柳 忠之のマンスリー・コラム 第15回 シャトー・フェラン・セギュール30周年〜タイユヴァン・ブランドが東京に再進出
03/04
今年はガルディニエ家がシャトー・フェラン・セギュールを取得して30周年。一族のひとり、ティエリー・ガルディニエさんが来日し、ソムリエの方々を対象としたヴァーティカルテイスティングを開催しました。私はプレス関係の女性陣とのランチのあと、このテイスティングにも参加。今回はその模様をお伝えしたいと思います。
シャトー・フェラン・セギュールはボルドーのサンテステフAOCにあるシャトー。もとはクロ・ド・ガラメイとドメーヌ・セギュール・ド・カバナックというふたつのドメーヌでしたが、19世紀初頭にアイルランド出身のベルナール・フェランがひとつに束ね、現在のフェラン・セギュールを創設しました。そして1985年にこのシャトーを取得したのが、ガルディニエ家なのです。
来日したティエリーさんがシャトーの運営に参画されたのは90年代初頭のこと。真っ先に手を付けたのはブドウ畑でした。殺虫剤と除草剤の使用を止め、土を耕作。畑に散布する化学薬品は必要最小限に留める、環境に負荷をかけない栽培法に改めたそうです。
今日、フェラン・セギュールは70ヘクタールのブドウ畑を有し、カベルネ・ソーヴィニヨン60パーセント、メルロー40パーセントが植えられています。しばしば「粗野な」と表現されるサンテステフのワインですが、ティエリーさんが求めているのは「バランス」。「サンテステフには格付けシャトーが4つあるが、少なくともそのうちのひとつは凌駕している」と胸を張ります。どこのシャトーかはおわかりですね?
さて、テイスティングです。
2011年
香りも風味もやや閉じ気味で、まだ固い印象。もう少し柔らかみがあると想像していましたが、予想以上に力強い。若々しく、まだタンニンがまとまりに欠けていますが、時間が解決してくれるでしょう。
2010年
何もかもが巨大なワインです。色調も濃く、凝縮感に富み、アルコールのボリューム感もケタ違い。果実味たっぷりですが、過熟した感じも、煮詰めたようなニュアンスもありません。余韻がとてつもなく長く、高いポテンシャルを秘めたワイン。
2009年
エキゾチックで肉付きよく、グラマラスなワインです。カシスやブラックベリーなど黒い果実、それもコンフィのように濃縮したイメージがあります。ボリュームがあり、鷹揚で懐の深さを感じさせます。タンニンは溶け込み、すでに開いています。
2008年
中庸という表現はこのヴィンテージのためにあるのでしょうか。果実味、酸味、タンニン、アルコール感、何ひとつ突出することなくバランスよくまとまっています。クラスの中の目立たない優等生という印象。お料理と合わせて本領発揮です。
2007年
若いヴィンテージで今一番飲み頃なのは、この2007年でしょう。まろやかでしなやか。ストラクチャーにはやや欠けますが、口の中いっぱいに豊潤な果実味が広がります。価格的にもお手頃です。
2006年
なかなか手ごわいヴィンテージです。果実味とともにピュアな酸味がバランスよく、エレガントな印象を受けますが、タンニンがまだ溶け込んでいません。いわゆるクラシックなヴィンテージ。熟成によって開花する大器晩成型のようです。
2005年
果実の香りが大きく広がり、甘草などスパイシーなニュアンスを伴っています。完成度の高いワインで非の打ち所がありません。キメ細かなタンニンが果実味の中に溶け込み、ベルベットのような喉越し。でも今はまだもったいない。もう数年寝かせてから再会したいワインです。
2003年
ティエリーさんが「ブラインドでシャトーヌフ・デュ・パプと間違えたとしても当然」とおっしゃてましたが、まさにそのような感じのワインです。煮詰めた果実。エキゾチックでボリューム大きく、まろやかでしなやか。
2001年
当初の評価はあまりかんばしいものではありませんでしたが、後に再評価された2011年。フェラン・セギュールも例外ではありません。豊かな果実味にしなやかなタンニン。口中での余韻も長く、見つけたらぜひ買っておくべきヴィンテージでしょう。
1996年
2000年代のワインと比べて熟成感が顕著です。なめし皮や森の下草、それにミントなど複雑なフレーバーが感じられます。果実味と酸味のバランスがよく、ストラクチャーもしっかり。比較的いかり型の体格で、よい緊張感が漂っています。
1990年
素晴らしいワインです。25年経っても果実感をまったく失っておらず、さまざまな要素が渾然一体となっています。香りは複雑で、タバコ、森の下草、アールグレーの紅茶、ほんのりミント。タンニンは存在感を残しつつ、果実味の中に完全に溶け込んでいます。4級や5級の中には、これに劣るシャトーがかなりあることでしょう。
ところで、ガルディニエ家はシャトー・フェラン・セギュールを所有するだけでなく、ランスでもっとも有名にして豪奢なホテル・レストラン「レ・クレイエール」のオーナーであり、また4年前にはパリの「タイユヴァン」も取得しました。
「タイユヴァン」はご存知のとおり、パリきってのグランメゾンですが、2007年にミシュランの三つ星から陥落し、翌年にはオーナーのジャン・クロード・ヴリナ氏が死去。羅針盤を失った状態でしたが、ガルディニエ家の経営参画により、三つ星奪還を目指します。
タイユヴァンはガストロノミー・レストランのほか、ワインショップのカーヴ・タイユヴァン、それに2号店のラングル・デュ・フォブールがありました。ガルディニエ家はこの2号店を「レ・110(サンディス)・ド・タイユヴァン」にリニューアル。110種類のワインがグラスで楽しめるレストランとしたのです。
レ・110・ド・タイユヴァンは今年6月、ロンドンにもオープン。さらに2年後を目処に、東京にも出店の予定だとか! 丸の内、銀座、六本木、赤坂が候補地だそうです。110種類のグラスワインが楽しめるレストラン。今からわくわくしてしまいますね。
(text & photos by Tadayuki Yanagi)
最近のコメント