ワイン&造り手の話

ご存知のように「ボルドー」にはとてもたくさんのワインが存在しています。もちろん1級シャトーをはじめとする格付けワインなどは、価格高騰でなかなか手が出なくなりましたが、AOCボルドーやAOCボルドー・シュペリウールのワインは早く美味しく飲み始められて、しかも価格が手頃なのが嬉しいところ。その中でも各造り手によって個性が異なるので、お宝探しが楽しい一群でもあります。

 

ボルドー・アキテーヌ地方の試飲会に参加したところ、いくつか日本には未輸入ながら気になるワインが見つかりました。今回は、まずそのひとつをご紹介しましょう。

フレデリック・マリエ氏フレデリック・マリエ氏がオーナーの、シャトー・ド・ラ・ヴィエイユ・シャペルのワインです。ワイナリーのすぐ近くに、11世紀に建てられた古い礼拝堂があるというのが、命名の理由です。

 

サンテミリオンとボルドーの間、ちょうどリブルヌの北西あたりでドルドーニュ河沿いにあるようです。畑は7.12ヘクタールという小規模な造り手さんです。

 

樹齢75年のメルロ100%という2012年の赤「レ・メルロ・デ・ボード」、樹齢50年のセミヨン100%の2012年の白「レ・グラン・ブラン」を試飲しました。樹齢た高いことに加えて、価格のわりに(試飲用の冊子に蔵出し価格が記されていました)なめらかな口当たりでバランスが素晴らしく、とても気に入ったので、色々話を聞いていくうちに、面白いことを教えてくれたのです。

 

「うちには、フィロキセラ前からのもっと古いぶどうの樹も残っているよ」というのです。

ぶどう品種を聞いてみると

「ブシャレス」

聞き慣れない名前です。2009年にDNA鑑定をしてBouchalés だと判定がおりたといいます。

小粒で房も小さく、果皮は薄い。個性としては酸が高めでフルーティー。ただし、果皮が薄いのでカビに弱く(ボトリティスなど)、更に台木との相性が悪いために育てるのが困難なため、2008年現在フランス内で110haのみの栽培になってしまった品種です。

 

では、なぜマリエさんの畑に残っていたのでしょうか。土壌は砂か? と聞くと「違う、粘土だ」といいます。理由はフラッド・イリゲーションにありました。

この地域では、ドルドーニュ河の水を利用して、収穫が終了した後、冬の間にフラッド・イリゲーションをしていたそうです(1950年代初めから禁止となった)。そのため、フィロキセラがまだ幼虫のうちに、死没させることができたのでした。

 

シャトー・ド・ラ・ヴィエイユ・シャペルでは、プレ・フィロキセラのぶどうの樹が460株残っています。そのうち60%がブシャレス、30%がメルロ、残りの10%がまた色々なじみのない品種が多く、Peloursin, Mancin des Palus, Castet、コ(マルベック)、カベルネ・フラン、カルムネールなどが栽培されています。でも、来年と再来年にはセレクション・マッサールによってブシャレスをあと2ha増やす計画があるとか。

 

そうそう、気になるブシャレスのワインですが、Cuvée A&Aという名前でメルロとブレンドして600本から1,000本のみ造っているようです。メルロのふくよかさとブシャレスのフレッシュな酸があいまって……と、想像はするのですが、実はまだ試飲はしていません。「ボルドーまで来てくれたら、一緒に味見しよう!」と言ってくれましたから、何とかしてチャンスを見つけたいものです。

 

他の気になるアイテムについては、また次回!

 

<付記>

シャトー・ド・ラ・ヴィエイユ・シャペルChâteau de la Vieille Chapelleでは2008年から有機栽培を始めていて、2010年からはぶどう栽培にハーブも使用開始。バイオダイナミクスに移行済みで今年から認定される。

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

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