に感じることが多いですけれど、やっぱりフェノールの多さが感じられる。南側斜面はヴォークラン、レ・サン・ジョルジュのあたりで、この力強さがピークとなるんです。そのすぐそばは少し似ていますが、そこから南に行くほど今度は徐々にマイルドな味わいになり、クロ・ド・ラ・マレシャルでそのマイルドさが頂点になるわけです。
— なぜですか?
柳 たぶん粘土に含まれる石灰質が強くなるからだと思う。クロ・ド・ラ・マレシャルは斜面が緩やかですね。5から6パーセント。レ・サン・ジョルジュは7から8パーセント。
— 確かに、とってもマイルドです。でも、この果実味の豊かさは、この造り手さんならでは?
柳 多分にその影響はあると思う。もともとシャンボール・ミュジニーの人なので「ニュイ・サン・ジョルジュを造っても、シャンボールみたいになってしまう」と言っていました。
ー 造っている場所はシャンボール・ミュジニーだから、シャンボール・ミュジニー自生の酵母とか、蔵つき酵母が影響するとか?
柳 それはあるかもしれないですね。
この畑はモノポール、ミュニエの単独所有なんですが、2003年まではフェヴレに貸していたので、ミュニエのラベルでは2004年ヴィンテージからなんです。
— フェヴレ時代のラベル、覚えていますよ。
柳 堅かったでしょ?
ー フェヴレ時代のクロ・ド・ラ・マレシャルは、お父さんの代のままだった?
柳 エルワンの代になったのが2004年だから、そう、全部お父さんの造り。がっちりだった。
— ヴィンテージは2012年ですね。いい年ですよね?
柳 はい。とっても。難しいヴィンテージだったので、量は少ないですけれど、品質は抜群にいいですね。
— どれも、もちろん長く置いておけそうですけれど、今でも美味しく飲めますね。
<まとめ>
— ニュイ・サン・ジョルジュは、面積が広くて銘柄や造り手の数が多いから、色々なタイプがある。昔はそれほど熱心でないところもあったので、垢抜けないイメージが残っている。という感じでしょうか?
柳 そんなところでしょうか。
ーでも、今は違うんですよね? 少なくとも、今日味見をした3種類は、とっても素敵でしたから。時代が移り変わり、現代のニュイ・サン・ジョルジュは垢抜けてきた、と断言していいでしょうか?
柳 はい。もっと注目度が上がっていいと思います。
ー あ、でも価格的にはどうなんでしょう?
柳 ヴォーヌ・ロマネよりは安いですね。
— ジュヴレ・シャンベルタンよりも?
柳 たぶん。
— じゃあ、お買い得ってことですよね〜。このまま価格は維持してもらいたいですね〜。あ、そうだ、そろそろ「〆」なんですが、何か言い忘れたことありませんか?
柳 おいしいですね〜。
ー (爆笑)
柳 レ・サン・ジョルジュは、力強さが後からきますね〜。
ー あ〜、一見ナヨッと見えて、あら、もっと力強そうな人がいいわ〜、と思ったけれど、さよならした後に思い返してみると、えっ? 意外にかっこよかったんじゃない!? って感じですかね〜。
<試飲した銘柄/北から>
ドメーヌ・レシュノー ニュイ・サン・ジョルジュ プルミエ・クリュ レ・ダモード DOMAINE LÉCHENEAUT Nuit-Saint-Georges 1er Cru Les Damodes
http://order.luc-corp.co.jp/shop/g/g101017306/
しっとりとしたスパイシーな香り。次第にロースト香が出てくる。なめし革。熟したラズベリー、チェリーも香る。なめらかなアタックながら、酸もしっかりしているので芯のある味わい。樽の要素も含めてタンニンの強さもある。
ドメーヌ・フェブレ ニュイ・サン・ジョルジュ プルミエ・クリュ レ・サン・ジョルジュ DOMAINE FAIVELEY Nuit-Saint-Georges 1er Cru Les Saint-Georges
http://order.luc-corp.co.jp/shop/g/g101016808/
よく熟した小さな赤い果実の香りが充実して、ほんのりとスパイスが香る。時間とともにスパイしーさが増してくる。しっとりとしたアタックで、バランスがとてもよい。酸とミネラル感が、果実の熟度と絶妙なバランス。細かなタンニンが、余韻にしっとりと残る、後をひく味わい。
ドメーヌ・ジャック・フレデリック・ミュニエ ニュイ・サン・ジョルジュ プルミエ・クリュ クロ・ド・ラ・マレシャル DOMAINE JACQUES-FREDERIC MUGNIER Nuit-Saint-Georges 1er Cru Clos de la Maréchale
http://order.luc-corp.co.jp/shop/g/g101017828/
果実の濃さが伺える、よく熟した濃縮感あるラズベリーやチェリーの香り。厚みがあり、スパイシーさも。なめらかな果実味があり、厚みやボリューム感も。若々しい果実ハリとフレッシュな酸が心地よく、タンニンはいくぶんまろやかに感じる。
(text & photo by Yasuko Nagoshi)
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